2025.04.30

サントリー“君は未知数”基金2024採択団体訪問記/人口1万人のまちで「miraito」が取り組む、多機能多世代のインクルーシブな居場所づくり

サントリー“君は未知数”基金2024採択団体訪問記/人口1万人のまちで「miraito」が取り組む、多機能多世代のインクルーシブな居場所づくり

人口およそ1万人の岩手県岩手町にある「いわてユースセンターミライト」は、中高生たちがそれぞれの目的で過ごす、学校でも家でもない第3の居場所。仲間や地域の人と出会い、アクションを起こす場として「特定非営利活動法人miraito」が運営しています。「サントリー“君は未知数”基金」の事業で、地方だからこそできる機能を分けないインクルーシブな居場所づくりに取り組む同団体は、若者の力を活かした持続可能な運営のあり方を模索しています。

2年間で育まれた若者たちのコミュニティと地域とのつながり

miraitoは、東日本大震災をきっかけに学生による復興支援団体として立ち上がった「特定非営利活動法人SET」から生まれた団体です。SETは2013年に法人化して以来、岩手在住メンバーと首都圏の大学生メンバーを中心に、若者と地域のためのさまざまな事業を通して「まちづくり」と「ひとづくり」に取り組んできました。2023年には、いわてユースセンターミライト(以下、「ミライト」)を開設。そして、岩手県北に根ざした子ども・若者支援をより専門的に行うために、県北エリア長である上田彩果さんが理事長として新法人のmiraitoを立ち上げ、2025年4月1日にSETからユースセンター事業の譲渡を受けることになりました。

ミライトは、1階は子どもから大人までのみんなの居場所として地域に開かれ、2、3階のユースセンターに訪れる中高生や大学生と地域とのゆるやかなつながりを生み出しています。

2025年3月15日(土)、16日(日)に開催されたミライト2周年記念イベント「マイフェス〜My favorite story festival〜」では、40人以上の中高生や大学生、社会人がスタッフとして運営に参加し、これまでそれぞれが取り組んできたアクション(マイプロジェクト)を、地域内外からの来場者に向けてお披露目しました。

3階建ての「いわてユースセンターミライト」。いわて沼宮内駅から歩いてアクセスできる距離にあり、電車で訪れる高校生や大学生も多い
普段から地域の大人たちも利用する1階のカフェスペース。壁にはミライトを訪れた若者たちの「やってみたいこと」がたくさん貼られている
手づくりおはぎを振る舞っている様子
マイプロジェクトを紹介した掲示物
中高生や大学生一人ひとりの「やってみたい」から生まれたマイプロジェクトの数々。手づくりおはぎの振る舞いは町内の中学生によるアクション
中高大学生がパーソナリティを務めるwebラジオの公開収録風景。ゲストもミライトを利用する若者たち。それぞれの活動や地域への想いを聞く
食堂でカレーが振る舞われている様子

イベント当日のミライトは、中高生や大学生を中心に、未就学児を連れた家族やシニア層まで、あらゆる年代が入り混じっていました。スタッフも来場者も1階から3階までのイベント会場を行ったり来たり。さまざまな遊びや中高生のプロジェクトの成果発表、地元の子ども食堂の協力で振る舞われたカレーなどを楽しんでいました。

人の少なさが生み出す多様性を基盤にしたまちづくり

普段から岩手町内の中学生や町内外の高校生、そして県内外からの大学生が入り混じって運営されるミライト。落ち着ける居場所を求めて通う子、誰かと話して自分の思いを発散したい子、やりたいことを表現する場として活用する子など、その利用の目的はさまざまです。それぞれの目的で来た人がミライトで出会うことで、多様な年代が少しずつ混ざり合い、誰かの「やりたい」が「できた」に変わっていきます。

