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社会との対話

グローバル共通の取組み「水」を通じたサントリーグループの価値創造とは

有識者の方々に、サントリーグループが推進する「サステナブル経営」や国内外の「水」の取組みをご紹介させていただき、その後の意見交換会でそれらに対する評価や助言をいただきました。

  • 開催日:2018年5月17日(木)
  • 場所:サントリーワールドヘッドクウォーターズ(お台場オフィス)

有識者

ピーター D.ピーダーセン氏
株式会社イースクエア 共同創業者
一般社団法人NELIS共同代表

根本かおる氏
国連広報センター所長

三代まり子氏
RIDEAL株式会社 代表取締役
WICIジャパン 運営委員(理事)

サントリー

福本 ともみ
サントリーホールディングス(株) 執行役員
コーポレートサステナビリティ本部長

内貴 研二
サントリーホールディングス(株)
コーポレートサステナビリティ本部 サステナビリティ推進部長

富岡 正樹
サントリーホールディングス(株)
コーポレートサステナビリティ本部 コーポレートブランド戦略部部長

司会

今津秀紀
学会「企業と社会フォーラム」プログラム委員

統合性を意識して、全体像を見せることが重要

司会
本日は、サントリーグループが取組んでいる「サステナビリティ経営」に関して、SDGsあるいはESGといったグローバルな視点から、忌憚なくご意見をいただきたいと思います。まずはサントリーの取組みに関して、率直な感想や評価をいただけますでしょうか。
ピーダーセン
(以下ピーダー)
世界でもっとも信頼され愛されるオンリーワンの食品酒類総合企業グループを目指し、「水と生きる」企業としてグローバルに評価されるサントリーをつくろうという長期的な取組みはすばらしい。その取組みは年々進化しているという印象も受けました。ただ、気になったのは「アライメント(整合性)」の問題です。グループ全体52%が日本国籍以外の従業員であり、売上の41%を海外市場が占めているという中で、企業理念をグループ全体で共有することは非常に大事なこと。海外グループの従業員にも同じベクトルを向いてもらうためには、英語での情報発信は丁寧にすべきだと思いました。
根本
サントリーの創業の精神である「利益三分主義」は日本の「三方良し」の考え方にも通じますが、SDGsの場合、これに「将来」と「地球」を足して「五方良し」の考え方を大切にしています。SDGsそのものには“ザ・正解”というものがないので、アプローチの仕方はさまざまですが、2030年にありたい姿を共通認識にすることを目指しています。そういった意味では、「やってみなはれ」は、非常にSDGs的な精神に合っていると思いました。
三代
単に報告書上で理念を掲げるのではなく、具体的に実践されているということがレポートを通じて非常によくわかりました。報告書で理解できる部分というのは限られていますので、本日、実際に具体的な説明を聞くことでより理解を深めることができたと思います。こうした対話の場を設けていただけると、企業としての対話力の高さを感じますね。また、これまでの日本企業の場合、中期経営計画では長くて3年、5年というところが多い中、サントリーグループは20年、30年先を見据えていて、長期の視点、長期のアンテナが立っているという点がすばらしいと思います。
富岡
サントリーは長い時間をかけて造り上げるウイスキーを生業としている企業です。もともと中長期的に物事を見ることを大切にしている、というところはあると思います。しかし、20年先、30年先の未来像をしっかり描くためには、サントリーグループの強みが何かを見つめ直し、次の時代に何が必要とされるのか想像力を膨らませて考える必要があります。そのうえで、次のステップをどう踏んでいくのか考えていきたいと思っています。
根本
私が気になったのは、マテリアリティの中に従業員に関わる点がないように感じました。海外従業員の割合が増えれば多様性を尊ぶ人事政策も大切ですし、ジェンダー平等を雇用の場として促進していくことも必要です。SDGsのGoal 5「ジェンダー平等を実現しよう」やGoal 10「人や国の不平等をなくそう」といった格差是正の視点も、グローバル企業として加えていただければ、ESG投資の部分でも、より企業の経営における統合性、不可分性というものが強く見られるのではないのかと思います。水を生業にしている会社というところで、Goal 6「安全な水とトイレを世界中に」に重点を置くということは理解できますが、ガバナンスでいえばGoal 16「平和と公正をすべての人に」、金融という部分ではGoal 17「パートナーシップで目標を達成しよう」も非常に重要です。こうしたことを踏まえて、統合性というものを意識した全体像が見えると、よりすばらしいのかなと思いました。
三代
課題として財務との関連性が挙げられます。ESG評価の視点からもさまざまな活動を行っていますが、それが具体的にどういう財務的インパクトを及ぼしているのかという点を示していただきたい。先ほどピーダーセンさんからもありましたが、ESG、CSR活動、財務のアライメントも重要です。今後、よりグローバルに展開していくうえで、グループ全体での理念の共有や、活動とストーリーの共有といった部分の正確な表現が重要になってくると思います。ちなみに「やってみなはれ」は英語ではなんと訳されていますか?
福本
実は英語でも「Yatte Minahare」と表示しております。「やってみなはれ」には単なるチャレンジ精神だけではなく、「これと決めたらとことんやり抜く」、「諦めず、へこたれず、粘り強く物事に対峙せよ」という意味合いがあります。当初は「Go for it」と訳し、海外グループ会社に浸透させるべく活動をしていたのですが、この意味合いを理解してきた海外グループ会社の社員から「『Go for it』では、『やってみなはれ』の本来の意味を表現できていない」という意見が出てきました。そこで、適切な英語表現がないのであれば、日本独自の概念として知られるようになった「もったいない」と同じように、そのまま表現しようということになりました。社内には本来の意味合いを説明するだけでなく、過去の歴史や、理念の真意を伝えていくことが大切だと思っています。
三代
グローバル化によって、日本企業の中にもサントリーと同じように海外従業員の割合が50%以上の企業も増えています。 もともとある日本企業の理念を海外の方に理解していただくのは難しく、どこも苦労されていますが、その本来の意味や意図を正確に伝えるということがすごく重要になってきていますね。

