Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ネバダ

ブルガル ブランコ 3/5
ライムジュース 1/5
グレープフルーツジュース 1/5
砂糖 1tsp.
アンゴスチュラビターズ 1dash
シェーク/カクテルグラス

ホット・バタード・ラム

ブルガル アネホ 30ml
角砂糖 1個
バター 1片
熱湯 適量
ビルド/温めた耐熱タンブラー
角砂糖、ラム、熱湯を入れ、
バターを浮かべる
好みでシナモンスティック
を加えてもいい

雪ではなく、砂だった

アーネスト・ヘミングウェイの『海流の中の島々』(新潮文庫)は、若い頃のわたしにとってはカクテルブックのようなものだった。ホワイトラムベースのメジャーなカクテルのひとつ「ダイキリ」のアレンジ、「フローズン・ダイキリ」はこの作品を読んでから飲むようになった。

作中、ハバナにあるバー、フロリディータのバーテンダー、コンスタンテがつくる「フローズン・ダイキリ」を“粉雪蹴散らしながら氷河をスキーで滑走する心地”と表現している。この一文がアタマに刻まれ、フローズンでなくても「ダイキリ」を飲めばスキーの気分に浸るようになる。

ところがある時「ネバダ」というカクテルに出会い、「ダイキリ」よりも好きになってしまう。ホワイトラムにライムジュース、少量の砂糖をシェークするのが「ダイキリ」のレシピ。「ネバダ」はそのレシピにグレープフルーツジュースと微量のアンゴスチュラビターズ(ラムにリンドウの根の苦味成分などを配合)が加わる。

最初に「ネバダ」を口にした印象は、涼やかな朗らかさである。ラムの香りにフルーティーな甘酸っぱい味わいが重なり、華やぎがある。粉雪蹴散らす感覚とは違う、なんだか春が待ち遠しくなるような味わいだった。

そこで思い浮かんだ。ヘミングウェイに倣うならば、これは春スキーではなかろうかと。ハードシェークされてグラスに満たされると液面に細氷が浮かび、口に含めば春雪をスキーで滑走する心地よさがある。

真冬のパウダースノーを満喫した後の3月の雪はスキーヤーにとっては手強い。でも温もりのある日の光に眩く光るザラメ雪を滑走しながら、麓の村や町にもうすぐ本格的な春が訪れることを知ることができる。

それからというもの「ネバダ」を飲みながら、こうした冬の名残と春の新たな芽吹きへの期待が交錯する感覚を覚えるようになった。



文豪に倣ってイメージを膨らませたのはいいが、実は長く勘違いもしている。30代半ばまで、「ネバダ」をスペイン南部のアンダルシア州グラナダ県に位置するシェラネバダ山脈のスキーリゾート地をイメージしながら飲んでいた。スペイン語のシェラネバダとは“雪に覆われた山脈”であり、勝手にヨーロッパで最も南に位置するスキーリゾートから生まれたカクテルに違いないと思い込んでしまっていた。

かつてスペインが領有権を主張し、メキシコの支配下だったこともあるアメリカ西部のネバダ州にもスキーのできる同名のシェラネバダ山脈はあるのだが、ホワイトラムはカリブ海に浮かぶ元スペイン領の国々の名産であるし、とにかくカクテル「ネバダ」はスペイン、そしてアンダルシアの春スキーでなくてはならないと決めつけていたのだ。

ある夜、バーテンダーから、ラスベガスのあるネバダ州、それもシェラネバダ山脈にあるスキーリゾート地ではなく、砂漠のある乾燥地帯で、渇きをいやすカクテルとして考案されたものだと聞かされた。な、な、なんとアメリカか、砂漠か、と愕然とした。

他人にしてみれば、きっとどうでもいいことだろう。わたしにとって雪ではなく、砂という事実は、ショックなんてものではなかった。

冬は温かいダークラム

ここ最近、「ネバダ」のホワイトラムはドミニカ共和国産の「ブルガル」を選ぶようになった。カリブ海地域では圧倒的シェアを誇る、人気No.1ラムだ。

ドミニカ共和国のあるエスパニョーラ島では16世紀初頭にはサトウキビのプランテーションがおこなわれていたそうで、いまでも上質なサトウキビ産地として知られている。「ブルガル」の原料はもちろん100%ドミニカ産のサトウキビで、「ブルガル ブランコ」(Blanco/スペイン語/白)は2回蒸溜を経た原酒をホワイトオーク樽で12~16ヵ月間熟成し、そしてチャコール濾過を3回おこなう。濾材はカリブ海に浮かぶ島らしく、ココナッツの殻(強靭なロープにも加工される繊維質の厚い外皮)を炭化したものらしい。

こうした工程から生まれる「ブルガル ブランコ」はすっきりとしていてドライな切れ味を特長としている。人気のカクテル、「モヒート」のベースとしても活躍するし、手軽にコーラで割る「キューバ・リバー」にもふさわしい。そして「ネバダ」のようなフレッシュフルーツと甘みを加えたフルーティーな味わいのカクテルにも生きる。



ホワイトラムの話ばかりなので、最後にダークラムについても触れておこう。

オールドを指す「ブルガル アネホ」(Anejo/スペイン語/古い)は2回蒸留後、ホワイトオーク樽で2〜5年熟成した原酒を、ブルガル社のラム・エキスパートが長年培った熟練の技を駆使してブレンドしている。ダークラム特有のチョコレートやキャラメルのような香味に、ウッディな感覚が潜んでいる。

ストレートやロックだけでなく、まだ寒さのつづく季節には温かいカクテルにしていただくといい。バターと角砂糖を使う「ホット・バタード・ラム」は風邪気味のときにも安らぐ味わいだ。もちろんスキーやスケートの後にもおすすめである。

ラムはカリブ海の酒なのに、カクテルの話となるとどうしてもウィンタースポーツにアタマが向いてしまう。ヘミングウェイのせいだ。

(「ブルガル」は現在取り扱っていません)

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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