バーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえるバーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえる

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パルプマガジン

ハードボイルドとは固ゆで卵ということなのだろうが、DetectiveFiction(探偵小説)においてはソフトボイルドだってある。ソフトボイルドって半熟卵ってことなのだろうか。よくわからない。

探偵ものにおいての両者の違いは、徹底してリアルに行動派の生身の人間として主人公を描くのがハードボイルドであり、思索的な紳士探偵派が主人公となるのがソフトボイルドだ。

1930年代に探偵サム・スペードというヒーローを生んだダシール・ハメットはある創作講座で講師をつとめたとき、招いたソフトボイルド作家のエラリー・クイーン(フレデリック・ダネイかマンフレッド・ベニントン・リーのどちらかは不明)にこんな質問を投げかけている。
「クイーンさん。あなたの小説に出てくる有名な主人公のセックス・ライフはどのようなものか、ご説明いただけませんか。もし、あるとすればの話ですが」

ハメットにこう聞かれ、クイーンは目をまるくしてしまったという。

ヒーローのあらゆる側面を露出させながら、ひとりの人間を浮き彫りにしていくのがハードボイルド小説といえ、酒の飲み方にしろ夜の生活にしろ描いていく。その点、ダシール・ハメットを研究し尽くしてデビューしたレイモンド・チャンドラーの場合、彼自身が女性問題で会社をクビになった経験がある。ヒーローである探偵フィリップ・マーロウと女性との関わりを描くことになんの抵抗もなかったといえるだろう。

とはいえ鼻の下を長くしているばかりにはいかない。ラブロマンスであったとしてもヒーローのこころの中では常に悪への怒りと憎しみが燃えつづけていなくてはならない。警察権力と対抗しながら、ときに利用しながら、独自の方法で悪に向かっていく風変わりな正義感と反骨精神を持って戦っていかなければならない。とにかくリアルでタフな小説でなくてはならないのだ。


サム・スペード、フィリップ・マーロウの両ヒーローを銀幕で演じたのがハンフリー・ボガートだ。ボギーは小説世界のイメージをより鮮明にしてくれ、ハードボイルドのヒーロー像を確立した。

1941年『マルタの鷹』でサム・スペードに扮したボギーは、反骨、反俗精神を明快に演じてみせた。持ち味を際立たせたのがソフト・ハット。黒っぽいダブルのスーツを着て、手あかのついたような古いソフト・ハットを無造作に頭に乗せ、ツバをぐっと下げると、それだけで観るものをザ・ハードボイルド・スタイルといった気分にさせてしまった。

翌年ボギーはハードボイルド調の『カサブランカ』で好演し、後世まで語り継がれる名作となる。そして1946年にチャンドラーの小説『大いなる眠り』を映画化した『三つ数えろ』でマーロウ役を演じると、彼が示した独創的な私立探偵スタイルは後の役者たちの教科書ともいえるものとなった。

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