環境

サントリーグループは「地球環境そのものが経営資源」という認識で環境経営を事業活動の基軸に置いています。そして、海外事業を拡大する中でサステナブルな社会に寄与し、世界の「Good Company」であるための施策を検討しています。その一環として、環境分野に詳しい後藤敏彦氏をお招きし、国内および海外での持続可能な社会に向けた環境活動について意見交換しました。

環境の実践課題

汚染の予防/持続可能な資源の利用/気候変動の緩和と適応/環境保護、生物多様性および自然生息地の回復

  • 開催日:2012年4月6日 場所:サントリーワールドヘッドクォーターズ(東京都港区台場)

有識者

NPO法人サステナビリティ日本フォーラム代表理事
後藤 敏彦氏

損害保険会社を経て、1991年に環境監査研究会の設立に関わる。その後、ISOにおける環境コミュニケーションの規格策定、GRIガイドラインの策定・普及に尽力し、国の環境政策や企業の環境活動にも貢献。NPO法人社会的責任投資フォーラム理事・最高顧問、環境経営学会理事、グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク運営委員のほか、CSRレポートや環境経営に関する各賞の審査委員も務める。

サントリー

上田 光能
サントリーホールディングス(株) 執行役員 エコ戦略本部長
内貴 研二
サントリーホールディングス(株) エコ戦略本部 エコ戦略部長
山田 健
サントリーホールディングス(株) エコ戦略本部 エコ戦略部 チーフスペシャリスト
椎名 武伸
サントリーホールディングス(株) エコ戦略本部 エコ戦略部 部長
山本 誠一郎
サントリーホールディングス(株) エコ戦略本部 エコ戦略部 部長
北桝 武次
サントリーホールディングス(株) CSR推進部長

持続可能性を目指すサントリーの環境経営について

サントリー
サントリーグループは、水・大地・太陽の恵みを提供する企業として環境経営を事業活動の基軸に置き、水のサステナビリティ・革新的な3R・全員参加による低炭素企業への挑戦・社会との対話や次世代教育に注力し、環境意識の高い社員づくりを通じた「Good Company」を追求しています。
2011年には「天然水の森」活動による水源涵養面積が、環境中期目標である7,000haに到達。超軽量化したペットボトル「P-ecot(ペコッと)ボトル」の開発、省資源・省エネ型リサイクル手法であるメカニカルリサイクル※1による再生ペットボトル「リペットボトル」の開発で、環境負荷低減を進展させました。また、省エネ型自動販売機の導入拡大をはじめ、バリューチェーン※2全体でのCO2排出量の削減を推進しています。
一方で、石油資源の高騰や電力供給リスクが高まっていることから、持続可能な事業体質への変革を目指し資源・エネルギー効率の最大化に取り組んでいきます。
  • ※1
    マテリアルリサイクル(使用済みの製品を粉砕・洗浄などの処理を行い、再び製品の原料とすること)で得られた再生樹脂をさらに高温・減圧下で一定時間の処理を行い、再生材中の不純物を除去し、飲料容器に適した品質のPET樹脂にする方法
  • ※2
    製品・サービスに関わる栽培・採掘から調達・製造・販売、使用・消費後の廃棄・リサイクルまでの全過程
後藤
サントリーが自社で行ったISO26000の課題ごとの詳細なチェックリストやCSRレポートを拝見しても、サントリーグループの取り組みは国内では最高レベルにあり、見事だと思います。ISO26000が中核主題の「環境」で提示しているのは、「人類社会が持続可能であるには自然環境が持続可能性を維持しなければならない」ということです。サントリーの環境経営には、その考え方が基盤にあることが見て取れます。今後は、省エネとともに「創エネ」にも着目したらいいと思います。バイオマスの活用や、太陽熱・太陽光との併用、さらに工場内の低温排熱の積極的な活用、「天然水の森」の河川を利用した小水力発電も考えられます。
サントリー
国内の各工場では、ヒートポンプの導入、加温・冷却工程の改善、殺菌に使う熱の再利用などエネルギーの有効活用に取り組んでいますが、ご指摘の通りまだまだ隠れた資源やエネルギーが埋まっている「宝の山」と感じています。これからも新たな切り口でそれらを積極的に掘り起こしていきます。
ところで、私どもが最も注力しているのが「水のサステナビリティ」ですが、水資源に関して社会での新たな動きがありましたら、ご教示いただきたいのですが。
後藤
政府はCOP10を契機に「SATOYAMAイニシアティブ」を打ち出し、生物多様性と二次的自然保全を進めていますが、重視しているのは、利用した自然の恵みをどのように還していくかという点です。サントリーの水源涵養活動は、こうした視点を先取りしています。一方で新たな水のリスクも浮上しています。日本の水は雪・梅雨・台風がもたらし、四季を通して恵まれてきましたが、気候変動の影響と思われる変化を注視していく必要があります。
サントリー
もともと「天然水の森」活動は、工場で使う地下水以上の量を水源にあたる森で育もうという方針から生まれました。ただ、ご指摘のように気候変動などの影響で、従来の常識では十分と思われていた整備手法だけでは、ゲリラ豪雨のような猛烈な雨や、さまざまな病害・虫害・獣害に対応できないケースも出てきました。そのため全国各地の研究者とともに、その森に最適な整備手法を探求しています。森と水の関係は調べれば調べるほど新しい発見があり、ようやく総合的な研究が緒についた段階です。
後藤
ところで、サントリーも注力しているように、食品業界では容器包装の軽量化や脱石油由来資源への取り組みが活発です。同時に、包装の技術革新によって中味の保存可能期間を延長させ、廃棄する食品を減らす取り組みも進めているようです。
サントリー
社が、第一に力を注いでいるのが、バリューチェーンおよび飲料業界全体でCO2排出削減に寄与でき、資源の有効利用にもつながる缶・びん・ペットボトル・段ボールなどの軽量化と材質転換です。そこで重視しているのは、ただ軽くするのではなくお客様の使いやすさやリサイクル時の処理のしやすさまで考えて形状や重量を設定していることです。このポリシーは変えずに、「非可食性」の植物由来の容器包装の開発など、持続可能性の視点からブレークスルーすべき余地は残されていると認識しています。

