成果報告
2023年度
青少年犯罪とその伝播の実証研究─学校内での交流と犯罪知識の共有─
- ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン経済学部 博士課程
- 河原崎 耀
振り込め詐欺などの特殊詐欺や「闇バイト」など、組織的犯罪の末端を青少年が担うことが増え、SNSの発達から過去の犯罪歴が軽微なものでも長期的な悪影響をもちつつある近年、青少年の間の犯罪伝播は深刻な問題であり、青少年犯罪の伝播を深く理解することは犯罪抑制のための喫緊の課題である。そこで、本研究は、青少年犯罪と他者への犯罪の伝播を取りあげる。特に、学校内での生徒の交流に注目し、犯罪歴があり犯罪の知識を持つ者と同級生となり交流することで、犯罪歴のない者が犯罪知識を得て犯罪に加担するかを検証する。
学内の犯罪の伝播を分析するため、本研究では経済学の「イベント・スタディ」という近年発達した手法を用いる。具体的には、「犯罪歴のある生徒の転校」というイベントに着目し、転校前後で転校先の犯罪率が変化するかを分析する。犯罪歴がある者が転校した際、転校先の生徒は突然「悪友」に曝される。この悪友の転校後、転校先での悪友以外の犯罪が増えた場合、犯罪が伝播したと結論づける。先行研究ではデータ制約から青少年犯罪や犯罪伝播のメカニズムを研究できなかった。本研究では、下記の最新のデータを用いることでこの困難を克服する。また、成人犯罪の研究は経済学や社会学など分野を超えて蓄積がある一方、従来の研究では、犯罪行為が観察できない個人の特性と相関することから、推定誤差が生じていた。青少年犯罪の分析にも同様の懸念があるが、本研究では、他者の転校が予測できず、観察できない在校生の特性と無関係であることに着目することで、推定誤差の問題を解決し、分野を超えた知見を提供する。
本研究は、青少年犯罪の学校内での伝播に着目し、従来論じられてきた、他者から受ける影響に関する研究や犯罪抑制に対する学校の役割についての研究を架橋する。特に、義務教育など制度としての学校の役割のみに着目し生徒個々人の行動を見逃してきた先行研究や、データ制約ゆえの推定誤差の大きい結果を提示する先行研究に挑戦し、学校内の交流から生じる犯罪の伝播について精度の高い分析を行う。データや推定手法の制約から議論されてこなかった、青少年犯罪や学校内の他者との交流に関する研究領域を開拓する点で、本研究は非常にチャレンジングである。
本研究では、非常に質の高いデータを用いる。このデータはイングランド全人口の94%を含む行政データであり、各生徒の在籍学校や同級生の記録や、生徒の第一言語や人種、住所の情報があることから、どの友人との交流が学校内で考えられるか、従来の研究では成し得なかった精度での友人関係の特定が可能であり、非常に精度の高い推定を行うことが可能となる。
これまでの研究成果
本研究は複数年にまたがる研究プロジェクトであり、助成期間中には研究の柱となるデータセットの整備を終わらせた。このデータはNational Pupil Database (NPD)と呼ばれるイングランドの教育データと、Police National Computer (PNC)と呼ばれる一連の犯罪データが結合されたもので、非常に大きなものであり、そのデータクリーニングを完了させデータを使用可能な形に整えた。このデータには生年月、性別、人種、郵便番号の一部、第一言語、家庭環境の代理変数としての無料給食の資格の有無、特別支援の必要の有無、所属学校が5歳から16歳時点まで含まれているほか、5,7,11,14,16歳時の学業成績と、犯罪歴があればその詳細、すなわち、犯罪の日時、2800カテゴリーの種類、刑罰、そして裁判所での議論の詳細が含まれている。その情報を含むイングランドの公立学校にかつて在籍した、1985年度から2001年度生まれの約1013万人についてデータクリーニングの対象とした。このデータを用い、まず、10歳から17歳までの若年犯罪に着目し、若年犯罪と教育の相関関係をまとめることから始めた。特に、家庭環境や人種などのバックグラウンドがどのように犯罪と関連するか、そしてそれがどのように学業成績など教育と相関するのかを具に分析した。このまとめはワーキングペーパーとして近日公開する予定である。
今後の見通し
すでにデータセットのクリーニングが完了したことから、メインとなる、青少年犯罪の学校内での伝播の分析を開始している。サンプルサイズが非常に大きい上、「イベント・スタディ」の手法の計算量が非常に大きいことから分析に時間がかかることが予期されるが、2025年度末を目処にワーキングペーパーに結果をまとめ、公表したいと考えている。また、ロンドン、北海道、韓国での学会が予定されており、当研究の成果を発表する予定である。
2025年5月