ローカライゼーションが強いグローバルメッセージを生む

司会
今後はガバナンスの部分への評価がますます高まると思われますが、グローバル企業としてガバナンス全体を見ていくうえで気を付けなくてはいけないことはいかがでしょう?
三代
サントリーのCSRコミュニケーションブックを拝見しました。現時点で統合報告という位置付けで作られてはいないとおもいますが、今後はESGの「G(ガバナンス)」を説明する上で、サプライチェーンも含めたより包括的な価値創造のプロセスをもっと表現していく必要があると思います。そのプロセスをより推進していくために、どういったガバナンスが必要なのかを説明する必要があります。サントリーのガバナンスが価値創造にどのように貢献しているのか、を記載できるとより効果的だと思います。
富岡
社外の方に理解いただけるような情報提供はもちろん大切ですが、その前に社内に向けていかにストーリー性を持って理念をきちんと伝えられるかということが大事だと思っています。「水と生きる」を核としたコーポレート戦略を立ち上げ、現状を見つめ直しながら、ストーリーをしっかり伝えていく仕組みづくりを始めています。
三代
統合報告書を作る最初のきっかけとしては、投資家にわかりやすい報告書を求めてというケースが多いのです。ただ、必ずしも投資家向けだけではなく、今おっしゃられたような社内的なマネジメントの高度化にも活用できるツールです。例えば、統合報告書は長期視点で作られることから、マネジメントが従来よりも長い時間軸での成長機会を捉えるきっかけにもなります。サントリーの場合なら、水という切り口からどういった成長機会を得られるでしょうか?
内貴
「水と生きるSUNTORY」という言葉を2005年に掲げ始めてから10年以上たっています。その中で、水資源に対する明確なポリシーがあり、そこに沿った水資源の保全活動のさまざまな取組みの成果があることによって、少なくとも日本においてはサントリーというブランドに対する信頼が生まれていると思います。ただ、それをグローバルな企業価値にさらに展開していくことに関しては、まだまだこれからであり簡単ではないと思っています。
福本
長期的には、企業にとって最も貴重な資産である“人”の部分で「水と生きる」という理念や活動を共有していく意味は大きいものがあると思います。これまでも、「水と生きる」に関わる活動では、社員を巻き込み、体験の場をつくってきました。例えば、国内のグループ社員7,000人全員にサントリー「天然水の森」の森林整備活動を体験してもらっています。また、まだ一部ではありますが、海外グループ会社のマネジメント層を中心に同様の活動を展開しています。こうした体験は会社に対する誇りや一体感の醸成につながり、各自が持ち場に帰った時の生産性向上にも貢献します。また、ご家族や周りの方から「いい会社ですね」と言われることがロイヤリティにプラスに働いて、さらに優秀な人材の確保につながっていくという点も大きいですね。
三代
従業員の企業に対する「誇り」や「やりがい」といった財務資料には載らないインタンジブルズ(無形資産)に関しても、統合報告書の中でどのように中長期的な価値創造につながっているのかを表現できるといいですね。今行っている水育や森林整備活動が将来的にどういう財務的なインパクトにつながっていくか、中間的なKPIがあるとよりわかり易くなってくると思います。例えば水育には地域への貢献という意味もありますが、中長期的に考えると、そういう教育を受けた知識を持った人たちが、将来、サントリーの人材にもなる可能性もある。だとすると、サントリーの価値を創造する源泉である人を育てることにもなるので、長期的には財務的なインパクトにも影響します。そういったつながりを見せられるとさらにいいと思います。
ピーダー
エンゲージメント調査で、モチベーションの有無や理念の周知度などを定量的に示すと説得力も上がるかもしれません。また、今はオンライン調査も非常に安くできますから、一般消費者にサントリーとコンペティター2~3社を社会的観点、環境の観点から評価してもらってはいかがでしょう。そういった市場調査によるデータをピックアップすれば、真の企業価値にもつながる。今後、「水と生きる」活動をはじめとする環境や社会への貢献などをさらにグローバル展開し、社会に発信していった時に、そういったデータにどんな変化が現れるか、定点観測ができると思います。
根本
国連広報センターでは、グローバルメッセージのローカライゼーションに力を入れています。コアメッセージをつくる過程において当事者が参加、あるいはインボルブ(巻き込むこと)されると、そのメッセージはより強い力を持ちます。例えばSDGsの場合、世界中のさまざまなステークホルダーを集めて3年かけて議論し、さらにオンライン調査による1千万人の声も反映しています。そうやってできたものに対してのオーナーシップや自分事として捉える気持ちが今につながり、多くの方が情熱を持ってSDGsに関わってくださっています。それはエクスターナルコミュニケーションでも、インターナルコミュニケーションでも同じで、グループ全体の方針を決める際に海外の子会社やその従業員の方々にまずコンサルするところからはじめると、より強い企業になるはずです。
福本
ありがとうございます。ご意見を参考に、グローバルメッセージのローカライゼーションの過程には、できるだけ現地の従業員を巻き込んで進めていきたいと思います。

