2025.04.30

サントリー“君は未知数”基金2024採択団体訪問記/大切なのは、巣立っていく“出口”を整えること。若者の居場所・仕事・住まいを支援する「サンカクシャ」の想い

サントリー“君は未知数”基金2024採択団体訪問記/大切なのは、巣立っていく“出口”を整えること。若者の居場所・仕事・住まいを支援する「サンカクシャ」の想い

「サントリー“君は未知数”基金」2024年採択団体のひとつである「特定非営利活動法人サンカクシャ」は、親や身近な大人を頼れない15歳から25歳くらいまでの若者の社会“サンカク”を応援する団体。居場所・住まい・仕事のサポートを通して社会とつながり、自分らしく生きていくことができるようサポートをしています。
今回は同法人が居場所として若者に提供している「サンカクキチ」に伺い、居場所事業のマネージャーを務める早川智大さんにインタビュー。活動内容やいま抱えている課題、今後の展開などについて聞きました。

生活の基盤となる3つのサポート

サンカクシャでは、15〜25歳くらいまでの若者を対象として「居場所」「住まい」「仕事」のサポートを行っています。“居場所”として開放しているのは、東京都豊島区上池袋にある「サンカクキチ」。火・木曜日の15〜21時、水・土曜日の16〜22時にオープンし、利用は事前登録制で無料。夕食も無料で提供しています。漫画や本、ボードゲームなどがあり、思い思いの時間を過ごすことができます。

また、夜に行く場所がない若者のために、毎月第2・4金曜日は21時から翌朝まで「ヨルキチ」として夜通し開放。仮眠スペースも用意しています。

サンカクキチの内観
サンカクキチ。イケア・ジャパンから内装の提案と家具の寄贈を受け、くつろげる空間になっている
サンカクキチにあるゲーム部屋
サンカクキチの一室には、ゲーミングPCが8台設置されたゲーム部屋もある

住まいのサポートでは、若者たちに安心して暮らせる住居を提供。東京都豊島区と北区に4軒のシェアハウス「サンカクハウス」と1軒の個室シェルター「サンカクシェルター」があり、合計で22室を用意しています。サンカクハウスの家賃は光熱費込みで4万5千円。サンカクシェルターは、生活保護等を受給している人が利用することも考慮し、生活保護者が受けられる家賃補助を加味した5万円台前半の賃料が基本になっています。

サンカクハウス上池袋NRのリビング

また、仕事のサポートでは、若者の仕事探しに伴走。地域の企業から仕事の依頼を受けて働く機会を提供し、スタッフやボランティアと一緒に仕事をこなす「サンカククエスト」を実施したり、一緒にアルバイトを探したりと、働く自信を身につけるためのサポートを行っています。

サンカククエストの参加者は、年間で50名ほど。50社ほどの企業からもらう仕事の内容は、封入作業などの軽作業から、畑仕事の手伝い、イベント運営や物資の搬入搬出などさまざまです。賃金にも幅があり、それぞれの興味やスキルに合わせて仕事をマッチングしています。

サンカククエストには、封入作業(上)や畑仕事(下)などいろいろな仕事がある

早川さんはサンカクキチについて、「利用者は多いときで1日に20人を超えます」と話します。

「利用者の年齢層でいちばん多いのは20代前半でしょうか。実は、現在利用している若者のうち、15〜17歳は決して多くはありません。というのも、学習支援にプラスして居場所支援がされていたり、放課後にいられる場所の提供という考え方だったりと、居場所に関する支援は学校にひもづいていていることが多いんです。それらの支援に対象になるのは各学校に在籍している間だけの場合が大半ですし、スクールソーシャルワーカーとの関わりも在学中が中心なので、学校を卒業する18歳になると対象から外れてしまう。18歳は成人に切り替わるタイミングでもあるので、児童福祉法的にも“子ども”ではなくなります。そういった事情から、サンカクキチにくるのも18歳以上の年代が多くなっています」

特定非営利活動法人サンカクシャ 居場所事業 マネージャーの早川智大さん

また、利用者はみな居場所を求めてサンカクキチにたどり着きますが、ひもといてみるとその事情は一人ひとり異なるといいます。

「ひとりで過ごせる静かな場所がほしいというパターンもありますし、自分の思っていることを話せる相手がほしいという場合もあります。ほかにも、ごはんが食べられる場所がほしい、安心感が得られる場所がほしいなど、パターンはすごくたくさんあるんです。

ただ、サンカクシャにつながってくる子たちは、親との関係がよくない、あるいは貧困を抱えているケースが比較的多いです。それゆえに、幼少期のさまざまな体験、たとえば失敗から立ち直る経験や、人間関係を構築する経験が少し欠けている子が多い印象があります」

続けて、「住まいのサポートとして提供している住居の利用率は、基本的にいつも100%」と早川さん。空き待ちもあり、1人退居すればすぐに別の誰かが入居するという状態だそうです。問い合わせは本人からのほか、福祉事務所や児童相談所からつながってくることも。このことからも、切実な事情を抱える若者の多さがうかがえます。

“出口”を整え、適切な循環を生む

「居場所」「住まい」「仕事」のサポート以外にも、若者支援という社会課題の認知を広げたり、若者と大人がカジュアルに関われる場をつくるために、チャリティイベントを主催しています。たとえば、若者と大人がチームを組んで皇居のまわりを走る「みんなで100kmマラソン」や、若手お笑い芸人とサンカクシャの若者・スタッフが漫才やコントを披露する「お笑いライブ【スポットライト】」。また、サンカクキチの近所にあるレンタルスペースで雑貨店やコーヒースタンドを出店するなど、若者が社会と接点を持つさまざまな機会を創出しています。

