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サントリーグループは、非上場企業ながら有価証券報告書の開示・監査役会の設置・内部統制報告書の提出などにより組織統治の有効性・透明性の確保に努めています。また創業からの価値観を国内外のグループ会社社員と共有することで、グループとしての一体感の醸成を図っています。事業のグローバル化とともに、これらの施策をさらに進展させる一環として、この分野に詳しい梅津光弘氏をお招きして意見を交換しました。

組織統治の実践課題:組織統治
  • 開催日:2012年4月9日 場所:サントリーワールドヘッドクォーターズ(東京都港区台場)

有識者

慶應義塾大学 商学部准教授
梅津 光弘氏

慶應義塾大学文学部卒業。1999年にシカゴロヨラ大学大学院博士課程卒業Ph.D.(哲学)を取得。イリノイ、シカゴロヨラ、ノースウエスタンの各大学で教鞭をとる傍ら、米国企業への経営倫理コンサルテーションを行う。現職のほか同大学グローバルセキュリティ研究所上席研究員、同大学国際センター副所長、保険会社MS&ADホールディングス取締役、三愛石油取締役など。

サントリー

折井 雅子
サントリーホールディングス(株) 執行役員 CSR推進部担当
原口 昭
サントリーホールディングス(株) 法務部長
明司 雅宏
サントリーホールディングス(株) 法務部課長
富田 眞人
サントリーホールディングス(株) 総務部長
北桝 武次
サントリーホールディングス(株) CSR推進部長
丹羽 徹
サントリーホールディングス(株) CSR推進部課長

非上場企業としての組織統治の在り方について

サントリー
私どもは、2009年にグループ経営と業務執行が分離する純粋持株会社制に移行し、現在、サントリーホールディングス(株)が国内外約200のグループ会社を統括しています。決定機関として、年1回の株主総会、取締役会、グループ経営戦略会議があり、社外監査役2名を含む監査役会が監査する体制をとっています。
サントリーはウイスキーやワイン事業に代表される長期的・継続的な投資が不可欠な業態のため、短期間での業績向上や投資回収が重視される上場企業への道は選択していませんが、約40年前から有価証券報告書を公開し、また半期報告書、年次・半期決算概況の発表や、執行役員制度の採用、自主的な内部統制報告書の提出など、上場企業並みの情報公開を行うとともに、経営の健全性と透明性を確保しています。
梅津
サントリーは非上場企業ながら上場企業と同等のガバナンス体制を整備していて、全体的に高く評価できます。中でも、法的には設置義務のない監査役会を置き、半数が社外監査役である点、投資に関しても二重三重のチェック体制を敷いていることなどから、厳格な統治機能や透明性を確保する姿勢がうかがえます。また、持株会社制である点も、事業環境に応じて迅速な戦略決定を図る上で有効だと思います。そもそもガバナンスの意味は、学者の間では「大規模上場株式会社の統治」と解釈され、所有(株主)と支配(経営者)が分離された中で、株主から資本金を集める代わりに、経営者が、説明責任を果たしていくというシステムです。しかし、日本の上場企業の株主総会を見ていると、合理的であるべきシステムの中で、本来のチェック機能が果たされているかと問えば、疑問を感じる場合もあります。組織がきちんと統治されているか否かは、上場・非上場という形態は関係なく、むしろ、さまざまな社外ステークホルダーとの対話やエンゲージメントを積極的に行い、経営の透明性を検証する方が有効かもしれません。
サントリー
外部の一般の株主がいない非上場企業だからこそ、組織統治については重要視しており、上場企業並みの監査やチェック体制を敷いているわけです。また、経営者と社員のコミュニケーションを非常に重視し、経営上の重要課題については「社長協議会」「決算協議会」「部門・テーマ別協議会」などの労使協議を設けて活発に議論しています。労使協議の場では、労働課題から経営・事業課題まで労働組合と密接に話し合っており、そうした話し合いの場が組織運営の客観性や透明性を維持し、施策の実効性を高めていると感じています。
梅津
いいことですね。何よりも重要なことは、トップ自らが「社員とあらゆることを虚心坦懐に語り合おう、説明責任を果たそう」という姿勢です。それがなければ、たとえ株式会社に総会や監査役会などのチェック機関があっても実効性が乏しくなってしまいますから。
サントリー
そのほかにも、お客様センターにいただくご指摘などを一覧にして、トップをはじめ経営層に毎週報告していますが、気になる案件は即座に調査・対応の指示を受けます。嗜好品を扱う会社だけに、お客様からどう見られているかという点には経営層の感度が高く、それが1つの緊張感あるいはチェック機能として働いていると思います。
梅津
経営者の役割は、お客様・社員・株主・お取引先・地域社会・競合他社あるいは環境といったステークホルダーに、いかに施策を納得してもらうかという任を負っているわけですが、非上場であってもそれができていれば、世界のどこへ出て行っても胸を張っていられると思います。