上流からサプライチェーン全体を見る時代に

司会
国内外のサントリーグループの水への取組みに対する評価を聞かせていただけますか?
根本
現在、水不足に直面している人は世界人口の40%、さらに使った水の80%が浄化されないまま垂れ流しになっているのが世界の現状です。国連にとっても水は最重要課題のひとつとして認識しており、2018年から2028年までを「水の国際行動の10年」として制定しています。これは私たちの命を支える水と人類の繁栄をどう両立していくのかが鍵になるという考えからスタートしたものです。また、途上国では水汲みは女性の、特に女児の仕事とされていますが、水汲みのために費やされている時間は400億時間といわれています。これはフランスなどの主要国の総労働勤務時間に相当します。その時間を学校での勉強に使えれば、確実に格差の是正に繋がります。水の問題というのは環境の側面だけではなく、人権の問題もはらんでいます。広い意味での水にまつわる社会課題にも目を向けていただけると、今後、途上国や中進国でのビジネスも増えていくグローバルな企業には、よりふさわしいのではないのかと感じました。
内貴
サントリー食品ヨーロッパではアフリカでも事業を始めておりますので、現在はアフリカ社会からの要請を受けて、水を提供するなどのサポートをしております。水汲みなどの問題に対しても、そこでビジネスをしていく企業の社会的責任として取組む必要があることは認識しておりますが、具体的にどういう場所でどのような活動をしていくことが適切なのかについては、まだ把握できていないのが現状です。グローバル企業としてできることは何か、もっと勉強する必要があると考えております。
根本
国内で活動する時は地域の団体や市民社会、あるいは研究機関とのコラボレーションで取組むことが多いと思います。海外も同じで、国連機関や国際NGO、ローカルなNGOなど、さまざまな知見を持っている団体がたくさんあります。まずはそのような団体と情報共有から一緒にやっていただいてはいかがでしょうか
福本
ベトナムで展開している「水育」では、水の大切さを伝える教育活動と合わせて、水の衛生教育や必要な施設の提供など、その地域が抱えている課題を理解して、解決に繋がるような活動を行っています。これからさらに「水育」をグローバル展開していくのに際しては、NGOや地域の団体と連携しながら、水という切り口を通して地域社会の課題解決に貢献する活動を進めていきたいと考えています。
根本
水はあらゆるものに関わっていますので、非常に間口の広い課題です。「水育」をさらにサステナブルな形で運営していくためには、いわゆる「Train the trainers」を行って、その地域で核となって教える人たちを育て、地域展開できるといいですね。
内貴
現状では、サプライチェーンの上流に向けた取組みが弱いことは、グローバルプレーヤーをいろいろ見ている中で痛切に感じています。原料農作物についてもう少し現状をしっかり見つめ直すところからやらないと、サステナビリティを追求していくグローバルビジネスの動きの中で遅れを取りかねません。今後、強化が必要だと思っております。
ピーダー
今までは商社に任せているから自分たちは直接見ていないということで済んできましたが、これからは非常に危険です。商社もいまやサステナビリティ戦略を次のステージに持っていくことを目指しています。だとすれば、商社とパートナーシップを組むことで可能性はいくらでも広がるはず。ここ数年、人権や環境の面で相当な問題が顕在化している以上、SSCM(サステナブルサプライチェーンマネジメント)が当たり前だと考えるべきですね。
内貴
サプライチェーンの上流で原料を生産している地域社会の人たちと直接、取引をしているわけではないにしても、その地で作られた原料を使用して事業展開している以上、私たちにはその方々が人間らしく、健全に暮らしているのかどうかに関して責任があると考えます。まずは原料農作物の生産地である地域社会の現状をしっかり把握して、リスクの有無を見極め、改善に向けて取組まなくてはなりません。また、気候変動が進めば、今後も同じ場所で同じように原料が収穫できなくなるリスクもあります。さらに人口が増えれば、水の奪い合いが起きるかもしれない。そうした可能性も考えて、サプライチェーンの上流に対しては、適切で持続的な農作物の生産、あるいは地域社会の人権問題など、長期的な視野で見ていきたいと考えておりますが、どういうやり方がサントリーのビジネスにもっとも適切なのか。それを見極めないと具体的に進められませんので、もう少し時間がかかると思います。

