公正な事業慣行

サントリーグループでは、事業活動を支えてくださるお取引先とは、公平な競争機会や公正な評価・選定を基盤に、相互の品質向上・安全性の確保に努めています。同時に、バリューチェーン全体のCSR活動の浸透に向けてCSR調達を推進しています。これらの取り組みをさらに進展させる一環として、この分野に詳しい古谷由紀子氏をお招きし、意見を交換しました。

公正な事業慣行の実践課題

汚職防止/責任ある政治的関与/バリューチェーンにおける社会的責任の推進/財産権の尊重

  • 開催日:2012年4月5日 場所:サントリーワールドヘッドクォーターズ(東京都港区台場)

有識者

公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会常任顧問 元ISO/SR 国内委員
古谷 由紀子氏

中央大学法学部卒業。1988年に経済産業大臣認定消費生活アドバイザー、1998年日本リスクマネジャー&コンサルタント協会認定シニアリスクコンサルタント資格取得。2001年に(社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会 東日本支部・事業委員長、2004年から2012まで理事。2012年から現職。このほかISO/SR 国内対応委員会委員、企業の品質やコンプライアンスに関する社外委員を務める。

サントリー

上前 英幸
サントリービジネスエキスパート(株) SCM(サプライチェーンマネジメント)本部 SCM推進部長
谷内 賢三
サントリービジネスエキスパート(株) SCM本部 原料部部長
前川 恵士
サントリービジネスエキスパート(株) SCM本部 包材開発部部長
古池 準一
サントリービジネスエキスパート(株) SCM本部 包材開発部部長
北桝 武次
サントリーホールディングス(株) CSR推進部長

バリューチェーンで考慮すべき課題について

サントリー
私どもでは「企業倫理綱領」の中で、社員に対して社会常識を逸脱した贈答品の授受や接待への関わりを固く禁止しています。お取引先に対しては、「購買管理規定」や「取引先選定基準」に沿って、各社に公平な競争機会を提供するとともに、商品・サービスの品質や供給力、安全確保、環境保全などを公正に評価し、企業選定や取引量に反映しています。
また、お取引先とサントリーが戦略的なパートナーシップのもとで協働して付加価値を高め、Win-Winの関係でともに成長することを基本姿勢としています。たとえば、国内向け原料では「源流調達」をキーワードに、2011年は海外を含む原料サプライヤー80社以上を訪問し、状況確認や改善に取り組んでいます。また、原料由来の問題が生じた場合は、同種の原料を扱う会社に声をかけて業界全体の問題として課題を共有いただき、迅速な改善に結びつけています。包装資材も同様の姿勢と活動方針で、革新的な容器開発や飲用時品質の向上に努めています。
こうした活動を基盤に、2011年に「サントリーグループCSR調達基本方針」を制定し、CSRに関わる取り組み強化をお取引先にも要請している段階です。
古谷
こうしたエンゲージメントの場に調達部門の方々が参加されること自体、CSRに対する積極的な取り組み姿勢が伝わってきます。感心したのは原材料の問題が生じた際に、1社だけでなく同種の原材料を扱っているお取引先に声をかけて課題を共有し、解決を図ろうとする方法です。こうした関係は一朝一夕でできるものではなく、長い時間をかけてお取引先と培った信頼関係があってこそだと思います。
サントリー
ある原材料で問題が起これば、同じ原材料をほかの原材料メーカーさんも扱っているケースが多く、一緒に取り組んでいただいた方が、業界にとってもいいと思うからです。また私どもは、単年度の契約ではなく、信頼関係を基盤にお取引先と中長期的にお付き合いすることで、お互いに成長していきたいと考えています。ですから、原料品質の確認・改善や包装資材の開発などでお取引先を訪問する場合でも、悪い点を探すというより「弱いところをどうすれば改善できるか」という視点を基本に、協働してレベルアップしていく姿勢で臨んでいます。
古谷
なるほど。CSRを推進する上で、お取引先との関係づくりは必要不可欠ですからね。海外からの原料調達も同じように取り組まれているのですか。
サントリー
私どもは通常、原料を加工したものを購入することが多いわけですが、原料加工工場が海外の場合もあります。海外の原料加工工場にも定期的に訪問しますし、新規の調達先と契約する場合などは、最も上流の生産農場まで足を運んでいます。そこでは、品質・安全・環境などを点検すると同時に現場の人と課題のすり合わせも実施しています。
古谷
ISO26000が定義したバリューチェーンの対象範囲は、二次・三次のお取引先や消費者も含んでいる点が特徴です。つまり、事業活動が消費者にマイナスの影響を及ぼしていないか、及ぼす可能性はないかという視点で社会的課題の発見に努めていただければと考えます。これは調達部門だけでは解決できるものではありません。品質部門、マーケティング部門などと連携した取り組みが必要です。
サントリー
私どもには、リスク管理者(RK)制度というものがあります。新製品開発などで新たな原料を調達する場合は、開発部門、品質保証部門、調達部門、生産部門の関係者が集まって、その原料を採用することでどのような問題が起こる可能性があるのか議論します。リスク抽出をした上で採用を決めるようにしています。
古谷
それは一歩進んだ取り組みですね。ただ企業は事業にダメージを与える可能性のある要因をリスクと考え、消費者は安全・安心を脅かす可能性のある商品・サービスをリスクと考えていますが、発想の基点が違っており両者にはギャップがあります。食品の場合は、事業のリスクと消費者のリスクが一致するケースも多いと思いますが、そうでないケースもあるはずです。まずは消費者が不安に感じていることが社会的課題と理解する必要があります。最近では、品質やコンプライアンスに関わる企業の諮問委員会メンバーに、外部の専門家や消費者代表が加わるケースが増えているのは、そのギャップを埋めるためであり、対話を通じて社会的課題を探ろうとする試みの1つだと思います。
ところで、2011年の東日本大震災のような自然災害は大きなリスクであり、メーカーの供給責任は社会的課題でもありますが、バリューチェーンの中でどのような取り組みをされたのですか。
サントリー
震災直後は、物流網が分断された中、弊社の支援物資であるミネラルウォーター100万本をいかに早く現場にお届けするか物流協力会社と対応策を練り、迅速に被災地へお届けすることができました。一方で事業継続マネジメントも重要課題と位置づけています。原料はもともと複数の調達ルートを確保していますが、包装資材についても、東日本大震災での教訓をもとに複数の調達先・調達地域を確保すると同時に、サプライヤーに対しても素材の調達先を確保してリスク保全するよう要請し、重点的に取り組んでいます。

