成果報告
2024年度
パンフレットの総合的分析による戦間期の言論空間再考
- 早稲田大学政治経済学術院 教授
- 土屋 礼子
1) 研究の進捗状況:本研究は、戦間期に大量に発行されたパンフレット類の総合的分析のために、第一にパンフレットの実物が所蔵されているコレクションで資料調査を行った。まず、法政大学大原社研においては、榎木一江氏とともに、2024年8月27-29日および2025年2月5-7日に実物のパンフレット合計約400点を手に取り、目録の項目を採録し、表紙等の写真を撮影した。次いで、大阪産業労働資料館(エル・ライブラリー)では、谷佳代子館長の案内に基づき、2024年9月19日および2025年6月9日にパンフレットの現物約100点を同様に採録、撮影した。また大阪公立大学長尾文庫にて、2024年9月20日にパンフレットの現物58点を同様に採録、撮影した。さらに大宅壮一文庫には、商業出版のパンフレットが多数所蔵されていることがわかったので、2025年7月23-25日に実物調査を行ない、約140点の採録と撮影を同様に行った。 第二には、期間内にエフェメラ研究会を二回開催し、また日本メディア学会でワークショップを行い、そこでの研究発表と議論を通じて、パンフレットに関する知見を深めた。
2) 成果:
①四つの所蔵機関での調査で採録した約670点のパンフレット統合目録をまとめた。また、各メンバーは以下の論文及び研究発表を行った。
②論文:研究雑誌『Intelligence=インテリジェンス』25号(文生書院、2025年3月)掲載
◎特集「戦前期のパンフレット」・土屋礼子「陸軍パンフレット事件の前後」(5-15頁)・新藤雄介「明治期初期社会主義におけるパンフレット出版前史」(16-31頁)・大尾侑子「出版広告パンフレットの普及とその受容」(32-48頁)
③学会発表:日本メディア学会2024年度秋季大会にてワークショップ「パンフレットからみる戦間期におけるメディアの大衆化」開催。司会:大尾、問題提起:土屋、討論:新藤
④研究会発表:・「「国策パンフレット『週報』の英語版について」報告(土屋)於:第66回諜報研究会(2025年5月17日)
3) 研究で得られた知見:新藤論文は、堺利彦が由文社から発行した平民文庫やそのなかの「五銭本」などの小冊子がパンフレットの最初ではないかと論じた。大尾は出版広告パンフレットに注目し、円本ブームや全集発行を支えた内容見本の機能を明らかにした。また土屋論文は1934年の陸軍パンフレット事件がパンフレットの地位を高め、その後の不穏文書取締法成立や国策パンフレット『週報』創刊に至る転換点だったと指摘した。
4) 今後の課題:今回調査した所蔵機関のうち、三つは社会運動・労働運動関係が中心で1920年代から1930年代前半、大宅文庫は商業出版が中心で1930年代に発行されたものと傾向が分かれ、パンフレットの全体を見渡すためには性格が異なるコレクションを横断することが必要であるとわかった。今後は国立国会図書館所蔵のパンフレット、また発行目録やパンフレット発行当時の文献を参照しながら、新聞社発行のパンフレットについても資料調査を行い、戦間期の言論空間の全体像を描き出したい。
2025年9月




