2025年6月 9日
#961 田原 耕太郎 『「日本一」に日々取り組む』
現役引退後、広報担当の時にインタビューして以来の田原アシスタントコーチへのインタビュー。爽やかなイメージそして内に秘めたる情熱は現役時代と変わりません。そして今シーズンを持って勇退。その心境を聞きました。
(シーズン中にファンクラブサイトのコーナー「FOR THE WIN」に掲載したインタビュー=①に、シーズン後のインタビュー=②を加えて、SPIRITS OF SUNGOLIATH としてお届けします)
① シーズン中インタビュー (取材:2025年2月)
◆現場はシンプル
――現役引退後も様々な立場でサンゴリアスに関わって来ていますね
現役引退後は、1年間は副務をやってその後4年くらい主務をやりました。その後に2年ほど広報を担当し、それからチームディレクター(TD)とゼネラルマネージャー(GM)を1年ずつやって、2019年からコーチになりました。
――広報になった時とても意欲的だったのが印象に残っていますが、あの時は?
自分がコントロール出来ない部分はあると思いますが、そこでやったことは何かに繋がるし、僕のコントロール外のところで、僕が広報をやった方が良いと思う先輩方がいて、そこで自分が出来ることは何かを考えました。けれどそれまでと変わらず、チームのために何が出来るかということが根本にあると思ってやっていたと思います。チームの現場にいるから分かることもありますし、逆に現場にいると分からないこともある、そういう学びがありました。
――強化側を離れて運営側から見た強化側はどう見えましたか?
やっぱり現場はシンプルですね。ある意味、シンプルだしやりやすさもあると思います。目標は勝つことで、ゴールまでは長いですけれど、何をするにしても勝つために必要か必要じゃないかということで分けられますし、ミーティングで「目標は?」と聞けば、10人中10人が「優勝」と答えると思います。そんな組織ってあまりないですよね。広報をやっていた時は、他の組織に比べるとシンプルだとは思いますが、組織が大きければ大きいほど、目的や目標がちょっとずつ違ってくると思います。そこがスポーツチームってシンプルで良いなと感じましたね。
――広報の後にまた強化側に戻って、強化側は面白いですか?
面白いですね。何より選手と直接関われますよね。チームってやっぱり生き物なので、常にアップデートしなければいけませんし、毎週白黒が出るわけです。そこで先週正しかったことが正しくなくなったり、先週と同じことをやっても相手が違うので上手くいかなかったりする中で、自分たちの守るべきものは守らなければいけません。そのバランスを選手の表情などを見ながら、「選手に伝わっているな、伝わっていないな」とか考える。ミーティング1回ごとにも学びがあります。それはプレッシャーでもありますけれど、それが楽しさでもありますね。
――TDやGMよりも選手に近いコーチは自分に向いていると思いますか?
そこは選手が評価すべきところだと思います。僕がどれだけ向いていると思っていても、選手がそう思っていなければ意味がないと思います。僕個人としてはコーチの方がやりがいがあるんですけれど、選手がどう思っているかは分かりません。選手がどう思っているかがいちばん大事かなと思います。
◆なぜここにいるのか
――コーチをやっていて良かったこと、難しかったことは何ですか?
やっぱり楽しいのは、試合に勝った後にロッカールームでみんなが笑顔になることですね。運営の人たちもそれは思っていると思いますが、より近くで、みんながハードワークしたり、今週取り組んだことがチームとして、個人として試合で出せたりして、その姿がより近くで見られて、そこがとても楽しいところですね。逆に自分が伝えたことが出来ていなかったりすると、自分にベクトルを向けて「もっとこうすれば良かったな」と。今日の練習でもそういうことがありますし、それは日々ありますね。
――コーチングの専門的な学びは?
日本ラグビー協会とJOC(日本オリンピック委員会)にコーチのライセンスがあって、それを取りました。
――いろいろな監督を見てきて、監督によってチームは変わりますか?コーチとしてのやり方も変わるんですか?
そこは大きく違います。やっぱり最終的には監督がどうしたいかが大事になります。逆にそのカラーが出ないとダメなんじゃないかなと思います。僕は2011年に引退して、このチームの中でいちばんスタッフとして長いと思います。そこで自分のいる価値、なぜここにいるのかということを考えなければいけないポイントですし、サンゴリアスが大事にしてきたものや、昔はこういうことがあったという経験を伝えていかなければいけないところもあると思います。
ただ、チームは変わるものなので、そこで驕りというか変な自信になってはいけないと思います。「こういうことがあるから、こう思う」と、思ったことは正直に伝えますし、ディスカッションはしますが、最終的にAかBかを判断しなければいけないという時には監督の判断になります。そこで「Bと思うけど、監督がAって言うからな」ということは絶対にやらないようにしています。今までもいろいろな監督がいましたけれど、自分が多少でもBと思うんだったら「僕はこう思う」と伝えてきました。最終的に監督がAと言うんだったら、絶対にみんなでAだと思って出ていかなければいけないと思います。そして選手に「Aだ」と伝えるんです。
――将来的には監督、ヘッドコーチになることは考えていますか?
