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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2024年度

同性婚は何を変えたのか――台湾で実際に起きていること

明治大学法学部 教授
鈴木 賢

1 研究の主旨・目的
 隣国台湾では2019年5月24日から同性間でも婚姻を成立させるための法律、司法院釈字第748号解釈施行法(同性婚法)が施行され、同性間にも婚姻を開放した。同性間の婚姻は微増する傾向にあり、2025年はこの6年来最多になるペースで増えている。台湾では同性婚がすっかり社会に定着し、婚姻が異性間に限定されるという常識は破られつつある。
 他方、日本では同性間に婚姻を成立させていない民法などの法律の違憲性をめぐって裁判が提起され、高裁では5つの判決で違憲判断が出されている。2026年にも予想される最高裁判決で違憲判断が出されれば、日本でもいよいよ同性婚を法律に実装化することが確定する。日本の世論はすでに過半数が同性婚に賛同するに至っているものの、政治の世界では抵抗が強く、立法化までにどのくらいの時間を要するかが見通せない。
 本研究はこうした日本の膠着状態を打開するために、ポスト同性婚時代に入った台湾で、法律の施行後、果たして法、社会、文芸、当事者の生活実態、LGBTQ+に対する人々の意識に何が起きているのかを明らかにすることを目的とした。

2 得られた成果
(1)法に生じた変容:
 ①同性婚カップルへの扱いの平等化:(a.)すべての国の外国人との渉外婚姻が可能に〔同性婚を法認しない国の法を公序違反とし行政解釈変更、2023.1.19〕、(b.)共同養子縁組に民法準用〔第三者の子どもを共同養子縁組可、2023.5.16法改正〕、(c.)第三国で婚姻した台湾/中国の同性カップルの婚姻可〔台中同性カップルの一部に婚姻の道を開く行政解釈、2024.9.19〕。
 ②性別平等三法の改正(2023年7月):2023年春の#MeToo(米兔)運動を受けて、性別平等教育法、性別平等勤務法、セクハラ防止法が改正され、セクハラに対する制裁を強化(雇用主、校長によるセクハラに対して3〜5倍の懲罰賠償)。
 ③包括的差別禁止法(SOGIEによる差別禁止)制定、人工生殖法(単身女性、女性カップルに人工生殖適用、男性カップルによる制限的代理懐胎出産)の改正に着手。

(2)社会に生じた変容:
 ①同性カップルの可視化:2025年6月末までに合計17,702組(女女12,309組、男男5,393組)の同性婚誕生(総婚姻数の2.16%)。
 ②世界に開かれた台湾に、国際的発信力強化:世界中(東南アジア各国、欧米、ロシア、韓国、中国、香港、日本など世界中から)からプライドパレードに参加
 ③国民意識が同性婚を受け入れる方向で変化:「同性カップルに結婚する権利あり」37.4%➡69.1%(2024)、「家族倫理は崩壊しない」38.7%(同)➡63.3%(同)(行政院性別平等処調査)
 ④社会のLGBTQに対する受容度が向上:家族やキリスト教会に受け入れられるLGBTQ、LGBTQ当事者議員の誕生(黄捷立法委員、苗博雅台北市議会議員など)。

(3)トランスジェンダーの性別変更問題:
 台湾では出生時の性別登録を変更するための要件が法律ではなく、行政命令によって規定され、生殖能力を失わせるための外科的手術をしたことの証明を求めている。これについて台北高等行政法院では、個人の性別の帰属を憲法22条が保障する人間の尊厳、人格権の核心であるとして、手術なしで性別変更を認めた(2023年9月21日判決)。以後、7件の裁判で同様の判決があり、裁判をすれば、手術なしで性別を変えることができるようになったものの、法律は依然として成立していない。2025年8月13日、100を越える民間団体が法律により正式にこれを制度化することを求めて、合同で署名活動をスタートさせた。

3 今後の課題
 本研究では、婚姻を成立させた同性カップルの生活実態についての調査を行うことができなかった。婚姻年齢、教育レベル、年齢差、離婚リスク、子育て、居住の実態などについて異性婚カップルとの違いがあるのか、あるとすれば、それはいかなる要因によるのかなどを解明することが必要である。同性婚がまだない日本にとって同性カップルの婚姻の実態がどのようなものであるかは、その導入の是非をめぐる議論にとって大いに参考価値がある。

2025年9月