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これまでの社会との対話

「水のサステナビリティ」の実現に向けた水源涵養活動について

2011年4月、企業と地球環境・生物多様性問題に詳しい小田理一郎氏をお招きし、「水のサステナビリティ」をめざし2011年末までに水源涵養面積7,000haという目標を掲げたサントリーグループの水源涵養活動について、意見交換をさせていただきました。

  • 開催日:2011年4月11日 場所:サントリーワールドヘッドクォーターズ(東京都港区台場)

ステークホルダー

(有)チェンジ・エージェント 代表取締役社長
小田 理一郎 氏

2002年よりジャパン・フォー・サステナビリティのゼネラル・マネジャーとして事務局およびイベント・プロジェクトの企画・運営に従事。2005年(有)チェンジ・エージェントを設立し、企業の社会的使命追求とNGOマネジメント支援のコンサルティングを行う。

サントリー

サントリーホールディングス(株) エコ戦略部長
内貴 研二

サントリーホールディングス(株) エコ戦略部 部長・シニアスペシャリスト
山田 健

サントリーホールディングス(株) CSR推進部長
北桝 武次

サントリーホールディングス(株) CSR推進部課長
北村 暢康

ゴールでありスタートでもある「水源涵養面積7,000ha」

北村
サントリーグループの水源涵養活動サントリー「天然水の森」は、工場で使用する地下水の量以上の水を涵養する森を育む活動です。中期目標として「2011年末までに水源涵養面積7,000ha」の目標を掲げており、今年度中にも達成する見込みです。この目標は、活動におけるひとつのゴールであり、またスタートでもあるのですが、これまでの取り組みについて、小田様からご意見を頂戴できますでしょうか。
小田
企業活動はいろいろ見ていますが、このプロジェクトはとても先進的ですね。「日本の森林が荒れている」といわれるなか、それが今まさにどんな状況かを把握し、森林整備活動というかたちで対策を行う。活動の根幹がビジネスに深く結びついている点も評価できます。
山田
それぞれの森を丁寧に見て、どのような問題が起こるかを予見しながら森林整備活動に取り組んでいます。とはいえ、まだまだ、して良いことと悪いことがわかってきたという程度の状況ですね。実際の整備にあたっては、一度に森全体で作業をしてしまうのではなく、細かくエリア分けし、結果を必ず検証しながら、修正のきくような余地を残していくというのが重要と感じています。たとえば、森が病気にかかっている場合でも、西洋医学のように、薬で病原菌をたたくのではなく、漢方のように、森自体の免疫力を高めていくためにはどういう方向へ誘導したらいいのか。そうした発想で進めています。
小田
「水と生きる」の前提には、水を蓄える豊かな森林が大事であるという理念に則っているのですね。森林で重要といわれる適応型のマネジメントを企業として体現されていると。そうした活動の中で、「水のサステナビリティ実現のための水源涵養面積は7,000ha」という目標を立てられた。これは工場でくみ上げる地下水量を上回る量との設定値だそうですが、取水量それとも消費量でしょうか。
  • 予測を正確に行うよりも、その地域や森林で起こりうる想定外の事象にも適応していくマネジメント
山田
取水量です。地下水に関しては利用方法にかかわらず使用している地下水量をすべて計算しています。その量をもとに、それぞれの工場の水源涵養エリアの条件を見て必要な森の面積を算出し、それらを合計しています。各工場の水源涵養エリアはサントリー水科学研究所という研究部門が主体となって、水の成分や地形・地質調査などを科学的に調査し、特定しています。
小田
地下水涵養の量を取水量に見合うように個別に計算し、すべてを積み上げたら7,000haになったということですね。
山田
はい。この面積は直近の取水量からの算出で、現在の荒れた森を条件にしています。整備することで森の地下水涵養力が向上すれば、その向上分が、社会貢献ということになります。
内貴
活動のゴールでもありスタートでもあるというのは、そういった意味合いからです。7,000haの面積の森の契約を締結したことで、責任を果たしたとは思っていません。今後はそれらの森の状態を観察し、健全な森に戻るまで、それこそ何十年も活動を続けていく必要があるのです。

水を守るために、徹底的に調べる

小田
昨年お話をうかがったときに、取水をモニターされているというお話がありました。これも「森の状態を観察する」という中に含まれる取り組みだと思いますが、継続して実施されているのでしょうか?
内貴
水位のモニタリングは常に行っていますし、新たに工場を建設する際は、周辺の地域社会と取水量についての約束を取り交わしています。地下水のモニタリングでは、量だけではなく質についても細心の注意を払って確認しています。
山田
地下水をくむことで将来、川や泉、海などに流れ出す時点の量にどのような影響があるのか、農業用水への影響はどうか、周辺の動植物への影響はどうか。そこまで含めてシミュレーションしています。この量であれば地域の生活はもちろん、生態系にも問題は起こらないというところまで検証します。
小田
水に関するあらゆるリスクを想定し、綿密な調査、評価を行うわけですね。
山田
はい。当社が工場をつくるときには、この分野の権威であり、さらに地元の環境にも詳しい水文学の先生などにも参加していただいて環境アセスメントを実施します。内容はすべて公開し、自治体にも地域の皆様にもご説明しています。