もちろんやりたいとは思いますけれど、ただそれも僕が決めることではないかなと思います。
◆明日にでも優勝したい
――選手時代を含め長い間ラグビーに携わっていますが、そこまで続けられるラグビーの面白さは何ですか?
ラグビーは面白いですね(笑)。ラグビーというスポーツが面白いということもありますし、人と関わったりすることが好きだし、人と何か目標に向かってやっていくことが好きなんじゃないですかね。自分の中でいろいろと決断しなければいけない時に、いつも考えているのは、「日本一」。「日本一」というのは世の中でなかなかないことですよね。恥ずかし気もなく日本一と言えること。「目標は何?」と言われた時に「日本一になる」って言える。それってなかなか普通じゃないですよね。そういうことを恥ずかし気もなく言える組織にいたいという思いがあって、高校、大学に入る時もそうですし、サントリーに入る時もそうでした。そういう中に自分の身を置いて、それだけ厳しいとは思いますが、そこで自分が成長したり、自分がチームのために何が出来るか、そういうところに日々取り組むことが好きです。
――「日本一」を目指せるのがラグビーだったんですね
たまたまラグビーをやっていたということですね。ラグビーを始めたのは5歳の頃なので、最初はそんなことは考えていませんでした。だんだん成長していく中で、まず大きな決断って中学3年生だと思うんですよ。その時に高校はどこに行くかと決める時に、「ラグビーで日本一」と考えたんです。
――ラグビーが自分に合っていたんですか?
合っていたんでしょうね。小さい頃は野球もしましたが、中学校のときであれば、比較対象が部活になりますが、僕はクラブチームでラグビーをやっていました。良い悪いということではなく、中学ではバスケットボール部で、その当時のバスケ部の目標というと、地区大会に出るか出ないかという感じでした。かたやクラブチームにいたら、当時は九州の大会しかなかったので、「九州1位になりましょう」と話していました。そのどちらに魅力を感じたかと言うと、ラグビーでやりたいなということが大きかったですね。
――今まで日本一は何回掴みましたか?
いやー分からないですけれど(笑)、コーチでは日本一になっていないですね。選手時代や主務、広報、TD、GMの時はあるんですけれど、コーチの時は1回もないですね。
――それは目指すところですね
もちろん、そうですね。明日にでも優勝したいです(笑)。
◆ファイナルに残る2チームになる
――何が優勝を決めるんでしょうか?
自分の中では、正直、ポイントがあって、ファイナルに残る2チームになることが大事だと思います。チームを見る時に、決勝に行くチームかどうかが大事です。決勝では、勝負は時の運ですし、レフリーも緊張しますし、もちろん選手も緊張します。絶対に勝つと思っても勝てない時もありますし、その逆もあります。でもまずは決勝に進めなければトロフィーに手がかからないんです。だから目標はまず決勝に行くことですね。
昨シーズンは3位でしたが、3位と2位とでは大きな差があります。僕らは勝っている時も、他のチームは「あの時にこうしておけば」「あれがこうなっていれば」というちょっとした差だと思うんです。僕らも昨シーズンのセミファイナルで東芝に負けましたけれど、ちょっとの差だったと思います。でもそこに大きな差があるとも思います。
――今シーズンのチームが決勝に残るという手応えはどうですか?
なかったらやらないですね(笑)。まず今シーズンのレギュレーションで言えば、トップ6に入らなければいけません。まずはそこです。どのチームもそこを目指してやっているので、自分たちでコントロール出来るところをしっかりとやるしかないですね。ひとつひとつの練習、ひとつひとつのミーティング、そういうところで何が出来るかを積み上げる。それが小野ヘッドコーチが言っている"WIN THE ONE"だと思います。それを積み上げるしかないと思います。
――コーチとしての目標は、まず決勝に出るということになりますか?
個人的にはそうですね。もちろんチームとしては優勝です。
――将来的な目標はありますか?
出来ればずっとラグビーに携わっていきたいです。あとは組織の中で「この人がいて良かったな」と思われるような人になりたいですね。別にそれがヘッドコーチじゃなくても良いですし、「この人がいるからチームが上手く回っている」とか、チームに好影響をもたらす人になりたいですね。
――それはある程度は近づいているんじゃないですか?
いや、それは僕の希望で、評価するのは周りの人ですからね(笑)。
② シーズン後インタビュー (取材:2025年5月)
◆スピードとスキルをもっともっと上げなければいけない
――シーズンが終わって、今の心境はどうですか?
悔しい気持ちですね。
――シーズン中のインタビューでは、まずは決勝に進まなければいけないとのことでしたが、あとふたつ勝たなければ決勝まで進めませんでしたね
勝つ可能性はあったと思うんですけれど、ちょっと地力が足りないなと感じましたね。
――自分たちも強くなっているけれど、相手チームも強くなっていたという感じでしょうか?
両方なんじゃないですかね。うちが強くなったのか強くなっていないのかということと、相手が強くなったということですね。相手が強くなったのは、絶対に強くなっていると思います。
――今シーズンでやろうとしたけれど成果が出なかった部分などはありますか?
