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これまでの社会との対話

「利益三分主義」に基づく文化・社会貢献活動について

2011年、サントリー美術館は開館50周年、サントリーホールは開館25周年の節目を迎えます。 創業以来サントリーグループに受け継がれた「利益三分主義」の精神に基づくさまざまな「文化・社会貢献活動」について、鷲田清一氏、白石美雪氏と意見交換をさせていただきました。

  • 開催日:2011年4月12日 場所:サントリー美術館(東京都港区六本木)

ステークホルダー

大阪大学 総長
鷲田 清一 氏

哲学者。専攻は臨床哲学・倫理学。現在は、哲学の発想を社会が抱え込んだ諸問題へとつないでいく臨床哲学のプロジェクトに取り組んでいる。

武蔵野美術大学 教授
白石 美雪 氏

音楽学者、音楽評論家。専門は20世紀の音楽。ジョン・ケージを起点に、現代の音楽を幅広く研究している。

サントリー

サントリー芸術財団専務理事 サントリー美術館支配人
勝田 哲司

サントリーホール 支配人
福本 ともみ

サントリー文化財団 専務理事
今井 渉

サントリー芸術財団 音楽事業部長
佐々木 亮

サントリーホールディングス(株) CSR推進部長
北桝 武次

意見交換に先立ち、ご出席者にサントリー美術館を見学していただきました。

  • 国宝
    《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》

  • 豪華絢爛な屏風の展示

  • ジャポニスムを代表する
    エミール・ガレの作品

  • 今回初公開された新収蔵品

「利益三分主義」の精神

北桝
「東日本大震災」はわが国に大きな爪あとを残しましたが、芸術文化の力によって、少しでも被災された方々のお役に立てればとの思いを強く感じております。
サントリーグループ(以下サントリー)は、創業以来、「利益三分主義」の精神のもと、社会福祉活動および文化貢献活動等の「文化・社会貢献活動」を推進してきました。本年は、文化貢献活動のひとつの通過点として、「サントリー美術館」が開館50周年、「サントリーホール」が開館25周年という節目の年にあたります。サントリーとしては、今後ともさまざまな「文化・社会貢献活動」を展開していきたいと考えていますが、先生方からご意見、ご提案をいただき、今後の活動の参考にさせていただきたいと思います。本日は、どうぞよろしくお願いします。
鷲田
一般的に、「文化・社会貢献活動」というと、会社の本業とは別に、フィランソロピー(社会貢献)やメセナ(芸術文化支援)があるように受け取っている方が多いと思います。しかし、商いのやり方、スタイルといった経済活動も企業独自の文化といえますし、貢献活動にも企業文化が反映されて、その企業らしい活動を行っていくことが大事です。直接的な文化貢献活動も大事ですが、企業文化を発展させていくことも文化貢献だと思っています。それがある種の好感を生み、その企業への信頼へとつながっていきます。そういう意味では、サントリーは、創業時から「利益三分主義」の精神を掲げ、先見的でユニークな活動をされていると感じています。また、サントリーの場合、「やってみなはれ」に代表される社風と時代の雰囲気をうまくとらえた商品広告も、他に誇れる企業文化になっています。
勝田
