100余年の歴史を体感。サントリー日本ワインの原点「登美の丘ワイナリー」へ行ってみた【後編】
100余年の歴史を体感。サントリー日本ワインの原点「登美の丘ワイナリー」へ行ってみた【後編】

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100余年の歴史を体感。サントリー日本ワインの原点「登美の丘ワイナリー」へ行ってみた【後編】

23.04.26

サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ推進部 久次米ひかりがオフィスを飛び出し、100年の歴史を誇る日本ワインの生産現場「サントリー 登美の丘ワイナリー」へ! 前半の貯蔵庫ツアー体験レポートに続き、後編ではサントリー株式会社 ワインカンパニー ワイナリーワイン事業部 登美の丘ワイナリー 栽培技師長の大山弘平さんにお話を伺い、ワインをつくる「人」の情熱をレポートします。

歴史あるワイナリーで最先端の循環型農業を実証中!

サントリー日本ワインの味わいを生みだす風土についてお届けした前編のレポートに続き、原料に対する持続可能性への取り組みを学んでいきます。山梨をはじめ日本全国で長く続けられてきたぶどう栽培ですが、近年では生産者の高齢化や地球温暖化の影響から“変化”が必要になっています。

サントリーでは、山梨県内の複数エリアにおいて地元行政と一緒になり遊休農地を活用してぶどう畑をつくるなど、地域の農業復興支援に積極的に取り組んでいます。サステナビリティ推進担当として、「サントリー 登美の丘ワイナリー」訪問で見てみたかったもう1つのポイントは、そんなサステナビリティへの取り組みにありました。

「植え付けを手伝っていただいたり、地域の清掃に参加したりするなかで、コミュニティが活性化したと喜んでいただけることも。“サステナビリティ”とは、環境だけでなく人の関係性でも言えることだと思っています」(大山さん)

「サントリー 登美の丘ワイナリー」栽培技師長の大山弘平さんの案内でぶどう畑を見学

一房ずつ人の手で手摘みされる収穫には、サントリー社員もボランティアで協力しています

登美の丘ワイナリーでは、実は持続可能性という言葉が浸透する以前から、耕運機や農薬などで除草せず自然な下草によって土を柔らかく耕すという自然な環境を守る「草生栽培」や、剪定した枝を炭化して土に還す循環型農業に取り組んでいます。2021年から開始した剪定枝の炭化は、土壌の炭素貯蔵量を毎年4%ずつ増やし、温暖化を抑制する世界的な取り組み「4パーミル・イニシアチブ」にも貢献します(山梨県では2020年から「4パーミル・イニシアチブ」に参加)。

「2000年ごろから実施する草生栽培は、草刈りをするなど手間もかかりますが、粘土質の土壌の改善などに効果的です。4パーミル・イニシアチブへの貢献は、まずは有機栽培の畑で試しているところです。剪定した枝を炭化して畑に混ぜることで炭素を貯留する効果に加え、水はけの改善や土壌微生物の増加、畑の中の病原菌の減少など、土壌の改善という副次的な効果も期待できます。興味を持った地域のワイナリーの方もいらっしゃいますが、効果を数値化して発信することで、取り組みを広げていきたいと考えています。そして、これらは未来の視点を持った活動ですが、現在のワインがおいしくなることが重要。今が良いので自信を持って後輩にバトンタッチしていくことができ、このつながりがサステナブルなのだと思います」(大山さん)

草生栽培では、植物の根が水はけを良くし微生物の多い豊かで柔らかい畑に

収穫後の12月から3月にかけて剪定した枝を炭化

気候変動に対応するための新技術「副梢(ふくしょう)栽培」にも挑戦

ワイナリーで試みられている取り組みはもう1つ。地球温暖化の影響で、山梨県のぶどうの品質低下が心配されるなか、2021年からは山梨大学と組み収穫期を遅らせる「副梢栽培」にも挑戦しています。

「副梢栽培は、最初に伸びた枝をカットして、脇から出る副梢に実を付けさせようという栽培法です。収穫を40日間遅らせるので、温暖化で気温が上昇している状況でも気温が低い時期に成熟させることができます。生産地も作付け品種を変えなくても、この場所で糖度の高い、品質の良いぶどう栽培を続けていくことができると考えています。まずはメルロで挑戦したところ、フラッグシップワイン『登美』にも使えるほどの品質になりました。2022年には、ほかの品種も加え栽培面積を8倍に増やしました。温暖化は自分たちだけの課題ではなく、山梨や日本全体のワインづくりを盛り上げていければと考えており、ノウハウは地元の農家さんにも共有していきたいと思います」(大山さん)

「副梢栽培」でカットされた枝

副梢栽培はメルロからスタート。今ではシャルドネやカベルネソーヴィニヨンにも拡大

山梨のワインの特徴は、穏やかな酸味があり、果実感が前面に出ること。最近は世界的にも、その土地の良さが出た「テロワール(ぶどう畑の土壌、地形、畑ごとの微妙な気候の差など、ワインづくりに影響をあたえる自然の要素)」が重視されるようになり、海外のコンクールで認められることも多くなりました。だから生産者側も、自信を持って自分の国の固有の品種を手掛け始めています。副梢栽培へのチャレンジは、そんなワインづくりの文化を守るためでもあるのです。


「ワインづくりには厳しい日本の環境だからこそ、私たちが何を考えてどう取り組んだかも必ず味わいに反映されると考えています。そういう意味では、日本のワインの魅力は“人”の要素が入っていること。そして、世界のワインの地図に日本が載るためには、その魅力を突き詰めていくことしかない。空間や時間など、飲んだら育った風土が思い浮かぶのが良いワインだと思います。登美の丘らしさ、甲州らしさ、サントリーらしさといった“ティピシテ(個性)”を追求していきます」(大山さん)

今回、社会課題や気候変動問題などに対応すべくさまざまなチャレンジを実践する登美の丘ワイナリーを訪問し、現場の取り組みを肌で感じることができ、情報開示の担当として現場を知ることの重要性を感じました。3人の子どもたちを育てる母としても、少しでも楽しい未来を残してあげることにつながるように、これからもサステナビリティの取り組みを推進していきたいと心新たに決意する一日となりました。

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サントリー 登美の丘ワイナリー

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