ラグビーですからいろいろなことがゲームに影響するので一概には言えませんが、僕はアタックを見ていたので、アタックのところでやっぱり、爆発的なアタックが出来ていたかと言えば、まだまだ改善の余地があります。いろいろなことがありますけれど、僕としてはアタックのところを、もっともっと改善しなければいけないと思います。
――改善のポイントは?
明らかにフィジカルが、劣っているとは言いませんが、優位な形ではなかったですね。次のシーズンでそれが大きく変わるかと言えば変わらないと思います。そこにはいろいろな要素があるので、僕があーだこーだ言う部分じゃないところもあると思います。もちろんみんなはルールの範囲でやっていますが、外国人があれだけ出ている中、そこをフィジカルでドミネートするということは、正直そんなに簡単なことではありません。そこでサンゴリアスはどうするのか?となったら、やっぱりスピードとスキルをもっともっと上げなければいけないと思います。そこが改善ポイントというか、うちが勝つポイントなんじゃないかなと思います。
――過去のシーズンでは後半20分になれば体力差でサンゴリアスがそこからガンガン攻めていたという時期もありましたが、その再現は難しそうですか?
それはもう過去の話ですね。今は時間も止まりますし、レストの時間も多いですし、TMOもありますし、後半20分で相手を疲れさせても、そこから新しい外国人3人が出てくるので、そのストーリーは難しいんじゃないですかね。
◆何か変えなければいけない
――本当に長い間、サンゴリアスに携わってきましたが、今回勇退するという決断はどう決めたんですか?
正直、シーズンの最初から今シーズンで最後にしようと決めていました。
――なぜ今シーズンで最後にしようと決めたんですか?
やっぱりチームにとっても僕にとっても、何か変えなければいけないと思っていました。これだけ長くいさせてもらったので、チームに対して何かが嫌ということでは全くありません。自分の新しいチャレンジは絶対に必要ですし、ずっと同じ人がいるということは、あまり良いことではないかなと思いました。
――変えていかなければいけないことのひとつということですか?
そうですね。あとは勝てていないので、それも含めてですね。
――これだけやってきて、良い思い出もたくさんあると思いますが、いちばん良い思い出は?
やっぱり勝ったことですね。
――やり残したことは?
やり残したことは、やはり晃征(小野ヘッドコーチ)とホリ(堀越康介)を胴上げできなかったことですね。
――新しいチャレンジの方向性は見えているんですか?
見えています。
――それは何ですか?
まだちょっと言えません(笑)。
――それは社業関係ですか?ラグビー関係ですか?
ラグビー関係ですね。そのうち分かりますよ(笑)。
――その仕事はやりたかったことですか?
もちろん。僕らは求められることは幸せなことなので、その中でその目標に少しでも貢献できるのであれば、僕としては是非という感じですね。
――将来としては、サントリーでの会社への貢献を目指すんですか?
もちろん、サントリーの社員ですからね。
――それはそれで残っているということは幸せなことですよね
そうですね。会社が許してくれて嬉しいですね。
◆勝つといういちばん難しいことから逃げない
――これからのサンゴリアスへのメッセージをお願いします
サンゴリアスの良いところって、みんながサンゴリアスでプレーしたいと思っている選手が集まっていることだと思います。なぜサンゴリアスでやりたいのかというと、僕の中にもふたつあって、絶対に勝つことですよね。勝ち以外、意味がないと思っている人たちが集まっていることが、それは大変なことなんですけれど、勝つといういちばん難しいことから逃げないということがサンゴリアスのプライドだと思います。そういう集団であり、それにプラスで、勝つことと言えば他チームも勝っていますが、やっぱりサンゴリアスのスタイルで優勝を目指すということ。そのふたつのポイントが大事だと思っています。
やっぱりサンゴリアスが好きという気持ちが薄れてきたら良くないと思っていますが、これから薄れていく可能性もあると思います。昔は社員選手がたくさんいて、必然的にチームへの忠誠心がめちゃくちゃあったんですけれど、それが今は無いということではなくて、時代としてプロ選手も増えて、プロ選手は試合に出てなんぼということもあります。その中でもサンゴリアスが好きな選手が集まって、それは選手だけじゃなくてスタッフも含めて、ここでやりたいという人たちが集まって、だから一生懸命頑張って、サンゴリアスのスタイルで優勝するということをみんなが望んでいるというチームであって欲しいと思っています。それを続けて欲しいというか、それを残ったメンバーでやって欲しいと思っています。
――何かを変えなければいけないけれど、サンゴリアスのスタイルは変えてはいけない、その変えてはいけないサンゴリアスのスタイルを言葉で表すとどんな表現になりますか?
アグレッシブ・アタッキング・ラグビーです。それは攻め続けるだけじゃなくて、サンゴリアスのスピードとスキルをアグレッシブに使いながらやるということだと思います。そこでフィジカルが優位だったらフィジカルを使えばいいと思いますが、そこは時代と対戦相手によって、こっちが持っている武器を変えていけばいいと思います。やっぱり守って勝つチームじゃなくて、アタックして勝つチームを作るということを、みんなが望み続けなければいけないと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]