学生時代からSETに参画し、現在miraitoの副理事長を務める川島レラさんは、同施設がつくりだす交流や融合の力を日頃から肌で感じているといいます。

「ミライトに来る中高生は、支援が必要な子もいれば、なにかをやりたいアクティブな子もいます。学校だと学年やグループで分断されているけれど、ここでは年齢も住む地域も利用の目的も違う、いろんな子が入り混じっているので、所属や年齢をあまり意識せずにしゃべれたり、純粋に居場所として利用していた子が次第にアクションを起こし始めたりという風景が見られます。ここに来る子たち自身が、ミライトには明確な分類や境界がない場所だとわかっているので、きっかけさえあれば交わりやすいのかもしれません」

特定非営利活動法人miraito 副理事長の川島レラさん

ミライトのイベントやプロジェクトには、若者だけでなく地域の大人が関わることもあり、地域の大人の企画を学生たちがボランティアとして手伝うこともあります。その関係性のつくりやすさはまちの規模と無関係ではないと、miraitoの理事長を務める上田さんは考えます。

「人がたくさんいる都会では、同じ属性や似たような感覚の人たちが集まる場ができていきますが、人口1万人くらいの地域では自分と違うから関わらないというわけにはいきません。町内の高校は1学年が20人くらいの規模で、ミライトに来る中高生たちは本当に十人十色です。まちの機能を成り立たせるためには、自分とまったく違う人だとしても、違いを知りながらやっていくしかない。最初はたとえば草刈りや雪かきでも一緒にやって、長期的な目線で協働を模索していく。そのなかで、バラバラな一人ひとりがいるからこそつくっていける社会があるということを実感することができます。私たちもこのまちで、それを子どもたちと一緒に学んでいます」

特定非営利活動法人miraito理事長の上田彩果さん(右)

学生が活躍する仕組みづくりと岩手町の立地が生み出す融合

ミライトの誕生以前から岩手町、一戸町、葛巻町の事業として、広域で高校生に向けた地域の探究学習支援を行っていたSET。大学生のインターンがワークショップや発表に伴走し、高校生が地元を離れても地域とつながり続ける仕掛けづくりをしてきました。インターンやボランティアとして活動に集まる大学生たちは、居住地も所属する大学もさまざまです。主に首都圏から週末や長期休暇を使って岩手に滞在し活動に参加するため、家族のようなチームができていくと上田さんはいいます。もともと学生団体として立ち上がった背景から、学生が第一線で活躍する仕組みをつくり、学生リーダーがプロジェクトチームを引き継ぐ形で活動が継承されています。

「大人が学生をまとめるのではなく、学生のリーダーがチームをマネジメントしていくやり方は、私たちが大事にしている活動方針のひとつです。設立当初からの14年間で蓄積された活動やネットワークがあり、学生たちがその想いをつないでいってくれます。また岩手町は東京からも盛岡からもアクセスしやすいので、さまざまな地域の学生の融合が生まれていきました。特に活動がなくても学生が滞在して、子どもたちの勉強を見たり、企画や広報を手伝ってくれたりと、岩手町の立地の良さが地域とのつながりづくりを促進してくれている感じがします」

ミライトに掲示された岩手県北エリアでの大学生インターンの活動報告

子どもや若者の支援を地域と一緒に考え持続可能なものに

岩手町で若い世代のエネルギーが集まり、年齢や属性、価値観の違いなど、あらゆる境界を越えたインクルーシブな居場所となっているミライト。その目指す姿は、子どもや若者に向けた支援を、行政や福祉、教育機関、そして地域の大人たちと一緒に担っていくことです。人口規模の小さな自治体で持続可能な居場所づくりをしていくには、地域のなかでの連携が欠かせません。施設オープンから2年が経った現在の課題を、上田さんはこう話しました。

「この2年で、ミライトの若者たちが地域のなかで活動する機会も生まれるようになりました。それでもまだまだミライトの役割や意義が、地域の大人たちに十分に理解されてはいないので、まずは居場所を必要とする子どもたちが『困ったときに行ける場所』なんだということを知ってほしい。それには保護者や地域の方に安心できる場所だと認知してもらえる関係づくりが重要です。また18歳以上で就労困難や貧困などの問題を抱えていても、行政の支援の枠に入らない若者たちもいます。あるいは現状の福祉の枠組みでは、本人の困難度合いに合った支援が受けられないケースもある。こうした層の支援は、行政や社会福祉協議会などとの連携がもっと必要だと感じています」

