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サンゴリアスをもっと楽しむコラム

2013年3月 1日

サンゴリアス ラグビー大辞典 #036 『チームドクター』

サンゴリアスやラグビーを語る上で、必ず出てくるラグビー用語やサンゴリアス用語。そんなワードをサンゴリアスのあの選手、あのスタッフならではの解説で分かり易く解説するコーナーです。
 

「チームドクター」(解説:永山 正隆 / チームドクター)
 
チームドクターとは、チームの選手が怪我をした時の診断、治療、ケアを行う人です。それにプラスして一般的な病院のドクターと大きく違うところは、チームのその時の事情も考えなくてはいけないという点です。例えばシーズンオフなのか、試合中なのか、シーズンに入ったばかりの時なのか、怪我をした選手のポジションに代わりになる選手がいるのか、等々そういったいろいろなことを考慮して最終的に判断しなければならないので、病院にいるドクターであればその怪我の症状のことだけを考えて、「こういう怪我だから一般的にこういう治療をしてこうしましょう」ということだけを考えていれば良いのですが、チームドクターの場合はチームのことも考えないといけないし、さらに医学的に大事なことも考慮しないといけません。
 
「医学的に100%こう治療した方が良い」という怪我もありますが、「こういう治療法もある」という情報をチームに提示します。「手術しないでちょっと待つ」「今すぐ手術する」という例えば2つ選択肢があった時に、手術をしないケースだったらこういうリスクがあって、手術するケースだったらこれぐらいの期間で復帰できる、という両方の情報を提示してあげて、最終的にはチームに選んでもらう形ですが、その擦り合わせをするような感じです。

 
  「なるべくグラウンドに立てない選手の数を減らしたくない」という場合もあれば、「来シーズンのために今シーズンは諦めて早く手術したい」という場合もあって、その擦り合わせをする情報を与える役目ですが、いずれにせよ選手が納得しなければなりませんから、選手には直接話します。選手とチームの意見が分かれることがたまにありますが、そこは強制出来ないので、ある情報を与えて最終的にはチームと選手で話し合ってもらうしかありません。選手が「まだ万全じゃないので出たくない」と言うこともありますが、今はほとんどの選手が「何とか試合に出られないか?」と言うことの方が多いです。「チームに貢献したい」という気持ちが強いからだと思います。
 
それで印象的なのは菅藤心選手(2010年引退)です。結果的にこの年が彼の最後のシーズンになった年ですが、シーズンの終盤に重度の膝の怪我をして、すぐ手術する程ではなかったんですが、あと1ヶ月しかシーズンが残っていないという状況でした。僕はこれ(今シーズン中の復帰)は無理だなと思いました。そうしたら彼は「最後の決勝の前日の練習にグラウンドに立ちたい」と言い、いろいろなところへリハビリに行って、一生懸命やりました。個人的には「あと1ヶ月しかないので絶対試合に出られない」と思ったんですが、最終的に彼はその日グラウンドに立ったんです。普通では考えられないんですが、チームの雰囲気がそうさせたんでしょうね。
 
試合での役割は、トレーナーとチームドクターの役割が分かれている訳ではなくて、トレーナーはバックスタンド側、ドクターはメインスタンド側にいます。そして試合中に倒れた選手がいたら、その選手をチェックしてすぐプレー出来るかどうかの判断をします。必要があればそれなりの治療もしますが、テーピングは大体トレーナーに任せています。

 
怪我は本人の言葉と患部を診るのと両方で診断します。すぐ診察できる時間が取れる時と、流すしかない時があって、最終的には痛くて出来ないということもあるので、ちょっとやらせてみないと分からない部分もありますし、診察する時間がない時は、プレーさせながら診ることになります。重篤な怪我、例えばひどい脳震盪など、すぐに病院に運ばなければいけない場合には、それなりの処置をしますが、だいたいは試合が出来ないだけであって、まずアイシングをして冷やしてもらって、安静に固定しておいて、試合後にチェックをします。そこですぐいろいろな事をやってしまうと、試合に対応する人がいなくなってしまうからですが、試合中に対応しなければいけない、例えば縫合しなければならない時などは、試合中でも行います。
 
昔のシーズンで、試合中、10分の間に3人が同時に怪我した試合がありました。1つの怪我に普通はトレーナーとドクターの両方が行けるんですが、こうなるとトレーナーが1人を診て、ドクターがもう1人、そうすると残りの1人を対応する人がいなくなってしまい、そういう場合はその場その場で対応していく以外方法がありません。プレーが続いている間にフィールドに入れるのは、トレーナーとドクターの2人だけなんです。試合中はスタンバイしている場所が決まっていて、ドクターは移動しても良い場合もあって、すぐ入らなければいけなくなりそうな時には、あらかじめ動いています。試合中はコンタクトしたところを見ていて、コンタクトの後、すぐ起き上がれるかどうかをポイントに見ています。ずっと倒れっぱなしになって起き上がってこない場合は、とりあえずその場に走って行きます。
 

 
試合や練習試合に帯同する時以外は、週に1回か2回、メディカルスタッフのミーティングに参加します。選手の怪我の状況、「復帰までどれぐらいかかりそうだ」とか、「リハビリが順調だ」とか、「リハビリの強度を上げていたら膝が腫れてきたのでそれを落とした方が良いのかそのままやらして良いのか」とか、そういうことを話し合うミーティングです。普段は病院の整形外科に通常勤務していて、怪我があった場合に対応します。病院で待っていたり、手術が必要な場合にはオペをマネジメントしたりします。
 
最近のラグビーは、脳震盪を含めて、顔面の骨折など、頭頸部の大きな怪我が多くなりました。サントリーではエディー(ジョーンズ)監督になった時に、練習が激しすぎて一時的に怪我が多くなりました。みんな、強度の高い練習に体が慣れていなくて、肉離れなど筋肉系の怪我が一時的に多発したんですが、エディーさんはその時「しょうがない。これを乗り越えないと強くならない」と言っていました。その時の春の練習試合が15人で組めなくて、13人対13人の試合をやったりしていました。エディーさんは「それでいい」と言っていて、そんな考え方もあるんだなぁと思いました。
 
チームドクターとしてというより、スタッフとして嬉しいのは、やはり優勝した時です。自分が関わっていちばん最初に優勝した清宮監督の時は嬉しかったですし、エディーさんの時の優勝も嬉しかったですね。初めて優勝した瞬間はとっても嬉しかったですし、去年は凄く嬉しいというより、ホッとしました。そういう喜びでした。

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