ステークホルダーとの連携が、活動を支える

山田
説明するだけでなく地域の皆様と一緒に活動も行っています。間伐材を運び出すための作業道づくりや森林整備についても、日本のトップクラスの「名人」のノウハウを共有化し、身につけていただきます。ここで得た技と知識が、私たちの森以外のところでも活かされれば、と願っています。
小田
それは重要なことですね。地元の方と企業が関わることで、とてもいい社会関係資本を築いていく。そういう展開はとても良いですね。
  • 社会関係資本:ソーシャルキャピタル。社会や地域における人々の信頼関係や結びつきを資本とみなす概念
山田
従来の作業道のつくり方では、大雨の際に、道の上を水が流れて川のようになってしまい、それが崩壊と土壌流失の原因になっていました。一方、まだ全国に数人しかいませんが、作業道づくりの「天才」とでもいうべき人たちが現れています。彼らがつくる道は、雨水を可能な限り分散させることにより、土も流れないし、道もくずれない。そういう天才たちの指導を、地元の若者にも受けてもらい、実際に道づくりを行ってもらっています。これらの若者が、周辺の森も整備し始めれば、地域の活性化にもつながるのではないかと期待しています。
小田
プロがいて、そこで人を育てようとする考え方、つまりスキルやノウハウをもった人を広げていこうという取り組みですね。最初のうちは成果が少ないかもしれませんが、10人が100人になって1,000人になれば、さらに広がる可能性がありますね。
内貴
はい。正しい森林整備の方法を多くの方に知っていただき、より多くの森が健全な森になるように、活動を通じて得た情報はオープンにしています。サントリーは、水源涵養活動が自社の事業活動の基盤であると位置づけているからこそ真剣に取り組んでいます
小田
情報はオープンにして、その情報をもとに訪ねてくれば、それが企業であれ、ほかの団体であれ、ノウハウを提供する用意はあるということですか。森林整備にしても、Webサイトでの情報発信や、本なども出されていますよね。基本的にオープンな社内風土があるのですか?
山田
当社の場合、すべてオープンです。情報を開示することが地域や社会への貢献にもなると考えるからです。こうした姿勢が評価されているのか、大学や研究者の方々をはじめ、先ほどお話しした作業道づくりのスペシャリストの方たちもそうですが、知恵袋的役割の方たちとの連携がどんどん増えています。そして、そのことがまた活動の力になるという、いい循環が生まれつつあります。
小田
地域の方々などのステークホルダーは、どのように巻き込んでいるのでしょうか。
内貴
折に触れて現地を訪問して、お話しさせていただいています。また、それぞれの工場でもその地域の方々と継続的にコミュニケーションをとっています。
山田
官産学、それからNPOの皆様との集まりも定期的にもって、地元の方々の求めていることを確認し、それに沿っての整備計画という合意形成に努めています。
小田
日本の森林や水に関しては、各方面と連携した活動がもっと広がっていくべきですよね。問題が地形とか気候だけでなく、住民の利用方法なども含めて多岐にわたるので、今紹介していただいたような、人を介したストーリーがどんどん発信されると興味をもつ方も多いですし、とらえやすいですね。

より広い「水のサステナビリティ」をめざす

小田
今年は、事業に直接関わる水の範囲から、それをライフサイクルまで広げて原材料へというあたりを、特におうかがいしたいと思っていたのですが、いかがでしょうか。
内貴
たとえばウォーターフットプリントなどの取り組みに関しては、本格的にはこれからという状況です。
  • ある製品のライフサイクルに使われた水の総量推計値。地下水、河川水など、どのような水が使われたかまでを推定するほか、空気中への蒸発量なども含めて推計値を算出することが特徴
山田
当社が東京大学と共同で設立した東京大学総括プロジェクト機構「水の知」(サントリー)総括寄付講座にも、研究員を派遣して研究を行っています。ウォーターフットプリントは単に量で見るのではなくて、それぞれがどういう水源からの水で、その水源は「持続可能性」という観点から見てどの程度のリスクがあるのか、という評価が重要だと思っています。それをどう評価するかという基準づくりの研究を開始した段階です。
小田
今のウォーターフットプリントというのは、概して使用量を見ることになりがちですが、もっと広範な質の面で、特にストレスの状況や企業活動のリスク、あるいは社会のリスクといったところを見ていくという姿勢には賛成ですね。
ただ、消費者とのコミュニケーションという意味で、ウォーターフットプリントがわかりやすいかという問題もあります。御社の「水と生きる」というフレーズはとてもわかりやすい。それがどういう意味なのか、「水と生きる」ということに関する御社の役割みたいなもの、それをどう位置づけているかというところまでコミュニケーションすると、もっとわかりやすくなるという気もします。
内貴
そういう意味では、国内における水源涵養活動は、自分たちでつくり込んできた成果がありますし、これからもっともっと積み重ねていく方向も見えています。自信をもって情報発信できる時期にようやく入ってきたかなと感じています。将来的には国内での水源涵養活動だけではなく、世界中の地域で「水に対してこうコミットしています」といえるようになりたいですね。
北桝
こうした活動はWebサイトやCSRレポート、さらには映像などでもコミュニケーションをしていますが、「水と生きる SUNTORY」として、こうした活動をもっと広く社内外に伝えていく努力をしていかなければと思っております。
小田
Webサイトを拝見していると、「水と生きる SUNTORY」の理念や、水、森、鳥などに関するコンテンツもとても充実してきていますね。今後は、こうしたコンテンツを、どうやって事業活動の中でそれらを日々活かすかのインフラ構築を考えてはどうでしょうか。とにかく現場で実行し現場で振り返るサイクルをつくること。理念、具体的なコンテンツ、そして現場に落とし込むインフラ。この三本柱が立っていると、「言葉だけではなく、事業の中に具体的に落とし込んでいる」と見えてくるのではないでしょうか。
北村
サントリーグループの活動全般における課題について、今回頂戴しましたアドバイスを活かし、「水のサステナビリティ」の実現に向けて当社の活動を推進していきたいと思います。本日は、ありがとうございました。

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