成果報告
2024年度
歴史を読み解き未来を紡ぐ思考法「リバースキャスト」の構築に関する学際的・ 実践的研究
- ラボラトリオ株式会社 マネージャー
- 長島 洋介
1.課題意識と研究目的
現代社会の複雑な課題に対し、単なる過去の記録に留まらない歴史的文脈(自然・文化)を、未来創造のための能動的な資源として捉え、過去・現在・未来を動的に接続する「リバースキャスト」という手法の開発を試みている。これは、社会変革につながり得るアイデアやテクノロジーを地域に真に根付かせ、内発的な変革を促す未来ビジョン設計に向けた新しいアプローチ方法の創出を目指すものである。
2024年度は、理論面では、この手法を日本の伝統知である「守・破・離」のフレームワークで体系化し、テクノロジーの社会実装と地域活性化の文脈で持つ本質的意義を整理した。実践面では、地域情報の収集を続けるとともに、前年度に設定した「つながり」をテーマに、その地域固有の歴史とアイデンティティに基づき持続可能なまちの未来を描けるか、検討を行った。
2.進捗状況
理論面では、「ソーシャルイノベーション」の「守・破・離」の概念を用いて再整理を試みる。その際、地域の文脈を読み解くリバースキャスティングの強み・役割を改めて整理する。特に、歴史を参照するこの思考法が「守るべきもの」と「破る意義のあるもの」を見極める上で、どのように貢献し得るか、整理した。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)やスマートシティを例に取り上げ、その本質的な論点である「つながる」という概念をリバースキャストによってどのように再解釈できるか、理論的なコンセプトの(再)構築に向けたモデルケースとして検討を図っている。参照したいキーワードとして、①情報伝達役としての旅人(宮本(2006)庶民の旅)、②民藝(モノと人のつながりの視点)、③河川の歴史、④鎮守の森などをあげている。
実践面では、明治以降、急激で多彩な変動を見せている福岡市の特定地区を対象として検討を進めてきた。「つながり(人と人、人とまち)」をテーマに適用可能性を検討してきたが、より身近で、具体的な営みとして「ケア」の概念に着目することにした。介護等の専門的なケアに限定せず、日常的にみられるケア関係を地域の歴史、日本の文化から深堀し、一方的に捉えられがちなケア文化をローカルな形で刷新することを大目的として考えることにした。その際、近代化・都市化の波に翻弄されてきた(現在もされている)都市周縁部での暮らしにおけるローカルな側面と、地域に根付いているからこそ示せるグローカルなケア関係の側面の双方から整理していきたいと考えている。
3.今後の展開
• 理論面:これまでの理論的な整理に基づき、実際の手法と文化的概念の活用方法を、他地域で応用可能なよう、整理する必要がある。調査方法・対話方法・表現方法といったそれぞれの点を、実践を交えて提示できるようにしたい。
• 実践面:ローカルな実践活動を3段階(①ローカルなケア関係をとらえなおす勉強会、②地域で起きているケアの場面を可視化する「まちあるき」ワークショップ、③公開セミナー:「ケアの違和感・風景・言葉と、これから」を共有する)で展開したいと考えている。
2025年9月




