バーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえる

ザ・ルック 文・達磨信

映画監督のハワード・ホークスはハンフリー・ボガートに19歳の女優の卵をこう紹介した。
「ボギー、僕が今度使おうとしているローレン・バコールだよ」

するとボギーは、「そうですか。はじめまして」とだけ応えた。

映画史上、最も幸福な結婚のひとつと呼ばれているボギーとバコールのカップルだが、初対面の挨拶は実に素っ気ないものだった。

ローレン・バコールはボギーよりも25歳も若く、本名をベティ・パースキーといった。父が消息不明となり、母方のバコール姓を名乗っていた。そして誰もがベティと呼んでいたが、芸能界入りしてからローレンと改名している。

ベティはハイスクールを卒業すると女優を目指してアメリカ演劇アカデミーに学び、劇場の案内ガールをやりながらチャンスを狙う。背がすくっと高く、褐色のロングヘアー、独特の眼差しで、エキゾチックな魅力を湛えていた。雑誌のモデルをやっていたときにホークス監督の夫人の眼にとまり、彼女のはからいで監督と出会うことができた。

ボギーに紹介されたときのベティは何者でもなく、『マルタの鷹』『カサブランカ』で大スターとなっていた彼にとって彼女は、小娘くらいにしか感じられなかったようだ。

ふたりの共演は意外にも早くきた。1944年、映画会社ワーナーが『カサブランカ』の二匹目のドジョウを狙い、アーネスト・ヘミングウェイ原作の『持つと持たざると』を映画化(“To Have and Have Not”/ 邦題は『脱出』)したのだが、それがふたりの運命を決めた。

ここからはメーカーズマーク&ソーダ、できるならばオレンジ・スライスを添えて飲みながらお読みいただきたい。ハードボイルドのヒーロー像を確立したボギーだが、ベティとの初共演から後の話は爽快さに甘美さがより増したほうが味わい深い。スイート&スムーズなメーカーズマークには、オレンジのジューシーな甘さがよく合う。


映画『脱出』の中で、女優ローレン・バコール演じたスリムの名台詞がある。
“用があったら、口笛を吹けばいいわ。口笛の吹き方は知っているでしょう、スティーブ。唇を合わせて、それから吹くのよ”。

ベティは“The Look”と呼ばれた独特の上目遣いの目線に、セクシーでちょっぴり荒い喉声でこの台詞を言う。彼女の上目遣いの表情は、『脱出』でのカメラテストで緊張のあまり震えてしまい、それを抑えるためにとったポーズから生まれたものらしい。

これがボギーの乾いたムードと見事にマッチした。そして絹のようななめらかな肌と20歳とは思えない大人っぽい印象が観客をたちまち魅了したのだった。それからは大女優の道を歩むことになる。

そして最初の共演でふたりはあっという間に接近する。

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