グローバル企業に求められる「ESG経営」

サントリーグループは、企業理念「人と自然と響きあう」の実現に向け、ステークホルダーの皆様とともにさまざまなCSR活動を進めてきました。事業のグローバル化が急激に進むなか、サントリーが「グローバルな総合酒類食品企業」としての企業価値をさらに高めていくことが必要となっています。今回のダイアログでは、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP-FI)特別顧問 末吉竹二郎氏をお招きし、投資家視点での今後の環境・社会活動についてご示唆をいただきました。
当日は、まずサントリーからこれまでの取り組みや現状の課題を共有したうえで、末吉氏からグローバル企業に求められるESG(環境・社会・企業統治)経営の最新動向などをレクチャーいただき、これからのサントリーが果たすべき役割について意見交換を行いました。

  • 開催日:2015年5月12日
  • 場所:サントリーワールドヘッドクォーターズ(東京都港区台場)

有識者

国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP-FI)特別顧問
末吉 竹二郎 氏

サントリー

濱岡 智
サントリーホールディングス(株)執行役員 コーポレートコミュニケーション本部長
福本 ともみ
サントリーホールディングス(株)執行役員 コーポレートコミュニケーション本部副本部長
内貴 研二
サントリーホールディングス(株)コーポレートコミュニケーション本部企画部長 兼 エコ戦略部長
北桝 武次
サントリーホールディングス(株)コーポレートコミュニケーション本部CSR推進部長

Part 1:「ESG経営の最新動向」に関するレクチャーをふまえて

サントリー
私どもは、事業のグローバル化を進めるにあたり、さまざまなステークホルダーの皆様からの信頼を獲得するために、どのような経営姿勢が必要かを常に意識してきました。本日は、企業評価においてESG(Environmental=環境、Social=社会、Governance=企業統治)に対する取り組みを重視する姿勢が高まりつつあることを改めて認識いたしました。
末吉
「ESG経営」という概念が生まれたのは2004年頃ですが、いまや欧米においては株価形成の重要なファクターとなっており、環境負荷の大きな企業への投資を回避する動きも出てきています。
サントリー
そうした「持続可能な投資」とも言うべき動きが、企業に環境対策を促進させる原動力となっているわけですね。
末吉
その通りです。投資家のこのような動きをきっかけに、「従来の経済モデルはとても持続可能とは言えない」という認識が企業経営者の間にも浸透しつつあり、いくつかの先進的な取り組みが生まれ、注目されています。
サントリー
環境負荷低減に寄与する特許技術を公開する企業や、原料となる農産物の100%を持続可能な農業から調達することを宣言した企業など、さまざまな先進事例を伺いました。業種やスケールの違いこそあれ、私たちとしても見習うべきところが大きいと感じています。
末吉
こういった傾向は、投資家が単に財務面での収益性だけで投資判断を行うのではなく、企業経営のサステナビリティ(=持続可能性)を評価していることの現われです。ESGへの配慮なき企業は、投資家からも、消費者からも選択されないという時代が到来していることを認識することが、グローバル企業としての社会的責任を果たすうえでも重要ではないかと思います。

Part 2:グローバル企業としての課題を見据えて

末吉
先ほど、サントリーのCSR活動の歴史やESGの取り組みについて伺いましたが、率直な感想として、実に高水準な取り組みをされていると感じました。
サントリー
確かに、国内ではある程度サステナブルな企業経営を実践できていると手応えを感じています。その一方で、海外については各地の状況を手探りで把握しつつあるというのが現状です。
末吉
先ほどの説明のなかでも、今後の課題として「バリューチェーンにおけるCO2排出量の削減」「水のサステナビリティ」「原料のサステナブル調達」という3点を挙げられていましたが、いずれもグローバルだからこその難しさがあるというわけですね。
サントリー
その通りです。まず、2015年末の「COP21」を控えて、企業活動全体でのCO2削減への要求が、さらに高まっていくと考えています。国内では、以前から生産部門だけでなく、商品開発や営業、物流、自動販売機、オフィスなど、バリューチェーン全体でのCO2削減に取り組んできました。海外では、M&Aなどで新たにグループに加わった会社が多く、まずは各社のバリューチェーンにおけるCO2排出の実態把握に取り組む必要があります。
末吉
それら新規グループ会社に対しては、実態把握とともに、いかにサントリーの環境に対する姿勢や方針を浸透させていくかが大切ですね。
サントリー
水資源についても、日本のように水源に恵まれた地域もあれば、安全な水を確保することすら難しい地域もあるなど、地域によって水に対する意識や課題が異なるため、CO2以上に地域ごとの現状把握が重要だと考えています。
末吉
水資源の問題は、世界的にも関心が高まっており、国際的なNGOであるCDP(旧称:カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)が実施している企業へのヒアリングにおいても、当初のテーマであるCO2による気候変動リスクに加え、2010年には「水」、2012年には両者の源泉とも言える「森林」を対象に加えています。水を守るために森林を守ろうとするサントリーの視点は、こうした国際的な動きにも合致していると言えるでしょう。
サントリー
海外各社と対話するなかで、日本とは水に対する意識が大きく異なると感じることが多々あります。地域ごとの課題に対して各社・各工場それぞれで検討が必要ですし、私たちが展開している次世代環境教育「水育(みずいく)」を海外に広げていくにあたっても、地域ごとに教材を工夫するなど、現地に根ざした取り組みを重視しています。
末吉
それは素晴らしい取り組みですね。ただ、水は酒類・飲料などの原料としてだけでなく、農産物を育てるうえでも不可欠な資源ですので、農業に対する視点も重視すべきではないでしょうか。
サントリー
それはまさに3つ目の課題である「原料のサステナブル調達」ともリンクする課題です。近年、世界的な気候変動や人口増のなかで、原料となる農産物を持続的に確保することが、これまで以上に重要になっています。日本では原料調達を商社に頼るケースが多いですが、グローバルに事業を拡大していくためには、原料を使ってものづくりを行う私たち自身が「原料のサステナブル調達」への認識を深めていく必要があると考えています。
末吉
すべての課題に共通しますが、ESGの取り組みを海外に広げていくうえで難しいのは、日本で成功している取り組みが、海外でそのまま通用するとは限らないということです。決して日本での活動に意味がないということではありませんが、日本の価値観をそのまま海外に持ち込んでも、そこで働いている方々にも、現地の社会にも響かないということが往々にしてあります。
サントリー
よく分かります。例えば、株式を上場しているサントリー食品インターナショナル(株)に調査が来ているCDPにおいても、日本企業からすれば求められる開示レベルの深さに驚かされることがあります。それだけ海外とは意識の隔たりがあるということなので、そうした調査への対応も、日本とはまた異なる海外の視点を知るチャンスと捉えています。
末吉
これは私なりの解釈ですが、日本企業からグローバル企業へと発展していくうえで大切なのは、世界の課題を"対岸の火事"として捉えるのではなく、自らの課題として考え、積極的に解決に取り組むという意識だと思います。日本を中心に世界を考えるのではなく、「世界があっての日本」と認識を改めることが、世界に通用する企業となるための第一歩ではないでしょうか。