イノベーションを加速するパートナーシップ

司会
サントリーグループが水に対する活動をより広くグローバルに展開するに当たり、どんな視点が大切なのか。あるいはどんな活動を強化していけばいいのかなど、アドバイスいただけることはありますか?
ピーダー
SDGsを達成するためにはグローバルな連携が必要。こうした活動の真ん中にパートナーシップを置いて、目標達成に向かうのも、よりグローバルに展開するには良いかもしれません。もはや、単独ではできないグローバルでの共通課題になってきているので、イノベーションを加速させるためにパートナーシップを組むという姿勢を示されてはいかがでしょう?
福本
たしかに日本の企業は自前主義になりがちです。水やCO2の削減目標ひとつをとっても、非常にアンビシャスなものですし、企業一社で達成できるものではありません。健全な水循環の中で、人々の生活も企業も発展していくといった長期でめざす姿を共有するパートナーシップを組んで、技術革新、社会変革を起こしていくことが求められていると思います。
根本
グローバルな展開を図るうえで、SDGsというのは世界の共通言語であり、どこの国に行ってもある一定の人には通じるものです。パートナーシップを核にというお話がありましたが、Goal .17は、他の16の目標すべてに関わるものとして位置づけられます。そこを中心に置かれるのは、いろんなアクターを巻き込んでいくうえで非常に有効ですね。
ピーダー
やはり、サントリーをグローバルブランドとして広げるには、「水」がキーワードになると思います。水を通じて社会に貢献しながらブランドを広げるというのはとても有効です。ここ2~3年、水の問題が顕著になっていて、水のサステナビリティは非常にクローズアップされています。スターバックスが「サステナブル・コーヒー・チャレンジ」というプラットホームをつくって現在100団体が参画していますが、同じように「ウォーター・リーダシップ・プラットホーム」や「ウォーター・イン・ライフ」などと銘打って、サントリーが革新的な取組みを提案してはいかがでしょう。どこかのコンサルティング会社と組んで、世界的なプラットホームをつくるわけです。
福本
「水と生きる」企業として、グローバルなプレゼンス向上につながる取り組みですね。
ピーダー
そういう柱を掲げてグローバル・イニシアチブを発揮し、単独ではなくどこか世界的に有名な団体や企業と組んで、5年間スポンサードを行うと宣言すれば、それはグローバルブランディングにも資するし、評価にもつながる。実際にそこからイノベーションも起きるかもしれません。そういうアプローチがこれからは有効なのではないでしょうか。これからは商品だけではなく、社会のステークホルダーと関わりながらもっと深いブランディングを確立することが企業価値を高めることにつながっていく。サントリーという名前を広めるにあたっては、そういう“したたかさ”と誠実さがセットになったアプローチでいいと思います。
富岡
サステナブルな視点なくしてブランドは成り立ちませんし、その継続性を実現するにはビジネスがしっかり組み込まれていなくてはいけない。さらに競争に勝てるような差別化も大切です。しかし、その大前提として社会に受け入れられる取組みでなければならない。コーポレート戦略を考える時に、様々なタッチポイントでいかに納得いただけるかが重要であり、そのコミュニケーションに、いろいろと知恵を使っていかなくてはいけない。ピーダーセンさんのおっしゃるように、“したたかさ”も持ち合わせて考えていきたいと思いました。

