Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ラーチモント Recipe Larchmont

ホワイトラム 45ml
オレンジリキュール 15ml
ライムジュース 15ml
シュガーシロップ 1tsp.
シェーク・クープグラス
材料をシェークして、グラスに注ぐ
グラスの縁をオレンジピールでリンスして、ピールを飾る

ビジネスマンが著したカクテル理論書

1948年、カクテルをより体系的に分類しようと試みた画期的な理論書が刊行された。単なるレシピの羅列を超え、独断的論調でありながらも香味設計の指針となる分析が成されたセンセーショナルなもので、21世紀になった現在も欧米のバーテンダーたちに影響を与えつづける一冊となった。

書名は『The Fine Art of Mixing Drinks』。著者はデイヴィッド・オーガスタス・エンバリー(David Augustus Embury/1886−1960)。彼については連載171回カクテル「グルーム・リフター」で少しだけ触れているが、バーテンダーではない。

ニューヨークはマンハッタンで税務弁護士をしながらカクテルの味わいを追求し、訪ねてくる客人を喜ばせるためにカクテル制作をつづけた男である。そして、さらにもうひとつ違う側面があった。かなり強烈な個性の持ち主として知られてもいる。今回改めて彼について語ってみたい。

カクテルは食前に飲むもの。エンバリーはこれを大前提としている。そしてアロマティック系とサワー系に分類し、材料をベーススピリッツ、モディファイア(調整剤)、香料・着色剤の3つのカテゴリーで語っている。

アロマティックに分類されるカクテルは7:1を好んだようだ。そしてサワー系に関しての基本的な配合比率をスイート1:サワー2:ベース8としている。いかにドライな味わいを好んだかがわかる。食前酒にはほんのりとした甘さが感じられれば十分だとの見解だ。

エンバリーは愛すべき6つの必須カクテルを提示している。これらの理想とする配合比は次の通り。
【ダイキリ】シュガーシロップ1、ライムジュース2、ラム8
【ジャックローズ】グレナデンシロップ1、レモンジュース2、アップルジャック8
【マンハッタン】アンゴスチュラビターズ少量、スイートベルモット1、アメリカンウイスキー5
【マティーニ】ドライベルモット1、イングリッシュジン7
【オールドファッションド】アンゴスチュラビターズ1〜3ダッシュ、シンプルシロップ1、アメリカンウイスキー12
【サイドカー】コアントローまたはトリプルセック1、レモンジュース2、コニャックまたはアルマニャック8

ただし、彼はこうした配合比を絶対的なものとして語っているわけではない。あくまで基準であり、ここから好ましい配合比、味わいを探り出し、アレンジすればいい、と柔軟な対応を望んでいる。最終的な判断基準は自分の味覚であると明言している。

創作に関しては、「ダイキリ」を例に挙げて述べている。

レシピとしては「ウイスキーサワー」のレモンジュースとウイスキーをライムジュースとラムに置き換えただけに過ぎない。しっかりとした基準があれば、ベースのスピリッツやモディファイアである風味付けのジュースの代わりを見つけることで新しいカクテルが生まれる。そう語っている。

偉大なミクソロジストのもう一つの顔

エンバリー創作のサワーカクテルに「ラーチモント」がある。ニューヨーク州ウェストチェスター郡ママロネックに位置する海辺の町の名を冠したものだ。彼はラーチモントに長く住んでいたらしい。

彼の生誕地はニューヨーク州の真ん中あたり、マディソン郡イートンのパインウッズという村のようだ。ラーチモントに住むようになったのは、マンハッタンを仕事場にしてからのはずである。

マンハッタンのミッドタウンから北東に30km弱の距離に位置する。わたしは訪ねたことはないが、ラーチモントで何年か生活したことがある知り合いがいて、地名と場所は把握できている。

ロングアイランド湾に面し、鉄道が開通した19世紀後半からは裕福なニューヨーカーの夏の保養地となった。20世紀になり自動車が普及するとリゾート地から郊外型都市へと変貌する。ニューヨーク市へ、マンハッタンへと通勤する富裕層の居住地となり、いまでも裕福な地域として知られている。

現在、約90%が白人で、フランス系住民が多い。そして治安の良さから日本企業の駐在員家族が多く住んでもいる。

さて、中途半端な知識でありながら何故ラーチモントという場所に触れるかというと、エンバリーがここに長く住んでいた、という事実に歴史の悪戯のような不安定さを感じるからだ。

ラーチモントで現存する最古の邸宅“マナー・ハウス”(イラスト参照)は1797年にピーター・ジェイ・モンロー(Peter Jay Munro)によって建てられたものだ。この人は19世紀初頭、ニューヨーク州奴隷解放協会設立に多大な貢献をした人物である。

一方、エンバリーがラーチモントの住民となるのは20世紀になってからことであるが、彼にはもうひとつ別の顔があった。

1947年に大学の友愛会組織、全米友愛会会議議長にエンバリーは就任する。その頃は社会制度における人種差別撤廃が本格的になろうとしていた。ところが彼は議長の立場で、人種、信条、宗教の異なる人々との親交は避けたいと公言したのである。彼は甚だしい差別主義者でもあったのだ。

生きた時代に100年もの隔たりがあるとしても、ラーチモントには奴隷解放に尽力した人物と、人種差別主義者という両極の人物が住んでいたのである。風光明媚な海辺の地に二人の名が不協和音のように響きわたっているような奇妙な感覚にわたしは陥るのだ。

陽が射すところには陰ができるということか。ラーチモントとわたしは何のつながりもないけれど、とても印象深い町となってしまった。

アメリカの酒類研究家たちはエンバリーのカクテル研究の功績を称える一方で、彼の差別容認発言、活動については嫌悪、あるいは沈黙している。

では気を取り直してカクテル「ラーチモント」。オレンジ風味の心地いいラムサワーであり、すべての素材がバランスよく調和して不協和音はない。

ホワイトラムとオレンジリキュールがフルーティーな甘さを香らせ、ライムジュースの青っぽい酸味が涼風のように全体の味わいを引き締めている。「ダイキリ」のアレンジカクテルといえる。

気になる点はシュガーシロップ。エンバリーの配合比からすると7.5mlとなるが、1ティースプーン(5ml)程度で十分な気がする。もちろんこれは好みであり、1〜2ティースプーンの目安で調整すればいい。

さらにもう一つ、グラスの縁をオレンジピールでリンスするかしないかでフルーティーな香りや口当たりのタッチが大きく変わる。オレンジのニュアンスをより香らせたいのであればピールでリンスすることをおすすめする。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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