Part 3:NGOや消費者など、多くの関係者とともに社会課題の解決に取り組む

サントリー
世界の課題を自らの課題として考えるためには、世界各国との対話が重要になるのではないかと考えています。そうした海外とのコミュニケーションを活性化していくうえで、どのような方策が有効でしょうか。
末吉
世界各地での活動を進めていくうえでは、NGOとの連携が有効ではないでしょうか。私は「強いNGOを持つ社会は幸せだ」と考えています。社会の声を代弁する存在としてNGOは非常に頼られる存在となっています。
サントリー
確かに、国内の活動においてもNGOに助けられることは非常に多いですね。日本の企業文化では、なんでも自前でやろうとするところがあり、ある意味では生真面目とも言えますが、それではどうしても時間がかかってしまいます。世界各地のNGOとコミュニケーションを図る上で注意すべき点などはありますか。
末吉
NGOへの期待が高まる一方で、NGOだけでは社会課題の解決は難しいとの指摘もあります。やはり、優れた人材・組織・技術などを持つ企業が、事業を通じて社会課題の解決に取り組むことがますます重要になってくると思います。
サントリー
NGOだけでは解決できないところを、私たち企業が担っていく必要があるということですね。
末吉
その通りです。社会課題の解決に寄与するソリューションの担い手として、経営資源を兼ね備えた企業への期待が高まっています。昨今、話題となっているCSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)という考え方も、そうした認識から生まれたものです。
サントリー
CSVとは、企業による経済活動と、社会的な価値創造を両立させるという考え方ですね。私たちもCSV経営については常々意識をしていますが、なかなか具体化が難しい部分もあります。日本人の感覚では、社会貢献活動は陰徳として行うイメージになりがちですが、海外先進企業の事例を伺ってみると、ビジネスと結びつけている印象があります。ビジネスと社会貢献をどのように結びつけていくべきでしょうか。
末吉
CSVとは、CSRのような義務的な「責任」ではなく、事業としての成長が、そのまま社会課題の解決にも役立つものと考えればよいのではないでしょうか。例えばBOPビジネス(Base of the Economic Pyramid=低所得者層向けのビジネス)のように、事業を単なる利益創出の手段としてだけでなく、社会課題を解決するための手段として考えれば、実践しやすいのではないかと思います。
サントリー
社会にどんな課題があるかを見据えて、自分たちの事業活動を通じてどんな解決策を提供できるかを考えることが、CSV経営につながるということですね。
末吉
さらに言えば、課題解決に役立つ事業を行うだけではなく、事業を通じて消費者により賢明な選択を促すことも、社会貢献の1つのあり方と言えます。例えば、より環境負荷の少ない商品を選択する消費者を「グリーンコンシューマー」と呼びますが、こうした消費のあり方を浸透させられるかどうかは、企業の姿勢にかかっています。消費者の行動は、そもそも企業がつくっているものです。消費者の選択が誤っているのであれば、企業、特にグローバルに商品を展開する企業の責任が大きいと言えます。その点を自覚して、より賢明な消費者を育てることもグローバル企業の役割の1つと言えるでしょう。サントリーのような影響力の大きな会社が、リーダーシップを発揮して社会に訴えかけることで、大きな変化をもたらしていって欲しいと思います。
サントリー
環境負荷の低い商品を開発するだけでなく、そうした商品をより多くのお客様に選んでいただけるよう、広く情報を発信していく必要があるというわけですね。
末吉
これからのキーワードになると考えているのが「Inclusive」(「すべてを含んだ・包括した」という意味)です。地球環境など社会全体の問題を解決するためには、一企業だけの行動ではなく、NGOや消費者も含めて、多くの関係者を巻き込むことが重要です。例えば「水」を守るためには、自らの事業に必要な資源としてだけでなく、社会にとって必要な公共財としての水を、多くの関係者と一緒になって守っていく。そんな姿勢に期待しています。
サントリー
本日はいろいろと貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。今後のCSR経営やESG経営、そしてCSV経営を実践していくうえで、大いに参考とさせていただきます。

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