サントリーグローバルイノベーションセンター(SIC)は、2026年10月11日(日)~14日(水)に米国・サンフランシスコで開催された「27th North American ISSX Meeting」において、食品成分エルゴチオネイン(EGT)の睡眠の質改善に向けた摂取条件を、生理学的薬物動態(PBPK)モデルを用いて推定・検証した研究成果を発表しました。
27th North American ISSX Meetingの会場の様子
研究の背景
エルゴチオネイン(EGT)は、食事から摂取されるアミノ酸誘導体です。体内では有機カチオントランスポーターOCTN1(SLC22A4)を介して各組織へ運ばれ、継続摂取によって徐々に体内に貯蓄されます。高い抗酸化活性を有しており、様々な健康指標への有益性が示唆されています。
SICではこれまでに、健康な成人がEGTを1日20mg、4週間摂取することで、睡眠の質が改善することを確認していました。一方、より少ない摂取量でも同様の効果が得られるかは明らかになっていませんでした。
そこで今回、医薬品開発などで活用されるPBPKモデルに着目しました。PBPKモデルとは、動態学的パラメータに基づき、化合物の体内での挙動を数理的に記述・予測する手法です。本研究では、この考え方を機能性食品成分であるEGTの有効な摂取条件の検討に応用しました。
図1 PBPKモデルを用いたEGTの摂取条件の推定・検証の流れ
PBPKモデルから「1日8mg・16週間」を選定
まず、過去の試験で睡眠の質改善が確認された際の平均血漿中EGT濃度9.51μMを、睡眠の質改善のための目標値に設定しました。次に、健康な成人28名を対象に、EGTを1日5mgまたは10mg、8週間摂取する体内動態試験を実施し、血漿および全血中のEGT濃度を測定しました。得られたデータを活用して、EGTのPBPKモデルを構築し、1日6、7、8、9mgを摂取した場合の血漿中EGT濃度をシミュレーションしました。そして、目標濃度に到達する摂取条件として、「1日8mg・16週間」を選定しました。
図2 目標血漿中EGT濃度9.51μMへの到達を予測したシミュレーション
モデル予測を検証し、睡眠の質の改善を確認
続いて、健康な成人100名をEGT群とプラセボ群に無作為に割り付け、EGT群には1日8mgを16週間摂取してもらうランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施しました。
16週時点のEGT群の平均血漿中EGT濃度は9.38μMとなり、PBPKモデルによる予測値との差は6.20%でした。モデルによる体内動態の予測が、実際の試験結果とよく一致したことが確認されました。
また、睡眠の質をOSA睡眠調査票MA版で評価した結果、EGT群ではプラセボ群と比較して、「起床時の爽快感」と「睡眠時間」の2項目で有意な改善が認められました。
図3 血漿中EGT濃度の予測・実測結果(左)と睡眠の質の評価(右)
研究の意義と今後の展望
今回の研究は、体内動態を予測するPBPKモデルを用いて機能性食品成分の摂取条件を設定し、その予測を有効性試験で検証したものです。長期間の有効性試験を実施する前に、成分の体内動態に基づいて摂取量や摂取期間を検討することで、試験設計をより科学的に組み立てられる可能性があります。
SICでは今後も、食品成分の体内動態や有効性を科学的に捉え、機能性食品の発展につながる研究を進めていきます。
発表概要
学会名:27th North American ISSX Meeting
会期:2026年10月11日(日)~10月14日(水)
会場:Hilton San Francisco Union Square(San Francisco, California, USA)
演題名:OPTIMIZATION OF ERGOTHIONEINE DOSE FOR IMPROVED SLEEP QUALITY USING PHYSIOLOGICALLY BASED PHARMACOKINETIC MODEL
発表者:Kentaro Nishioka¹˒², Hitoshi Okumura¹, Yudai Araragi², Reiya Yamashita², Toshihide Suzuki¹, Hiroshi Watanabe¹, Yumi Nakamura¹, Yukio Kato², Norihito Murayama¹
所属:
¹ Research Institute, Suntory Global Innovation Center Ltd., Kyoto, Japan
² Faculty of Pharmacy, Kanazawa University, Kanazawa, Japan