SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT

vol.15「自分を変えてくれたラグビーで、世界の頂点をめざし続けます」 車いすラグビー 橋本勝也選手

vol.15「自分を変えてくれたラグビーで、世界の頂点をめざし続けます」 車いすラグビー 橋本勝也選手

2018年の世界選手権で見事優勝を果たし、世界屈指の強豪に仲間入りした車いすラグビー日本代表。そこで、今最も成長著しい存在として注目を集めているのが現役高校生チャレンジド・アスリートの橋本勝也選手。車いすラグビーを初めてわずか2年で日本代表に選ばれるほどの実力を身につけ、来年の大舞台に向けてさらなる飛躍が期待される17歳。あどけない表情の内側に秘めた、芯の強さとチャレンジスピリットに迫る!

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── まずは車いすラグビーとの出会いについてお聞きできますでしょうか。

中学2年の頃に、現在も週に一度通っているスポーツ教室で初めて車いすラグビーを知りました。当時は遊び感覚でバスケをしていたのですが、あるときから自分の障がいに合わないなぁと感じ始めていて、そんなタイミングで今TOHOKU STORMERSでお世話になっている三阪(洋行)さんと庄子(健)さんがわざわざ福島まで来て「こんな競技があるよ。チームを立ち上げるから一緒にプレーしよう」と誘ってくれたんです。それがきっかけですね。

── 車いすラグビーは数あるパラ競技の中でもとくに激しいコンタクトスポーツとして知られていますが、怖さはありませんでしたか?

最初はやはり怖さがありましたし、始めてからも「これはいつか大怪我をするんじゃないか」と思いながら練習していましたけれど、慣れていくうちにプレーが本当に楽しくなって、「こんなに伸び伸びプレーできる競技があったんだ」と感じるようになりました。競技性が自分の障がいに合ったのはもちろん、ガツガツぶつかりあう感じがストレス解消になり、ちょっと短気なところがある僕の性格にもマッチしたのだと思います(笑)。そして練習にのめり込んでいくうちに自然と日本代表をめざしたいという気持ちになりました。

── 実際に車いすラグビーを初めてから現在まで、怪我の経験はないですか?

軽く痛める程度はありますけれど、骨折のような大きな怪我はないですね。車いす同士が激しくぶつかって転倒するイメージがあると思いますが、しっかりと受け身を取れば痛めることはほとんどありません。ただ、上半身だけでなく、下半身や腰回りがバランスよく鍛えられていないと相手のタックルを受けたときに簡単に倒れてしまいます。とくに自分は脚がない分、他の選手に比べて体重が軽く、バランスを崩しやすいので、体幹の強さというものが求められますね。

── 車いすラグビーを始める前と現在とでは、橋本さんの中で何が一番大きく変わりましたか?

何より周りの方々の自分を見る目が変わったと思います。学校での日常会話でも普通に「次いつ大会があるの?」「昨日の試合どうだった?」「外国の選手ってどんな感じなの?」などとよく聞かれますし、すごく応援してもらえるようになりましたね。それにラグビーを通じて、たくさんの人が「勝也にはこういうことができるんだ」と理解してくれるようになったと思います。例えば何かを地面に落としたとして、ラグビーをやる前は誰かが拾ってくれていたのが、今では僕が自分で拾えることをみんなわかってくれています。小さなことですが、そういった日常の何気ない場面でも、ラグビーを始めてすごく変わったなぁと実感しています。

── 現在、高校2年生。学業との両立で心がけていることは?

大会や日本代表の合宿などに行っているとどうしても授業に出られないことも多いのですが、友達がメールで送ってくれたノートを書き写したり、代表合宿で先輩方にわからないところを聞いたりしながら、なるべく遅れがでないようにしています。ラグビーだけでなく学業でも友達と競い合うことでやる気が出ますので、文武両道をテーマにしながら取り組んでいるつもりです。

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写真提供/日本車いすラグビー連盟

── TOHOKU STORMERSでも日本代表でもぶっちぎりのチーム最年少。自分よりはるかに年上の選手たちに日々囲まれながらラグビーに打ち込むことで、どんなことを学んでいますか?

