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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2024年度

「レコード学」の構築―研究基盤の形成と魅力発信をめざして―

九州大学総合研究博物館 専門研究員
大久保 真利子

研究の概要  SPレコードは近代期を代表する音資料として貴重な文化資源である。しかしどのようなレコードが発表され、現在どこに何枚現存しているかといった研究基盤は整っておらず、貴重な研究は蓄積されているものの体系化には至っていない。本研究はSPレコードに関するあらゆる知と情報の集積としての「レコード学」の構築を最大の目標とし、その実現に向けて昨年度に引き続き研究に取り組んだ。具体的にはSPレコードを入れる袋(スリーブ)を事例として、レコード会社の販売と宣伝の側面に着目した研究を実践した。なお本研究は任意団体「歴史的音源所蔵機関ネットワーク」の発起人が中心となり、代表者を含む7名(大西秀紀、京谷啓徳、齊藤尚、三島美佐子、毛利眞人、柳知明)で行った。

研究で得られた知見と成果  スリーブに関する先行研究は極めて少ない。そこで実証的に研究をすすめるため、九州大学総合研究博物館が所蔵する約4万枚のスリーブを対象とし、デザインや記載事項が異なるものを1点ずつ抽出し、2年間で4,454点(スリーブ約2,200枚)をデジタル化したうえで多方面からの分析と検討を加えた。その結果、スリーブの作成者はもっとも一般的で数が多いレコード会社のほか、卸業者や販売店によるものもあり、前者は袋状のものがほとんどであるのに対し、後者はホルダータイプが多く見受けられた。また地域性とデザインとの関係に着目した場合、関西・名古屋のレコード会社は自社製品や専属アーティストの宣伝を積極的に取り入れるとともに意匠の変更が繰り返されるものの、東京・神奈川のレコード会社は、ロゴや会社名などをデザインに取り入れるなどブランドイメージを訴求力としながら、同系統のデザインを長年使い続ける傾向があることを指摘した。
 助成研究の総括として2025年7月には研究成果報告会「大正・昭和の音とデザイン―レコードにおける宣伝と販売とは!?―」を開催し、研究成果の一部を発表するとともに、会場においてはミニ展示コーナー(スリーブ19点、宣伝・販売促進グッズ10点)を設け、レコードおよび周辺資料の紹介と魅力の発信につとめた。

今後の課題  これまであまり扱われてこなかったスリーブを研究対象とすることは、研究の手法のみならず整理や資料作成にいたるまで模索の連続であった。助成期間内での研究成果の公開は一部に留まったが、何らかの機会に資料作成の手法や本研究で集積したスリーブ資料について可能な範囲で公開していきたい。
「レコード学」構築のためにはまだまだ多くの課題が山積しているものの、本助成により大きな一歩を踏み出すことができた。今後も精力的に研究を続けていきたい。

2025年9月