サントリーでは、扱っている商品自体が、一種のメッセージ性とか文化をもっています。自動車や電気製品は、性能・機能等の優劣で商品の差別化ができますが、飲料や食品は、お客様の嗜好に左右される商品で、デジタルな差別化が難しい商品です。それをどう差別化していくかということを考えてきて、その商品の背景にある時代の流れや文化を伝える努力をしてきた結果、独自な企業文化が育ってきたのかもしれません。
今井
その中核として、創業者の「やってみなはれ」と「利益三分主義」の精神が世代を超えて受け継がれてきました。ウイスキーをはじめとする日本の洋酒文化を切り拓くなど新しい価値の創造に挑戦しつづけるとともに、事業によって得た利益の一部は社会のために役立てたいとの思いから、「文化・社会貢献活動」を実践してきました。そして、社会福祉活動から始まった貢献活動は、文化貢献活動へと領域を拡大しながら、サントリーらしい独自の「文化・社会貢献活動」へと進化しながら受け継がれてきたわけです。
鷲田
企業は、株主だけの会社になりきってしまったらいけません。利潤を追求するだけで、その企業独自の社会貢献の視点が感じられない企業には魅力を感じません。同じテーマに取り組むにしても、「うちはこうやるんだ」というその企業の意志が見えるのが理想だと思います。
勝田
美術館の場合、収蔵品がある程度集まってから、美術館を建設するのが普通ですが、サントリー美術館の場合は、1961年に開館したときには、収蔵品が全くありませんでした。開館することを決めてから、「生活の中の美」という理念を掲げ、その理念に沿った収蔵品を増やしていき、現在では3,000件を超える規模になりました。結果として、個性がはっきりした美術館になったと思っています。
佐々木
芸術財団の音楽事業については、1969年に洋楽の発展と文化の向上に寄与するために、「鳥井音楽財団」を創設したところから始まっています。音楽界に貢献された方を顕彰するサントリー音楽賞を皮切りに、とりわけ、演奏機会の少ない「日本人作曲作品の振興」のための諸事業を積極的に行ってきました。新しい音楽の創造活動を一貫して支援してきたことが大きな特徴です。
福本
サントリーホールは、クラシック音楽を本当の意味で日本に根づかせたいという思いのもと、東京初のコンサート専用ホールとして誕生しましたが、最高の音響でいい音楽を聴いてもらうだけではなく、大人の楽しみ、大人の社交の場を提供したいと考えていました。当時は幕間にお酒を飲めるホールはほとんどありませんでしたが、お酒を飲みながら楽しく会話ができるバーコーナーを用意したりしました。
「メセナ元年」といわれたのが1991年で、最近ではCSR(企業の社会的責任)という考え方が普及していますが、サントリーが実践してきた「利益三分主義」に近いものではないかと思っています。サントリーでは、創業以来、社会貢献が企業のDNAとして世代を超えて引き継がれていると思います。
白石
先ほどの説明で、早くから社会福祉活動を手がけてきて、現在では保育園と老人ホームを運営されているとうかがいました。一方では、サントリーホール、サントリー美術館を通じて大人の都市文化を創出していて、幅広い年齢層に、きめ細かく文化を提供されています。それ以外にも、学術文化支援、スポーツ活動推進、水源涵養林「天然水の森」を中心とする環境活動も展開されており、活動領域も広い範囲に及んでいます。こどもから大人まで、できるだけ多くの、幅広い年齢層の方々に貢献したいという心意気を感じます。こういう考え方が自然と出てくる社風はいいですね。

