成果報告
2024年度
「旧東独」の35年間を「小さな物語」から捉え直す ─ メディア・まちづくり・学術・アート
- 福山市立大学都市経営学部 専任講師
- 大谷 悠
1. 研究目的:これまで十分に着目されてこなかったドイツ統一後の「旧東独地域」に焦点をあて、現場の人々=小さな物語からポスト冷戦の35年間を検証する。これにより現在急速に不安定化している西欧社会の課題点を改めて掘り起こす。将来的にはこれらの知見を議論するオープンなプラットフォームを形成する。
2. 進捗状況と得られた知見:2024年9月に東独ラオジッツ地方を現地調査し、まちづくり活動家、市議会議員(保守系地方政党及び緑の党)、元炭鉱労働者、職業訓練校職員、政治集会(右派ポピュリズム政党AfD、左派ポピュリズム政党BSW)参加者を含む地元の人々計14名にヒアリング調査を行った。現在これら実地調査の分析と、並行して統一後の東独について論じた文献・映像の分析を行なっている。現時点で新たに得られた知見は以下の通り。
①統一によるキャリアの断絶:労働者、知識人ともに統一時の年齢・職業・専門分野によってはキャリア断絶を体験し、その後の人生と現代の社会認識に大きく影響している。
②2010年代の失望感:ヒアリングから、50代以上の人々は、90年代:平和革命後の変革期、2000年代:欧州統合と東独の都市/地域の復興、と比較的ポジティブな認識をもつ一方、2010年代のユーロ危機、難民危機、コロナ対策、インフレ、ウクライナ支援について「西側のエリートが上から一方的に(反民主的に)推し進めた政策の結果、自分たちに直接的に困難が降りかかった」と認識する傾向があった。
③言論の自由とマスメディア批判:右派の政党集会の参加者は多くは、「コロナ以降、言論の自由が奪われ、西側のマスメディアと政府がまるで東独時代のように市民をコントロールしようとしている」と述べた。彼らはインターネット特にSNSによって情報を得ており、政党の主張をそのまま繰り返す傾向が見られた(教育水準の低下、外国への無用な支援、外国人犯罪、ジェンダー主義によるドイツ語の乱れなど)。
④まちづくりの可能性:工業都市Plessaで私設図書館や都市農園を行う地元の活動家は「ネット、ニュース、消費文化に惑わされず、地元にある身の回りの課題に対し自分たちで取り組む」とし、下からのまちづくりが社会の分極化に歯止めをかける可能性を示唆した。
3. 成果:2025年2月に本研究のWEBサイト「現代東独研究会」を立ち上げ、研究成果の発信を開始した。また、2025年3月8日に明治学院大学にて研究発表会(一般公開)を行なった。
4. 今後の課題:現地調査で手足を使ってもがきながら情報を収集し、結果をメンバー内での議論を続けるなかで、上記のような複数の切り口を見つけることができた。今後はこれらの切り口について引き続き深く掘り下げていく。来年度以降も調査研究を続け、書籍化を目指す。
2025年9月
※現職:福山市立大学都市経営学部 准教授




