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ウエスタン・サルーン(5)

西部にサルーンが生まれていく背景には、4つの都市が影響を与えているらしい。ニューオーリンズ、セントルイス、シカゴ、サンフランシスコである。

まずは最南部、ミシシッピ川河口のメキシコ湾に面したルイジアナ州ニューオーリンズ。フランス領、スペイン領であった頃からの古い歴史を持つこの港湾都市は、テキサス入植者たちの玄関口であり、奴隷商人、賭博師、娼婦など雑多な人間模様を織り成していた。

次に真ん中に近い、中西部ミズーリ州セントルイス。ミズーリ川とミシシッピ川との合流地点にあり、荷役運搬人や貨物船の船頭たちの活気に満ちあふれていた。毛皮取引の中心地としても賑わい、陸路において、とはいってもそんなに立派な道はなかったが太平洋岸に向かう起点となった。

さらにはミズーリ州の隣、北東部に位置するイリノイ州シカゴ。ミシシッピ川と合流するイリノイ川を下れば、セントルイスへはとても近い。南北戦争時には東海岸地域の都市を除いた西の地域では、すでに大きな町として知られていた。

シカゴはミシガン湖のほとりの良港の町。家畜の一大集積地であり、イリノイ州自体が天然資源に恵まれ、農業はもとよりアルコール蒸溜業も盛んになっていく。そしてウエスタン・サルーンへの調度品の発送拠点がシカゴであったといわれている。20世紀はじめ、禁酒法時代にアル・カポネが台頭するずっと前からアルコールの町であったといえよう。

そして4番目はサンフランシスコ。ここは19世紀半ば、ゴールド・ラッシュで集まったフォーティナイナーの玄関口であり、太平洋からの船でやってきた人々も多く、雑多な人種の坩堝(るつぼ)としてアメリカの中でも異なる発展をしていった。当時は歓楽の都として、たちまちに伝説化していったようだ。サンフランシスコだけは明らかに他の町の成り立ちとは異なっている。

この4都市は、我々がイメージするウエスタン・サルーンがある町、砂塵が舞う埃っぽい風景とは別物だ。こうした拠点の町から人が流れ、情報が伝わり、4都市のサルーンを真似たそれらしき酒場、寄り合い所が各地に、また当時まだ辺境の地にたくさん生まれていったのである。

ところが鉄道網の充実とともにお洒落になり、一方では忘れ去られ、19世紀末から20世紀はじめにはウエスタン・サルーンは過去のものになってしまう。

 

さて今回の話にふさわしいクラフトバーボンは何か。わたしは「ベイカーズ」を選ぼう。甘く、樽香の芳しいパンチのあるフルボディタイプで、しかもアルコール度数も高い。107プルーフ(53.5%)のタフな感覚に包まれている。

味わいの強さのなかに、なんだか独特の郷愁、哀愁を感じるのだ。強くなくては生きていけなかった西部開拓の時代を語るにふさわしい。

(第55回了)

for Bourbon Whisky Lovers