成果報告
2024年度
人類史におけるモニュメント・都市・貨幣の脱権力化:国家に抗する社会をめぐる人文科学知の総合に向けて
- 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 特任准教授
- 小茄子川 歩
(1)研究の目的
文明は、国家などの高度な政治システムや固定化した包括的権威のシステムと関連づけられている権力(支配や暴力の形態を含む)、そして技術進歩の結実としての複雑な社会システムとして理解されてきた。人類史におけるモニュメント・都市・貨幣も、以上の単純な「進歩史観」による文明史観に基づくかたちで、権力ともはや自動的に結びつけられている。本研究の目的は、人類史におけるモニュメント・都市・貨幣を脱権力化し、それらの本来的意義を明らかにした上で、人類史に再定置することである。また人類が直面する地球課題解決のため、本研究成果の社会への、現実的な還元、そしてその循環(人文科学知の社会実装)も試みる。
(2)研究の進捗状況
「(3)研究で得られた知見/研究の成果」に記述するように、2年間で実施予定の当研究は、「おおむね順調に進んでいる」と評価できる。ただし当研究成果の社会への還元・循環の側面においては、まだ準備段階であるため、市民ダイアログ等の開催を2年目に持ち越した。
(3)研究で得られた知見/研究の成果
①人類史のなかのオルタナティブ「文明」という認識:〈文明〉とは、地球環境という〈状況〉において、地球的存在としての⼈間が、⼀つひとつの社会が蓄積した多様な財・知・価値の広域スケールに基づく流通システム(「⽂明現象」)の借⽤を、ボトムアップ式の〈政治〉により拒絶することによって⾃由に想像・創造され得る多様な〈社会編成の形態(フォルム)〉である。単純な「進歩史観」にもとづく既存の文明理解・文明史観とは大きく異なる。
②人類史における〈王のいない都市〉の存在、つまり都市の脱権力化:「⽂明現象」の〈政治〉的な借⽤の拒絶は、⼀つひとつの社会の「あいだ」で⾏われ、そこに発現する〈⽂明=社会編成の形態〉が〈王のいない都市〉である場合もある。そうした〈都市〉は「交易センター」ではあるが、権⼒を具象化した場ではない。むしろそれを想像・創造的に拒絶するための、「権力や暴力の帰結そのものである交易の通貨」から「平和を創造する潜在力」へというような、異なる価値の共生・自律的な同調あるいは転換のシステムの具象化、すなわち〈バッファ〉である。
③小茄子川歩・関雄二編著『考古学の黎明――最新研究で解き明かす人類史』(光文社新書)の刊行:当研究の成果の一部を含む新書を、2025年9月18日に公刊する。
(4)今後の課題
2年目も月例会「万物研」を継続し、1年目の研究で得られた〈バッファ〉という知見と各事例研究の成果を組み合わせ、人類史におけるモニュメントと貨幣についても脱権力化を試みる。そしてそれらの本来的意義を明らかにした上で、人類史に再定置することが今後の課題となる。
また市民ダイアログや国際シンポジウムの開催も今後の課題として位置づけ、当プロジェクト発足当初の計画通り、成果物2冊(最終研究報告を含む)の現実的な公刊を目指す。
2025年9月