首都圏で活動する児童の発達支援団体での研修を経験した川島さんは、自治体規模による支援の違いを再認識し、小規模自治体だからできる自分たちらしい支援のあり方を模索していました。

「大きな都市では人がたくさんいる分、支援やサポートの段階が細やかに分けられていると感じました。都会のほうが一人ひとりの特性に合った支援が見つかりやすい。ここでは人口が少ないから、生きづらさを抱えていても、いまある行政支援の区分にフィットしない若者たちもいます。そこは多機能多世代の居場所づくりをする私たちが、今後いかにアプローチしていくかというところだと思います」

岩手町が募集した、子ども・子育て支援事業計画に対するパブリックコメント。ミライトを利用する若者たちもみんなで計画を読み、児童育成支援拠点事業や意見聴取のあり方に関するさまざまな意見を出した

ステークホルダーが限られているからこそできる、地域のなかでのつながりづくり。機能を分けないからこそ生まれる相互理解や、若者の地域への参画。こうした動きを生み出す人材の確保について、上田さんはこう語りました。

「ボランティアや副業的に関わってくれるメンバーが、いまは地域のなかに結構います。遠方からイベントやプロジェクトに一緒に取り組んでくれる学生メンバーもたくさんいます。専門人材の雇用やマネジメントができるメンバーを増やしたい思いもありますが、本業としてmiraitoの職員となる仲間を増やすには、財源確保という大きな課題や、移住というハードルもあるのでなかなか難しい。ただ人口減少社会のなかでは、副業的に関わってくれるメンバーを増やしていく方向性のほうがいいのかもしれません。私たちと同様に、行政や企業の若手も同世代の仲間が少ないというのがこのまちの現状です。だからこそミライトの活動を拠点にした若者コミュニティは、お互いにとって嬉しいものになっていると思います」

若者たちがつくり出す場のエネルギーと未来へ希望

単年度の助成金が運営を支える多くの団体で課題として挙げられる、人材や資金の確保。職員のキャリアパスをどう考えていくかは地域性によらず共通の悩みであり、さらに人口規模の小さな地域では、地元企業などからの寄付も集まりにくいという現状があります。

「地域のなかでは食材提供やイベントのお手伝いなどは集まりやすい反面、お金での“寄付”へのハードルの高さをとても感じています。これまでSETではマンスリーサポーターという形で寄付を集めていましたが、それは主に首都圏のOB・OGや、これまでの活動でつながりのあるみなさんからの寄付です。関係人口を増やすという意味では、首都圏からのマンスリーサポートが増えていくのはとても嬉しいことです。その一方で、ミライトの運営を小規模人口地域での持続可能な若者支援のロールモデルにしていくことを目指すときに、行政委託や国の助成金など公的な財源についてや、地域の中で若者支援をどう支えていくかというところは探究していきたいと思っています」と上田さん。

まちの規模による必然性がミライトを多機能多世代な居場所とし、若者たちはそこでの活動を通して自分自身や地域のことを考え始めます。若者を支援する大人たちは、ミライトに集まる若者たちの姿に地域の未来への可能性を見出し、支援のあり方や関わり方をともに模索する仲間となっていく。人にもまちにもポジティブな変化をもたらす共創の輪が、ミライトから広がり始めています。

ミライト2周年イベントでのトークの様子
ミライト2周年イベントのクロージングでは中高大学生が登壇し、岩手町副町長や近隣の一戸町教育長も交えトークを展開。若者たちの地域への想いに拍手や歓声も沸き、熱気あふれる時間となった
ミライト2周年イベントでのスタッフと参加者の集合写真

【特定非営利活動法人miraito】
岩手県岩手郡岩手町江刈内10-8
https://miraito.org/

いわてユースセンターミライト
開館時間/金16:00〜19:30、土・日13:00〜17:00

※旧運営法人
特定非営利活動法人SET
https://www.nposet.org/