2024年12月に実施した「みんなで100kmマラソン」
お笑いライブ【スポットライト】の様子
「お笑いライブ【スポットライト】」は2025年3月に開催

多様な活動があるなかで一貫して大事にしていることについて、「“若者たちのために”という目的意識が念頭にあることが大事」と早川さん。「若者になにが必要なのか」「これがあったらもっとうまくいくんじゃないか」という考えを常に頭に置きながら活動を行っているそうです。

「そのうえで、支援する姿勢が強すぎると若者たちが離れていってしまうので、いかにフラットに関われるかということはすごく考えます。若者から、公的なものに対する不信感をときどき感じるんですよね。だからいかにも支援者みたいな立ち居振る舞いで関わると、距離を取られてしまう。支援者ではなくいち個人として関わることが非常に大事だなと感じています」

続けて、現在抱えている課題についてこう話します。

「これまで、居場所と住まいの事業を通して安心の土台みたいなものはつくることができたのですが、仕事や社会参画という点では体験の域を出ていませんでした。でも、一定の継続性を持った活動というのがすごく大事なんです。

たとえば、2024年にある企業とコラボして1週間店舗で働かせてもらうプロジェクトがありました。それに参加した子が自信をつけ、その後アルバイトを始めていまも続いています。やっぱりある程度の期間をかけてやりきった体験が必要なんだと感じましたし、それがひいては居場所や住まいの“出口”につながっていくんだろうと思いますね」

企業と連携した就業プロジェクトの様子

このような課題を解決するために団体内で議論を重ね、新たな試みを始めているといいます。2024年にはクラウドファンディングを実施し、700名以上の賛同者からおよそ1700万円の資金を調達。それを活用して、“出口”のひとつとなる仕事の支援に特化した拠点をつくるべく、自治体等と連携しながら計画を進めています。

「学校にひもづいた支援の場合は卒業という区切りがありますが、僕らにはそれがない。一応支援対象は25歳くらいまでとしていますが、そこでぷっつりと関係が切れてしまうわけではありません。いい休める場になることもある一方で、それが過ぎるとエネルギーを奪ってしまう心配もあるので、次の場所や、同時にほかにも過ごせる居場所を見つけられるようなサポートをきちんと整えていくことが必要なんだろうと思います。

ここで過ごすなかで、自分なりにやりがいみたいなものを見つけて巣立っていってほしい。そのあとは、実家と下宿ではないですが、なにかあったら戻ってくればいいし、場合によっては利用者だった子が寄付者になったり、スタッフになることがあってもいい。そんなふうに、適切な循環が生まれればいいなと思います」

原点に立ち返り、さらなるサポートの拡充を

サンカクシャは、「サントリー“君は未知数”基金」の採択事業として、虐待等の影響により「家にいたくない」10代の若者に特化したサポート体制の強化を行っています。具体的には、サンカクキチの開放時間を「20歳以下」と「20歳以上」で分け、曜日の配分も再検討。年齢別に分けることで利用しやすくなり、より個人の事情に寄り添った支援を行えるようになります。現在(2025年3月取材)は、2025年4月以降に組織の体制を大きく変更できるよう、準備を整えているところだそうです。

一方、資金確保についても、より良い方法を模索しているところです。これまでは助成金が中心でしたが、近年はその割合を少しずつ減らし、かわりに寄付金が増えているそう。企業からの寄付に加え、月額で寄付ができる「マンスリーサポーター」も徐々に増加しています。

マンスリーサポーターのプラン一覧
マンスリーサポーターには月額別に4つのプランがあり、500円単位で増額することもできる

「継続的な事業を適切に運営し続けるための土台として、寄付の割合は今後も継続して増やしていきたいですね。ただ、助成金のように、新規事業を立ち上げる際にドライブをかけてくれるものも必要です。なので、個人からの寄付と、企業からいただける大口の寄付と助成金、これらを上手にバランスをとりながら活用していきたいと考えています」

サンカクシャは、団体や活動への認知を広げるために、広報活動にも力を入れてきました。テレビをはじめとしたメディアの取材を積極的に受けるほか、YouTubeライブで事業報告を行ったりしています。TikTokではライブ配信のほかショート動画を投稿し、「TikTok Awards Japan 2024」でTikTok for Good部門に選出されました。

サンカクキチの内観
サンカクキチは、「若者のための過ごせる相談窓口」として2024年度にグッドデザイン賞を受賞。事業への認知を広げる一助となった

広報活動の影響について「団体の立ち上げ当初は行政の窓口からつながってくることが多かったのですが、いまは若者がSNSでサンカクシャを見つけ、自ら問い合わせてくることもかなり増えました」と早川さん。2019年の設立後、事業が広がるにつれて利用者の層もシフトしてきました。たとえば、サンカクキチは当初居場所がほしい若者のみが利用していましたが、徐々にサンカクハウスに入居した人が昼間来られるサードプレイスとしても使われるようになったり。早川さんは「団体の変化にともなって、サンカクキチが持つ居場所の意味も徐々に変わってきました」といいます。最後に、今後の活動への想いをこう語りました。

「まずは、しっかりと事業を運営できる体制を再構築することがいちばん。そのことが、ひいては若者たちによりよい影響を与えることにつながると思います。そのためにも、あらためて“居場所事業”と名付けたときの原点に立ち返り、ただ空間を運営するだけではなく、若者たちがそれぞれに安心できる場所を得られるサポートを充実させていきたいと思っています」


【特定非営利活動法人サンカクシャ】
東京都豊島区上池袋4-35-12 3F
https://www.sankakusha.or.jp/