時代の変化とともに、世代を超えて受け継いでいく

鷲田
メセナとかフィランソロピーに熱心な企業でも、景気がいいときには大盤振る舞いをするが、景気が悪くなると、真っ先に予算を減らしていく企業もある。サントリーの場合、業績が厳しいときでも、「利益三分主義」に基づき、予算は減らさなかったと聞きました。その点も評価できると思います。
それから、感心したのは、企業の研究所というのは、外部の研究者に研究をまかせる形式が多いが、「サントリー次世代研究所(2008年に活動終了)」の社員は、自ら企画して自ら研究していました。こどもと若者をめぐる幅広い研究に社員自身が取り組む過程で、社会リサーチャーとして成長していくわけですね。そこにも、文化活動を進めていくうえでのニーズを把握する先進性があったと思います。
勝田
ご指摘のとおり、サントリーの文化貢献活動は、企画から運営まで自前でやるのが原則になっています。本日出席している、美術館支配人、ホール支配人、音楽事業部長、文化財団専務理事ももともとは営業部門等にいた普通の社員です。社員が、懸命に努力して、専門家に負けないレベルにまで成長していくというのがサントリー流です。なかには、日本で有数のガラス研究者になった社員もいます。
鷲田
歴史を見たときに、高度成長期までは、優秀な製品を開発し、事業を拡大していくことが、企業の名声を高める時代であり、雇用を守り、しっかりと納税することが社会貢献でした。
1980年代以降、高度消費社会が到来し、フィランソロピー、メセナが流行になりました。世界有数の経済大国になって社会が成熟してくると、生活の豊かさを求め、多くの企業が文化貢献活動、社会貢献活動を金銭的に支援しましたが、バブルがはじけ、縮小していったのは残念でした。
勝田
サントリーが文化貢献活動を推進したのも、物質的な豊かさから心の豊かさが求められるようになった時代のニーズに応えてのものでした。美術館、音楽事業、ホール、文化財団などの人々に心の潤いをもたらす活動を次々と立ち上げ、現在に至るまで継続しています。
鷲田
そして、21世紀になって、CSRの時代になり、企業も地域社会の一員として、さまざまなステークホルダーに対し、積極的な責任を果たすことが求められるようになりました。単なる金銭支援ではなく、美化・清掃活動とか、こどものためのイベントとか、積極的に地域社会と関わっていくことが重要になってきています。
福本
サントリーの場合は、美術館・ホールのように、自らが主体となった活動を行ってきました。ホールも、専門家の方に運営をおまかせしていたら、既存のコンサートホールの枠を超えることはできなかったと思います。いわば素人同然のサントリー社員が、専門家の知恵を借りながら試行錯誤しながら格闘していく中で、サントリーのDNAであるお客様視点を、ホールの運営にも導入していきました。そういった意味でも、文化貢献にも、サントリーのもつ強みを活かしていくことが重要だと思います。さらに、ホールの現場から本業に戻ることで、社内に新しい文化がもたらされ、活性化していく効果もあります。今にして思えば、当時の社長・佐治敬三はそういうことまで考えていたのではないかと思います。
白石
社員の方々が、前向きに楽しみながら文化貢献に取り組んでいるところがいいですね。また、本業で培ったお客様視点などのサントリーならではの強みを活かしているのはすばらしいと思います。また、地域とのつながりはますます重要になっています。都心にある美術館・ホールであっても、地域の皆様のニーズを把握し、求めているものを提供してもらいたいと思います。
今井
文化財団の場合は、山崎正和先生(大阪大学名誉教授)と当時の社長・佐治敬三が、日本では人文科学系の研究が弱いということで、社会と文化に関する国際的、学際的研究の助成と有能な人材の発掘を目的として設立され、「サントリー学芸賞」の贈呈、研究助成等の事業を続けてきました。また、「サントリー地域文化賞」を創設し、地域文化発展の支援を行っています。
鷲田
「サントリー地域文化賞」ができた1979年当時は、人々が「都会」に憧れていた時代で、「地域」というと「田舎」というイメージしかなかった。今でこそ、「地域貢献」とか「地域社会」とか普通に使われるようになりましたが、そういう時代に、「サントリー地域文化賞」を考えついたのは、まさにサントリーの先見性であるし画期的なことだったと思います。
佐々木
サントリーの内部でも、「地域」なのか「地方」なのかの議論があり、結果「地域」になった。「地域」のほうが、何か人の顔が見える感じがするということで、「地域文化賞」になったようです。
今井
それから、やる以上は徹底してやろうという社風があります。美術館の赤坂から六本木への移転についても、最初は改装しようという案もあったのですが、やる以上は最高のものをつくれという話になってきて、すべて新しくつくり直しました。文化財団についても、単に研究の助成をするのではなく、社会的により意味のある、インパクトの大きい、たとえば震災後の日本の姿を考えるなどの研究課題を、財団自らが探し、研究していこうとしています。
福本
ホールについても、世界一のコンサートホールをめざして、美しい響きに徹底的にこだわり、また、独自企画も先人的な役割を果たしてきました。その結果、今では世界有数のホールと評されるようになりました。
勝田
それは、企業としての覚悟みたいなものだと、私は思っています。すごいものをつくってしまったら、簡単にはやめられないという、「不退転の決意」みたいなものが出てくると思います。
鷲田
なるほど、世代を超えて文化貢献を続けていくんだという強いメッセージかもしれないですね。

25周年、50周年を通過点として、さらなる挑戦を!

