バーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえるバーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえる

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パルプマガジン

推理よりもまず行動。ひたすら歩きまわって事件の糸口をつかみ、腕力に自信がないくせにハッタリ屋でふてぶてしく、抜け目のないマーロウを爽快に演じてみせた。ツバ広のソフトを前下がりにかぶり、黒っぽいシングルのジャケットを着こなして事件にくらいついていく姿はかなりの迫力だった。

ロス・マクドナルド原作の『動く標的』(1949年発表)が1966年に映画化された。ヒーローのリュウ・アーチャーを演じたポール・ニューマンはボギー・スタイルをそっくり頂戴していたが、ハットは被らず、映画化された時代のせいかアイビー調のファッションだった。


さて、ハードボイルドに酒はつきものだが、いまボギーが生きていたら何を飲ませるか。迷わずわたしはブッカーズをすすめるだろう。

ボギーが映画会社に注目されたのが1940年。その年、ジムビームが世に出ている。禁酒法撤廃(1933年)とともにすぐさまバーボンの復活、復興に動き、バーボン中興の祖と称えられるビーム家4代目ジェイムズ・ベイカー・ビームの愛称ジムをブランド名にしたものだ。

ブッカーズはジムの孫で、名匠と謳われたビーム家6代目フレディ・ブッカー・ノウ・ジュニアが生みだしたものだ。スモールバッチ(小ロット)バーボンの最高級品として知られ、シングルバレルであり、加水などしないバレルプルーフ、つまり樽出し原酒である。

製造年によって度数や香味が微妙に異なり、それがファンを魅了する要因のひとつにもなっている。とくに香味はアルコール度数の高さを感じさせない不思議なしなやかさがある。オークの樽香とフルーティーさが相まっているが、力強さの影としてかすかな独特のほろ苦さが漂う。まさにボギーにふさわしい。

1936年から40年までの5年間、ボギーは29本の映画に出演。そのうち19本がギャング役か犯罪者で登場。13本の作品で殺されるか死刑に処される役どころだった。すべて盛り立て役である。だが舞台俳優として1934年からロングランをつづけていた『化石の森』の脱獄囚役でしっかりとした人気を獲得していた。大半は女性ファンだったという。

その人気に映画会社ワーナーが気づいたのは1940年秋のことだったらしい。ハンフリー・ボガートはすでに41歳になっていた。タフでありながらまるくしなやかな味わいの俳優へと熟成しつつあったのだ。

ハードボイルドのヒーローには、ブッカーズがよく似合う。

(第14回了)

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