「水」の取り組みを価値創造のストーリーつなげて情報発信

根本
グローバルな展開には、マクロとミクロ、両方の視点が必要だと思います。小さな物だけを見るのではなくて、森とつなげて両方の視点を持つことがとても重要です。先ほどの農産物がサステナブルに調達し続けられるのかという話題が上がりました。今のままのライフスタイルを続けると、2050年には世界人口は95億人になり、今の地球が3つ必要だと言われています。企業側の変化が必要なのはいうまでもありませんが、同時に消費者の側の変化も必要です。だからこそ両方に訴えかけることが重要。サントリーの場合、「水育」という子ども、あるいはコミュニティの人たちに影響力を持つ伝え方もありますし、広告というマスに一気に伝える方法もあります。水不足が原因で2030年には7億人が家を追われることになるだろうとも言われ、環境難民という言葉が生まれています。それはすでに現実の問題になっていて、島嶼国(とうしょこく)から別の国に移り住むことを余儀なくされている人々が既にいるわけです。水はすべての礎ですので、そのために消費者の意識やライフスタイルまで変えようといった心意気で発信をしていただきたいですね。
三代
情報開示の観点から申し上げると、SDGsが統合報告書におけるスターティングポイントになっているケースが多いです。ただ、経営課題はそれだけではないので、最初に経営を俯瞰して捉えた上で、当社にとって重要と考えられるSDGsに絞り込むことが大切です。サントリーグループの場合、人材や技術などに関しても包括的に捉えたうえで、SDGsの「水」にかなり絞り込みをかけています。私はその点がすばらしいと思いました。今、SDGsにひも付けて情報開示している企業が多く、17のすべてのアイコンを載せていろいろな取組みを記載しているケースが散見されます。でも統合報告の場合は「情報の多さ」ではなく、「情報のつながり」こそが重要です。サントリーの場合も単に情報を出すだけではなく、理念から始まって中長期的なビジョン、どういった社会的課題を解決したいのか、それに対する戦略やビジネスモデルがどうなのか、そしてそのゴールとしての財務的、あるいは非財務的な結果がどうなのか、価値創造ストーリーをつなげて開示をされてはいかがでしょう。そうすることでサントリーが力を入れて進めている水の活動も、より意義を持って表現できると思います。
内貴
水を軸に据えたストーリー、シナリオを語る中で、経営課題をはじめとするあらゆる部分がそこに関わってくるということですね。
三代
水と同じように、経営資源も限られています。その限られた経営資源をいかに最適に配分していくかという意味で、マテリアリティのプロセスを洗練化させていくというのが、情報開示に取組まれている日本企業の今後4~5年の課題になっています。世界的にも統合報告はCSRと財務報告を一冊にまとめるところから始まりましたが、今は次の段階に来ているということです。マテリアリティに関しても、自社の価値創造において重要な事項は何かをを考慮していただいて、最適な資本配分のあり方を検討いただければと思います。
内貴
ただ、ほかの企業の方と話してみても、やはりシナリオ分析に関してはよくわからないという声が多いです。特に金銭的価値に換算することや、KPIという指標で表現するのは非常に難しいと感じます。
三代
KPIは必ずしも金銭的価値に換算する必要はありません。例えば、スリーエム社の場合、「イノベーション」を起点に、「顧客ニーズと3Mのテクノロジーをつなぐ能力」や「事業を起こす能力」を特定し、「エンジニアが顧客を訪問した回数」「テクノロジープラットフォーム数」「新しいアイディアで表彰された人数」など「売上結果」などの財務指標以外の指標をロジックツリーでとらえています。他にも、顧客や従業員を大事にする企業であればそれぞれの満足度であったり、安全が最も重要であるとの認識のある企業であれば、「安全労働災害発生率」など、単に定量化されていることではなく、企業が大事だと思っていることとの関連付けがKPIでも重要です。
内貴
水の活動をストーリー的に説明するというのは、なかなか難しい試みではありますが、語り方もいろいろ工夫できると思いますので、勉強させていただきながら水を通じてサントリーのブランドストーリーをしっかり語れるようにしたいと思います。

