バーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえる

ザ・ルック 文・達磨信

ふたりはプライベートでもスリムとスティーブと役のままに呼び合うようになる。ホークス監督は後に「スクリーン外の愛が、映画そのものをロマンチックにさせた」と語っている。1945年5月にふたりは結婚する。ボギーにとってベティは4度目の妻だった。3度目の妻と離婚して11日目のことだった。

ボギーの最初の結婚は母親ほども年上の舞台女優とで、1年足らずで離婚となっている。二度目も舞台女優で、こちらも長つづきしなかった。3度目もやはり女優であり、大変な焼きもちやきのため、毎日喧嘩が絶えなかったという。

4度目の結婚でやっと最愛の妻を迎えることができた。そして仕事においても最高のパートナーとなる。レイモンド・チャンドラー原作の『大いなる眠り』をハワード・ホークス監督が映画化した『三つ数えろ』がその傑作といえる。

二度目の共演で、しかも結婚したということもあり、よりロマンチックとなり、ベティとボギーのB&Bコンビの株はこの映画で高まっていく。

何度もの結婚生活は23年におよぶが、1949年、ボギーが50歳に手が届きそうになってはじめての子供、男の子を授かる。名はスティーブン。フランク・シナトラやポール・ダグラスたちがレストランに集まって、ボギーをひやかすためのパーティーを開いた。

スティーブンの名は、ベティと結ばれるきっかけとなった映画『脱出』の中でのスティーブ役にちなんだものだ。そして3年後には女の子が誕生する。ふたりの子供への愛情の注ぎようは大変なものだったらしい。

ギャング、犯罪者といった端役からハードボイルド映画のヒーロー像を確立したボギーは、役者人生と同じように、私生活も長距離ランナーのようにゆっくりと頂点にのぼりつめていったのだった。


ボギーの幸せはハードボイルドが運んできた。“The Look”と呼ばれる素敵な女性と巡り会えたのだから。しかしながら幸福な時間は余りにも短いものだった。彼は食道癌に冒されてしまう。ベティの献身的な看護により、闘病生活をつづけたが、1957年に逝く。享年57。

ベティは長寿を誇っている。今年9月には90歳を迎える。

では、オレンジ・スライスを添えたメーカーズマーク&ソーダをもう一杯。爽快な甘美さがよく似合うふたり、B&Bに乾杯しよう。

(第15回了)

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