Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

「スノースピリット(雪の精)」Recipe Snow Spirit

シングルモルト
ウイスキー山崎
20ml
ジャパニーズ
クラフトジン ROKU
15ml
ビルド/ショットグラス
材料、グラスともによく冷やす。グラスに山崎、ROKUを注ぐ。

冴えたクールな感覚がもたらす温かみ

雪への想いは十人十色であろう。山深い里に降り積もる雪もあれば、ビルが林立するコンクリート都市に降る雪もある。

ときに苦悩をもたらし、忍耐を強いられることもある。一方で眩く輝く銀世界にこころ躍るシーンもある。天空の遠い国から舞い降りてくる白く冴えた小花のメッセージは、受け取り手それぞれに異なる想いをもたらす。

名曲『雪の降るまちを』は転調を繰り返す。想い出が通り過ぎ、足音が追いかけてゆく、と短調で侘しく切ないこころを語り、長調に変わると明るい温かな希望を歌い上げる。

親しいバーテンダーとの遊び心から生まれたカクテルを見つめていると、この忘れかけていた名曲が突如としてアタマのなかに浮かび上がった。

 

冷凍庫で霜を纏ったショットグラスには、これもまた冷えたスピリッツ、「シングルモルトウイスキー山崎」と「ジャパニーズクラフトジンROKU」のミックスが湛えられている。

短調的な凍えるほどの感覚が舌に沁みるのだろうか、と身構えながらグラスを口元に誘う。たしかに冴えたクールな感覚が唇に伝わる。ところが冷やされ、ロックされていた香味が口中でほぐれていくといきなり長調に変わり、独特の温かみが広がっていく。そのしなやかさに驚かされる。

この温かみはスピリッツがもたらすアルコール感といえばそれまでだが、なんといっても「山崎」が抱いている甘く煌めくような滑らかさが効いている。「ROKU」の和のボタニカルの香味をうまく包み込んでいるのだ。そして後口に「ROKU」のスパイシーさがそよ風のように浮遊してきてとても心地よく、素敵なアクセントになっている。

柔らかくしなやかな甘みとすっきりとしたスパイシーさが見事に溶け合い、スピリッツ愛飲家にとっては最高のカクテルといえるだろう。とくにウイスキーファンには魅力的な味わいではなかろうか。

切なさをともなう、わたしの好む味わいでもあり、飲みすすめていくうちにひとつの物語を思い出した。

カクテルの結晶が導く雪の精の物語

ドラえもんシリーズに『精霊よびだしうでわ』(小学3年生1980年3月号初出/小学館)がある。わたしはTV放送で観たのだが、大人のこころにも沁みる切ないラブストーリーである。ちょっと物語ってみたい。

野比家のストーブの灯油が切れてしまい、寒さのあまり温まろうとして、ドラえもんは精霊を呼びだす腕輪をポケットから取り出し、火の精を登場させる。ところが火の精は暴れん坊で、大騒ぎになってしまう。

のび太はどうせ寒いならば、とその腕輪をしたまま外で遊ぼうとすると雪が降ってきた。のび太は「寒いのは雪のせいだ」と言いながら腕輪に触れてしまう。すると可愛らしい女の子の姿をした雪の精が現れる。

じゃんじゃん雪を降らせる雪の精は、のび太といっぱい雪遊びをする。雪の精はジャイアンやスネ夫を懲らしめ、しずかちゃんまでも追っ払ってしまう。家のストーブが点いたよ、と呼びに来たドラえもんもどこかへ吹き飛ばす。とにかくのび太と一緒に遊ぼうとするのだった。

なかなか家に帰してくれなかったのだが、なんとかのび太は帰宅する。ところがのび太は高熱を発して寝込んでしまう。外は大雪となり交通機関は麻痺。医者も往診できない事態となった。

すると、枕元に雪の精が現れ、のび太の額に手を添えて熱を吸収しようとする。それに気づいたのび太が、君が消えてなくなっちゃうじゃないか、と言うと、雪は消えるもの、風邪を引かせるつもりはなかった、あなたのことを好きになってしまったから、と雪の精は謝り、涙をこぼす。

翌朝は好天。雪はすっかり消えてなくなっていた。ドラえもんは、春はもうすぐだ、と喜ぶ。のび太は肩を落としてただ遠くを見つめるのだった。

 

名曲や雪の精の物語を呼び覚ましたのは、「山崎」と「ROKU」それぞれに雪につながる想いがわたしのこころのなかにあるからだろう。

1984年3月に「山崎」ブランドは誕生している。製品化される瓶詰め前の最終段階、冷却して白濁物質をフィルター濾過する工程時、山崎蒸溜所には雪が散らついていたという。

濾過は夜遅くまでかかった。携わられた職人の方が仕事を終えて外に出ると震えるほどの寒さだった。しかしながら冴えた夜空から白く舞い降りてくる雪がとても綺麗で、しばらく見惚れてしまうほどであった。

その方はすでに引退されていらっしゃるが、蒸溜所に雪が美しく舞い降りた夜のことがずっと印象に残っていて、それが愛着のある「山崎」の思い出のひとつになっている、とおっしゃっていた。

「ROKU」はジュニパーベリーをはじめとした8種のボタニカルを基調としたジン原料酒に、和のボタニカル6種(八重桜の花、大島桜の葉、煎茶、玉露、山椒の実、柚子の皮)の原料酒がブレンドされており、六角形のボトルに満たされている。そして雪の結晶は六角形である。

冷やされた「山崎」と「ROKU」の切なくて美味しいカクテルの結晶が記憶を呼び覚まし、物語を結んでくれたのだろう。

のび太のラブストーリーへの想い入れもあり、カクテル名は迷うことなく「Snow Spirit」(雪の精)とした。

冷やして簡単にミックスすればいい。カクテルはジャズである。型にはめるものではない。自分好みの配合比を見つけて楽しんでいただきたい。わたしは「山崎」20ml、「ROKU」15mlがベストであった。

自宅で気軽に楽しむ場合、雪の精のイメージや香味感覚からは遠のいてしまうが、常温でオン・ザ・ロックにして味わってみてもいい。

忘れかけていた雪の想い出、名曲や映画のシーンがよみがえってくるかもしれない。あなたにはどんな雪の精が舞い降りてくるだろうか。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ジャパニーズクラフトジン 「ROKU」
ジャパニーズクラフトジン
「ROKU」

シングルモルトウイスキー 山崎
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