水の問題を自分事として捉えて行動することができるかが大切

ピーダー
強い企業には「アンカリング(拠り所)」、「アダプティブネス(自己変革力)」、「アラインメント(社会性)」の3つが揃っているというのが私の持論ですが、中でもアラインメントができている企業は、「明るい未来志向」を持っているという特徴があります。そういった強い企業には、うわべの数字にだけではない深いモチベーションがあるもの。サントリーの社員の皆さんもさまざまな社会貢献などをベースに、「明るい未来志向」を醸成されているのでたいへんすばらしいと思っています。
根本
ひとつ質問です。サントリーの社員の皆さんは「水宣言」みたいなものに署名なさっていますか?社内で徹底し、自分事化する上で、そうした手法は非常に有効だと思いますが。
ピーダー
「マイ・水宣言」ですか! おもしろいですね。生活の中で個人でもできる何かが必ずありますからね。
内貴
海外の方からすると署名するというのはかなり重みがありますので、難しい部分もあるかもしれません。しかし、今はデジタルでのタッチポイントが可能ですから、少なくとも「Like」くらいならやってもらう工夫はできるとは思います。
福本
そもそも、「水」や「節水」というと、社員は生産部門の仕事と思い込んでいる部分が多いですから、自分事として捉えて行動化していくというのは、すごく大切なことだと思います。
ピーダー
本当に水を大切にしていることの証として、「水マスター」や「水チャンピオン」といった仕掛けを設けてはいかがでしょう。サントリーのグループ会社312社すべてに「水マスター」や「水チャンピオン」を任命してくださいとお願いして、あとは選ばれた人が中心となって、各社で主体的に水の取組みを行っていくのです。海外には一方的に押しつけられると抵抗を感じる人が多いので、グローバル展開を図る時には共通的な仕組みと主体性のバランスを図るのはとても重要です。イノベーションやサステナビリティの観点からすると、サントリーグループの組織的な対応能力やイノベーションケイパビリティといったものを次のステージに持っていくために、もう一歩、高度化していくとすごく面白いことが起きるような気がします。
内貴
イノベーションに関しては、日本の産業社会でよく使われてきた技術革新という言葉とかなり質の違うことが起きていると理解しています。21世紀のそういうイノベーションに、むしろ日本もサントリーも遅れていると考え、切実な認識のもとに出発点に立ってイノベーション・ケイパビリティ(組織的能力)を上げていかないといけない。その危機感をいかに的確にビジネスサイドの人間と共有できるか、このあたりが我々コーポレートサステナビリティ推進本部の仕事だと考えています。また、上流にさかのぼってサプライチェーン全体で見るというお話が出ましたが、これは「水」ともリンクすることです。自分たちが使っている水は上流から来ているものであり、それと同時に下流もあるということをふまえて、全体で見る視点は水の問題を考えるうえでも必ず必要です。水理念の最初に「水循環を知る」という項目を掲げているのは、まさにそこにこだわっているから。それをサントリーグループ共通の認識にしていくことが重要だと思っています。
福本
サントリーグループは「人と自然と響きあう」企業として、「水のサステナビリティ」「気候変動対策」を柱に、持続可能な地球環境を次代に引き渡すことを目的に「環境ビジョン2050」を掲げています。また、そのビジョンを達成すべく、新たに「2030年目標」も設定しました。加えて、本日ご意見いただいた、ダイバシティや健康経営の推進など従業員に関わる課題をはじめ、より包括的なサステナビリティ方針を来年に向けて策定していきたいと思っています。
サントリーグループは、創業精神である「利益三分主義」が脈々と受け継がれており、社会に貢献するという意志を文化として持っています。これを土台に、理念からはじまって、社会課題解決への貢献と中長期での企業価値向上を統合したストーリーを描くこと、これを社内外のステークホルダーと共有していくことの重要性を再確認いたしました。本日いただいたご示唆に富んだご意見を取り入れ、一歩ずつ取り組んでいきたいと思います。本日は本当にありがとうございました。

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