CSR調達をさらに浸透・波及させていくために

古谷
サントリーが海外事業を加速する中で、品質や安全の確保についてはしくみが整備され、世界で最も厳しいといわれる日本の消費者の期待に応え続けてきましたから、この点でのリスクは小さいと思います。ただ、海外には各国・地域で特有のリスクがあるため、バリューチェーンでのさまざまなステークホルダーが「何を求め、何を懸念しているか」をしっかり捉えていくことが、公正な事業慣行の遂行には不可欠です。バリューチェーンの中で児童労働や強制労働に代表される人権に関するリスクが低い現状ならば急務ではありませんが、お取引先の声を積極的に取り入れるしくみは考えてもいいと思います。新興国や途上国での人権や労働問題は解釈が幅広くなっていますから、NGOなどから問題提起された後からではダメージも大きくなります。
サントリー
社員から人権や労働慣行に関わる通報を受け付けたり、お客様からのご指摘を受けたりして改善に反映するしくみがあり、お取引先からもご意見やご指摘をいただく第三者窓口として使用されるケースもありますが、十分とはいえません。ところで、私どもはこれまでも原料調達先などに対して定期的なオーディットを実施しておりますが、今後CSR調達という観点では、どのように進めていったらいいのでしょうか。
古谷
そうですね。現場オーディットのしくみがあるのは、素晴らしいと思います。この中に、ISO26000の7つの原則の視点を採り入れることでCSR調達の実効をあげられると思います。そこで念頭に置いていただきたいのは、お取引先に対するルールづくりが第一の目的ではなく、ルールづくりの過程で対話を重ねながら社会的課題を発見し、お取引先と協働して解決の道筋をつけるという考え方です。
  • 「説明責任」「透明性」「倫理的な行動」「ステークホルダーの利害の尊重」「法の支配の尊重」「国際行動規範の尊重」「人権の尊重」の7つからなるすべての組織で基本とすべき重要な視点
サントリー
社会的課題を発見していく上で、バリューチェーンにおけるさまざまなステークホルダーと対話を重ねていく重要性は認識しています。その方法などでご提言はありますか。
古谷
1つは総論的なダイアログではなく、絞り込んだ個別のテーマについて深く議論したり、意見交換することが重要ではないでしょうか。また、これはある企業の試みですが、多角的な視点から企業が気づいていない課題を掘り起こすため、原料となる海外の農園に、消費者代表・有識者・マスコミ関係者を招いて課題を指摘してもらう活動を行っている企業もあります。
サントリー
私どもでは、お客様のご意見やご指摘に耳を傾けることで、お客様視点の発想や視点を学び、商品やサービス改善に結びつける「VOC(Voice of Customer)活動」に注力し、そこから環境問題やアルコール問題といった社会的課題に対する取り組みのヒントも得ています。そうした考え方を調達活動にも採り入れ、お取引先にも反映することで、ISO26000が示している「公正な事業慣行」の実践に役立つのではないかと、ご意見を伺ってそんな思いを強くしました。
古谷
その通りですね。サントリーの何よりの強みはお取引先との中長期の信頼関係を軸に、課題を一緒に改善していく基本姿勢です。これはISO26000が目指す方向性とも合致しています。今後は、CSR調達を国内外のバリューチェーンに潜むさまざまな社会的課題を発見・解決するための有効な手段として最大限に活用していかれることを期待しています。
サントリー
貴重なご意見・ご提言をいただき、ありがとうございました。今後もご指導をよろしくお願いします。

社会との対話へ戻る