白石
2009年に、別々に活動していた音楽財団と美術館が統合し、「公益財団法人サントリー芸術財団」として生まれ変わりました。せっかく、同じ財団になったわけですから、美術と音楽が融合した催しをぜひ実現してください。
勝田
それは、芸術財団としても今後の課題だと考えていることです。音楽事業は現代洋楽中心、美術館は日本の古美術中心ということもあり、正直申し上げて、どう展開していいのか悩んでいるところです。白石先生をはじめ専門家の方々のご意見もいただきながら、コンテンポラリーなものとトラディショナルなものをうまく組み合わせて、お客様に新しい価値を提供していければと思います。
白石
同じ時代の近いジャンルのものを組み合わせるだけではなく、もっと冒険してもいいと思います。そういう意味では、サントリーホールで開催される「やってみなはれプロジェクト」という企画はたいへんおもしろそうだと思いましたが、今回が初めてですか。
福本
ホール開館25周年記念企画で、大ホールではなく、「ブルーローズ」という小ホールを使った公演です。「ブルーローズ」は、客席が可動式で自由な発想で新しい音楽空間を演出することができるように設計されており、音楽以外にも多目的に利用できます。また、音響設備に加え、映像設備も導入しています。「やってみなはれプロジェクト」とは、創業以来引き継がれてきた「やってみなはれ」精神に基づき、音楽の可能性を探るチャレンジングな舞台を実現してもらおうと、昨年、広く一般より企画を募集したものです。67件の応募の中から、コンテンポラリー・アート、影絵と朗読、無声映画、芝居、舞踊の5企画を選定し、今年7月に「ブルーローズ」で開催します。
白石
ぜひ見てみたいですね。芸術財団とホールが連携しながら、音楽、演劇、ダンス、映像などを組み合わせた新たな芸術の可能性にどんどんチャレンジしていただきたいと思います。期待しています。
佐々木
今年のサマーフェスティバルでは「音楽と映像」をテーマにした公演を行い、実験的な映像やアニメ映画と生のオーケストラ演奏のコラボレーションなどの取り組みも始めていきます。まだまだこれからですが、従来の音楽ファンだけでなく、これを機会にこれまで来られなかった新しいお客様にも聴きにきていただきたいと考えています。
福本
演劇にしても映画にしても、その共通の部分に音楽が存在します。そこから、サントリーホールでの音楽の可能性を広げていきたいと思います。また、次世代を担うこどもたちの育成は特に重要と考えており、カーネギーホールとの提携プログラムである「カーネギーキッズ」をはじめとしたさまざまな育成プログラムを開催しています。
勝田
美術館でも、さまざまな「エデュケーション・プログラム」を実施し、親子ワークショップなどこども向けのプログラムにも力を入れています。
白石
それはいいですね。「レインボウ21」で大学生の企画を取り込むなど、次世代育成への取り組みは高く評価しています。今後とも引きつづき力を入れていただきたいと思います。
鷲田
「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」という言葉があります。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく」まではある程度実現できますが、お客様に「ふかいことをおもしろく」伝えることはなかなか難しいです。ただし、「ふかいことをわかりやすく」伝えられるのが、優れた芸術文化だと思いますし、愛好者を増やすことにもつながると思います。今年は、美術館が開館50周年、ホールが開館25周年ということですが、ひとつの通過点として、もっともっと新しいことに挑戦してください。サントリーには、「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」の実践を期待しています。
勝田
見せ方については、もっと研究すべき分野だと思っています。今までは、どちらかというと、美しく見せるほうを重視していたのかもしれません。
今年は、美術館開館50周年企画として、「美を結ぶ。美をひらく。」のテーマのもと、「コレクション展」「鳳凰と獅子」「ヴェネチアン・グラス」「南蛮美術」の4本の展覧会を開催します。構成、キャプションの文字の大きさなどの展示方法をもっと工夫することにより、もっと「やさしく」、もっと「ふかく」、もっと「おもしろく」見ていただけるのではないかと思います。
福本
先生のお話をうかがって、奥深いがゆえに敷居の高いクラシック音楽を「おもしろい」と感じていただけるよう、頑張っていかなければと痛感しました。
北桝
「利益三分主義」の精神もそうですが、サントリーらしさ、サントリーにしかできないものを追求していくことが企業の文化貢献活動として重要であるということを、あらためて確認することができました。ご提案いただいた「音楽と美術、コンテンポラリーとトラディショナルの融合」、「ふかいものをおもしろく」などの内容については、今後の活動の中で活かしてまいりたいと思います。本日は、ありがとうございました。

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