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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2024年度

中国農村部の生きた民間信仰の継承と再構築:巫女・道士・占い師に着目して

龍谷大学社会学部 専任講師
閻 美芳

1. 研究目的と研究の進捗状況
 本共同研究の目的は、現在の中国農村部における民間信仰の継承と再構築を実証的に明らかにすることである。
 まず、研究メンバーは、現地調査を実施した。本共同研究者である閻・範・張の三人は、いずれも、中国の農村部の関係者であり、それぞれの出身地である山東省、河南省、安徽省において、本研究に関する実証的調査を行った。
 これらの調査成果は、2024年12月8日に開催された日中社会学会冬季研究集会にて報告した。閻は「現在中国農村の民間宗教職能者の村落における役割とその型―山東省での現地調査をもとに―」を、範は「中国農村部の生きた民間信仰と再構築ー太極拳発祥地の陳家溝にある玉皇廟を事例としてー」、張は「中国内陸農村における『収驚人』の生活史からみる民俗医療の継承と変容ー安徽省南部農村を事例にー」と題する報告を実施した。
 さらに、他大学に研究講演者として招待され、以下の内容で講演を行った。閻は、2025年8月1日に関西学院大学社会学研究科で実施された大学院生向け研究会において、成果の一部を講演した。この講演は、参加の大学院生から好評を得るとともに、同大学のホームページでも紹介され、助成金による成果報告の社会的発信としても一定の意義を有した。

2. 新たに得られた知見
 閻は山東省の農村で「婦女主任」でありながら「巫婆」(神婆娘とも呼ばれる)として活動する農村女性の半農半巫の生活史、および出稼ぎ労働者から専業の道士へ転身した「半仙」(男性)の生活史を聞き取った。そこから、こうした民間信仰職能者を支える中国農民の生きた民間信仰―冥婚、祖先霊、風水信仰の厚みを改めて認識させられた。
 範は河南省の農村にある老廟と新廟の変化に着眼した。両廟は建設時期が異なるが、村特有の太極拳文化と関連の観光スポットが整備されている。新廟は観光中心地として重視されつつ、老廟は地域の中高年女性の「溜まり場」となっている。この変化は民間の宗教施設が宗教儀式の場だけではなく、地域の情報交換の場としても再定義されている。
 張は安徽省の農村で「収驚人」の生活史を明らかにした。中国の農村では、子供が未明な原因で食欲不振、四肢脱力、極度の怖がりといった症状を示し、夜間に頻繁に怖い夢を見る場合、魂が抜けたとみなされる。これらに対処する人は「収驚人」と呼ばれる。張は彼女たちの生活史を通じ、この生きた民間信仰のシステムと継承の実態を明らかにした。

3. 今後の展開
 以上の現地調査の内容に基づき、学術誌への投稿も進んでいる。なお、本共同研究は2025年度の継続課題として採択されており、新たに周玉琴氏を共同研究者として迎え入れ、研究を一層深化させる予定である。

2025年9月