アジア・中国などの新興国市場での環境活動について

後藤
ISO26000を理解する上でのポイントを申し上げますと、この規格の成立には多くの途上国・新興国のNGOや消費者団体が参加し、彼らは自分たちのためのガイダンスと認識しています。そこで、まず重要なのは7つの原則にある「ステークホルダーの利害の尊重」ですが、これは「利害」ではなく「関心」と解釈すべきで、利害関係がなくても社会的関心の高い課題には十分に注意を払うことです。そして、バリューチェーンにおける無意識での環境破壊への加担防止(デューデリジェンス)も大切です。たとえば、A社という大企業に落ち度がなくても、目の行き届かなかった仕入先などが環境破壊をともなって生産した原材料を買い続ければ、A社は社会的に糾弾されて大きなダメージを被ります。
サントリー
私どもでは多種多様な原材料を海外グループ会社や商社と協働して世界中から調達しています。お取引先は大企業から小規模な農園までさまざまですが、品質や安全性確保の視点で設定した取引先選定基準に、環境やコンプライアンスへの配慮要請を盛り込み、2011年に「サントリーグループCSR調達基本方針」を制定して体制強化を図りました。また、担当者が定期的に加工工場や農園などに赴いて品質や安全性などを監査していますが、今後は環境についてもチェック項目に盛り込んでいきたいと考えています。また、特に二次・三次のお取引先の状況は、一次のお取引先や商社から情報収集している段階で、これからの課題と考えています。
後藤
日系企業の大半が同じような段階にあると思います。しかし、ISO26000を活用して課題解決していくなら本部や本社だけでなく、調達や開発・製造の担当者がこの規格の内容を理解・認識して、実践しなければなりません。さらに、バリューチェーン全体をカバーしていくには、点検項目を標準化・チェックリスト化して、改善方法をマニュアル化することが合理的です。同時に、点検を着実に行えるよう社員への教育訓練も不可欠です。
サントリー
調達部門が行っている監査の際に、環境や人権などの視点をより強く意識してISO26000に沿った点検を実施すれば合理的ですね。ご指摘ありがとうございます。ところで、アジア地域や中国などの水に関わる問題で、どのような点を注視していくべきでしょうか。
後藤
ISO26000が提示している「水資源の流域管理」が、今後ますます重視されると思います。たとえば、東南アジアを流れる河川の大半は中国のチベット高原が水源ですが、6カ国にまたがるメコン川の下流域が渇水に見舞われています。上流の中国ダム群をめぐって各国の主張が対立し、非常に不安定な状態です。国際河川の流域では同様の問題が起こり、中国では地下水の使用量や水質管理を厳格化するなど、水は一段と貴重な資源となっています。こうした中で、水資源の確保に向けて多国籍企業とNGOが協働し、森林認証制度に似た「水の認証制度」をつくろうとする動きもあります。原料調達のリスク回避とビジネスチャンスの両面から、こうした動向を分析して関わり方を研究する必要がありますね。
サントリー
お話を伺っていると、水問題をはじめ新興国の環境課題は複雑多様で、現地のさまざまなステークホルダーと対話を重ねていく必要性を再認識しています。私どもがグローバル展開を進める中で「ローカル・ジャスト・スペック」という考え方があります。これは世界各地の気候風土や文化に合わせ、それぞれの地域でおいしいと感じていただける商品を現地で生産して提供するという、基本姿勢を示した言葉ですが、環境活動を進める上でも同様と考えますが、いかがですか。
後藤
CSRやISO26000の急速な広がりによって、アジア各国の環境意識や人権意識、企業に期待するレベルは、以前とは比べようのないほど高くなっています。しかし国によって課題は異なるので、「ローカル・ジャスト・スペック」という考え方は、ますます重みを増していくでしょう。そうした潮流の中で、6月にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」が開催されます。ここでは、多数の政府代表・国際機関・NGOなどが参加して国際世論を形成していく方針や指針が採択されます。こうした大きな流れも注視しながら、現地に最適の施策を進めていただきたいと思います。
サントリー
海外グループ会社はそれぞれの地域でその企業が築いてきた知恵やネットワークを最大限に活用しながら、地域固有の環境課題に向き合っていきます。本日は示唆に富んだご提言をいただき、ありがとうございました。今後ともよろしくご指導をお願いいたします。

社会との対話へ戻る