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研究助成

成果報告

若手研究者のためのチャレンジ研究助成

2023年度

女性リーダーが抱える課題に関する質的研究─モンゴル国を事例に─

京都大学経営管理大学院経営管理研究部 研究員
Galsanjigmed Enkhzul

研究動機・意義・目的
 近年、モンゴルでは民主化以降、女性の教育水準が飛躍的に向上しており、特に高等教育では女性の在籍率が男性を上回る状況が続いている(モンゴル国統計局 2023)。こうした女性の高学歴化は、ジェンダー平等の実現に向けた重要な社会的基盤になると考えられている(Sagaria 1988;Madsen2015)。実際に、専門職や教育、医療、行政など多様な分野において、高学歴化を背景に女性が活躍する機会が着実に増加している(モンゴル国統計局 2023)。
 しかしその一方で、伝統的なジェンダーステレオタイプは依然として根強く、女性がリーダーという地位を獲得し、維持する上では、制度的および文化的な障壁に直面している(Heilman 2001;Eagly& Carli 2007)。これらの障壁はしばしば、「ガラスの天井」や「リーダー=男性」といった組織的規範に基づくものであり、制度や評価基準に深く関わっている。また、女性自身が無意識のうちに、ジェンダーステレオタイプに基づいた価値観や偏った評価基準を内面化している(Galsanjigmed & Sekiguchi,2023)。
 こうした背景を踏まえ、本研究は、モンゴルにおける高学歴女性を対象に、彼女たちがどのようにしてリーダーとしてのキャリアを築いてきたのか、またその過程で直面した制度的・文化的障壁の実態を明らかにすることを目的とする。さらに、単なる障壁の記述にとどまらず、各リーダーの語りに内在する価値観やリーダーシップの特性を抽出し、モンゴル社会におけるジェンダーとリーダーシップの関係性を、グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)を用いて、インタビューの語りから帰納的に分析し、経営学的視点から理論的に明らかにすることを試みる。

研究成果・研究で得られた知見
 本研究では、モンゴルにおける管理職以上の地位にある高学歴女性16名に対して半構造化インタビューを実施し、キャリア形成の実態とその過程で直面した制度的・文化的障壁、さらには彼女たちのリーダーシップを明らかにした。その分析の結果、以下の3点が主な知見として得られた。
 第一に、多くの女性リーダーは、結婚・出産・育児といったライフイベントと仕事を「両立」ではなく「統合」する姿勢を持ち、ワークライフバランスを図るために柔軟な働き方を模索していた。特に、実母や配偶者など家族によるサポートは、職場の制度が不十分である状況を補完する重要なリソースとして機能しており、キャリア継続の鍵となっていた。
 第二に、女性のキャリア継続や昇進の可否は、制度的な整備の有無そのものよりも、上司の理解や職場文化といった「非公式な環境要因」に強く依存していた。たとえば、育児休業制度が制度上整備されていたとしても、復職後に重要な業務から外されたり、評価が下がるといった「静かな排除」に直面したという証言が複数あった。また、昇進や人事評価に関しては、非公式なネットワーク(飲み会、派閥、親密な関係)への参加が重要視されており、そうしたネットワークにアクセスしにくい女性にとっては大きな構造的障壁となっていた。
 第三に、女性リーダーたちの多くは、自身のリーダーシップを「支援」、「共感」、「対話」、「信頼」などの価値観に基づいて語っており、伝統的なトップダウン形式のリーダーシップではなく、「協働」や「関係性」を重視していた。この共感・協働型のリーダーシップは、教育・医療・福祉・文化など、女性が多く従事する分野では高く評価されていたが、一方で男性優位の業界においては「感情的」、「頼りない」といった否定的な評価を受ける場面も報告された。
 さらに、若年女性リーダーに対しては、「年齢」や「見た目」によって信頼を得にくいとされる傾向や、女性同士の職場内で生じる感情的摩擦(嫉妬や誤解)といった課題も確認された。これらの問題は、制度の整備だけでは解消されない、職場文化や無意識のジェンダーバイアスに深く根ざした構造的な課題であることが示唆された。

今後の課題・見通し
 本研究は、モンゴルにおける高学歴女性リーダーのキャリア形成に焦点を当て、その実態と障壁を明らかにしたが、残された今後の課題としては、ジェンダー比較による多角的な分析がある。特に、同様の地位にある男性リーダーへの調査を通じて、キャリア意識や昇進、リーダーシップの捉え方の違いを明らかにする必要がある。
 また、非公式ネットワークの影響やジェンダーに基づく無意識の偏見が制度とどのように作用しているのかについても、今後さらなる実証的検討が必要である。加えて、個人の努力や家族支援に依存しない持続可能なキャリア支援の在り方としての組織構築が求められる。

2025年5月
現職:北海道武蔵女子大学経営学部 助教