最初は少し抵抗がありましたけど、今ではチームメイトの皆さんからいろんな人生経験を聞くことが本当に楽しいですし、冗談も言い合えるようになりました。若者の中で流行っていることなどもよく聞かれますね(笑)。壁がないと言えば先輩方に失礼かもしれませんが、良い意味で年齢関係なくチームの一員として溶け込めていると思います。

── 4年に1度の大舞台が来年に迫るなか、車いすラグビー日本代表は金メダル有力候補とも評されていますが、橋本さん自身は1年後に向けてどんなビジョンを描いていますか?

自分はまだまだ勉強させてもらっている立場ですし、本音を言うと今の実力では来年の本大会で代表に選ばれる可能性は高くないと思っています。だからこそ残り少なくなってきた代表合宿では1日1日を無駄にせずに練習に励んでいきたいです。もちろん東京で行われる大舞台なので代表に選ばれたいですが、自分の目標はただ出るだけじゃなくてプレー時間を長くすることなので、より意識を高く持って練習に取り組んでいくつもりです。

── とはいえ橋本さんはまだ17歳。車いすラグビー選手としてのキャリアはまだまだ始まったばかり。当面の目標は来年の「世界の大舞台」だと思いますが、その先に向けてはどんな目標を掲げていますか?

この先、世界の大舞台には何大会も出て活躍したいですし、多くの大会で金メダルを獲って日本の車いすラグビーが世界で一番強いということをアピールしていきたいと思っています。そのためにも今は経験を積みながらいろんなことをスポンジのように吸収している段階。この先、同年代の選手や自分よりも若い選手が出てきたときに彼らに多くのことを伝えられるように頑張っていきたいですね。また来年は車いすラグビーのみならずチャレンジド・スポーツ全般がすごく注目されると思いますが、そこで高まった認知度を下げないためにも、講演会やイベントなどチャレンジド・スポーツの普及活動にも今後は積極的に参加していきたいと思っています。

── 最後に、この先初めて車いすラグビーの試合を観るであろう人たちに向けて、車いすラグビーの競技としての魅力を伝えてください!

車いすラグビーの特徴は、まず男女混合のスポーツであることだと思います。コート上でチームに女子選手が1人加わるごとに他の男子選手の持ち点合計を0.5ポイント多く編成できるなど、混合だからこその作戦面の面白さも感じてもらえると思います。また、最初はハードなタックルに目を奪われると思いますが、激しさの中にもフェイク、ラン、パスをどのようなフォーメーションで繰り出すのかという戦略的なバリエーションが豊富なところにも注目してももらいたいです。僕は車いすラグビーの中では障がいが軽い「ハイポインター」と呼ばれるポジションで、自由自在に動きつつ得点に絡むプレーも多いのですが、実は障がいの重い「ローポインター」の選手が相手をブロックしながらハイポインターの走る道を作ってくれているのです。そのように、ハイポインターだけでなくローポインターの選手たちの動きも見てもらえると、車いすラグビーが激しさだけでなく戦術的にも魅力にあふれたスポーツであることを知っていただけるのではないでしょうか。ぜひ観ていただきたいです!

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PROFILE

はしもと かつや●サントリー チャレンジド・アスリート奨励金 第4〜5期対象
2002年5月9日生まれ、福島県三春町出身。先天性の両下肢欠損、両手指機能全廃。中学2年時に車いすラグビーと出会い、現在所属しているTOHOKU STORMERSに加入して本格的に競技スタート。車いすラグビーでは「ハイポインター」と呼ばれる最も障がいの軽い3.5クラスで、攻守両面において要となるポジションを担う。2018年には競技開始からわずか2年足らずで日本代表に初選出され、世界選手権の金メダルメンバーの一員に。福島県立田村高校2年生。

Photos:Go Tanabe Composition&Text:Kai Tokuhara

PASSION FOR CHALLENGE
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