海外グループ会社の組織統治とCSR経営の浸透

梅津
事業をグローバルに展開する中で、すでに事業を行ってきた企業との合弁契約や、買収によって新たにグループに加わった社員に対して、何か施策を講じているのですか。
サントリー
2つありまして、1つはサントリーグループが大切にしてきた価値観の共有、もう1つはその根底にあるグループ社員としての行動原則の理解・徹底です。
前者については、「やってみなはれ」や「利益三分主義」など創業の精神をグループ会社の社員に深く理解してもらうため、グループ理念をわかりやすく伝える約8分の映像をイントラネットに掲載するほか、「サントリーの原点」という新しい価値創造に取り組む挑戦の歴史を編修した冊子を配布しました。製作物のほかにも、階層別教育に「バリュー研修」を組み入れ、新入社員や管理職などにも、サントリーグループの価値観を深く認識してもらうための研修も行っています。
後者については、「サントリーグループ企業倫理綱領」を制定し、研修およびイントラネットなどで社員への啓発を積極的に行っています。また、日本国外の社員が増えているという現状を踏まえ、今年4月には、ISO26000も参考にしながら、グローバルな視点で内容の見直しを行いました。
現在、当社の企業理念、目指す姿、基本となる価値観、行動原則などを一冊にまとめた冊子を作成中で、国内外のグループ全社員に配布し、さらなる共有化の促進を図ります。
梅津
企業文化の異なる会社が合併したり、文化や歴史が異なる国のグループ社員が価値観を共有するのは確かに容易ではありませんが、創業者の苦労や存続の危機を乗り越えたときのエピソードは万国共通して共感を呼ぶものです。それが求心力を高める一助になることは間違いないでしょうね。グループ会社の一体感を醸成する上でも重要なのが、共有すべき価値をわかりやすく魅力的に伝えることです。物語化することも有効です。その際に、創業の精神、企業が苦労を乗り越えて発展したエピソードなどは価値共有の重要な要素です。
企業倫理の実践手法にも、「コンプライアンス(法令遵守)」型と「価値観共有」型に大別されますが、企業がグローバル化するほど後者が重要だと考えています。というのも、国・地域によって法令や宗教上のタブーなどが千差万別で、世の中は法令(ハード・ロー)だけで動いているわけでなく、むしろ常識や慣習(ソフト・ロー)で動くことの方が多いからです。ただ、価値観を共有するには、原理・原則の意味を理解するための教育研修をきめ細かく行わないと、社員は具体的な行動に反映できません。
サントリー
実は先ほど述べた「バリュー研修」は、そのあたりの問題意識をもって、最近始めたものです。
梅津
その研修は個々人が身につけるまで続けるべきです。野球の練習のように、頭で考えなくとも体が自然に動くレベルまで達すれば素晴らしいと思います。そうなれば、社員がどんな国へ行っても仕事ができるでしょう。伝統ある日本企業は、世界に通用する価値観や美風をもっていますから、それをうまく活用していくことが重要だと思います。また、CSRに熱心に取り組んでいる企業グループの一員になることで、グループ社員の誇りやモチベーションも向上しますので、「やってみなはれ」や「利益三分主義」の考え方、文化・芸術支援などの社会貢献活動も積極的にグループ会社に発信していくべきしょう。
サントリー
ありがとうございます。まさに私どもが着手しているところです。グローバルにCSR経営を進めるにあたって、今後意識すべきキーワードはありますか。
梅津
世界がダイナミックに変貌する中で、どのような方向へ収束するのか見ていますが、間違いなく重要なキーワードとなるのが「多様性」で、価値観も人材も、商品開発も原料も、多様性の活用が成長の分岐点になると考えています。さらに多様性に富んだ人材育成・配置を意図的に行うことが重要でしょう。また商取引についても近年は、国単位からEU、NAFTA(北米自由貿易協定)など地域単位で捉えることが重要となっています。そういう中でアジアだけが国単位で考えている状況です。これからは日本の国内優先ではなく世界、環太平洋の中で最適といった発想が必要となってくるでしょう。個性的なグループ会社がバランスよく統治された世界に誇れるサントリーグループを目指してください。
サントリー
まさに、私どもは、ダイバーシティを重要な経営課題の1つと位置づけ、さまざまな取り組みを精力的に進めています。ダイバーシティの重点課題の1つであるグローバル人材の育成と活用については、2011年から主要な海外グループ会社の人事担当者を集めたグローバル人事会議を開催し、現地幹部クラスの情報を集積するとともに、一方では、外国人の採用も積極的に進めています。
本日は多角的な視点からご提言いただき、ありがとうございました。今後もご指導をよろしくお願いします。

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