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研究助成

成果報告

研究助成「学問の未来を拓く」

2023年度

「趣味」の昭和史の構築―シリアスレジャーの観点による生涯学習論の刷新に向けて―

聖路加国際大学看護学部 准教授
歌川 光一

1.研究目的と進捗状況
 本研究は、テイストよりもホビーとして用いられることが一般化した昭和期の「趣味」の意味変容や趣味活動と教養主義、学校外教育の展開との関係を明らかにすることを目的としている。その際、余暇社会学におけるシリアスレジャー(R.A.ステビンス)の枠組みを参照し、研究領域としての生涯学習論(社会教育学を含む)の刷新につなげたいと考えている。
 2023年度は2名の新メンバーを迎え、領域としての生活文化や視点としての修養・教養と本グループの研究について関連を検討した。2年目の採択となる2023年度は、本テーマと生涯学習論との架橋についてより強く意識し、代表者を含むメンバーは、日本社会教育学会プロジェクト「社会教育学における余暇・レクリエーションの再検討」の運営企画と成果発表、余暇ツーリズム学会レジャー・スタディーズ部下の運営企画、権田保之助スタディーズへの参加等を行った。また各自、趣味(ホビー)の実践(史)に関わる成果発表を行った。

2.関連成果(一部)
歌川光一(2024)「昭和戦前期の「花嫁学校」再考」『余暇ツーリズム学会誌』11、pp.129₋134.
Koichi Utagawa,Josecar Paja Jr(2024)“Comparison of Japanese and German perceptions of young people’s ‘hobbies’”(2024)田野大輔・吉田純編『日欧若者文化・ライフスタイル研究』第4巻、一般財団法人山岡記念財団(印刷中)
塚本麿充(2024)「「ヴァナキュラー」と「アート」の「あいだ」に―大正・昭和初期における余技・南画家たちの暮らしと実践―」菅豊編『ヴァナキュラー・アートの民俗学』東京大学出版会
早川陽(2024)『盆栽趣味の広がりと性格』昭和女子大学近代文化研究所
大澤絢子(2024)「「より良い自己」を目指して―修養と生きがいの小史―」『音楽文化の創造(CMC)』電子版 Vol.28
青野桃子・奥村旅人(2024)「ウェルビーイングという概念と生涯学習政策としての展開」『音楽文化の創造(CMC)』電子版 Vol.28
青野桃子、歌川光一、近藤真司、薗田碩哉、辰巳厚子(2024)「特別企画:社会教育法75周年を契機に「社会教育」の過去・現在・未来を考える(1)~(3)」『社会教育』79 (7)~(9)
杉山昂平・執行治平 (2023)「趣味番組による集団学習を可能にした地域の学習資源―1970年代の公民館におけるNHK『趣味の園芸』利用に注目して」日本生涯教育学会第44回大会(口頭発表)

3.今後の課題
 2023年度の研究活動を通じて、生活文化、マス・メディアを含む大衆文化の取扱いの少なさや批判的教育学、カルチュラルスタディーズの未受容といった生涯学習論・社会教育学の課題、シリアスレジャー研究のカルチュラルスタディーズにおける位置づけといったレジャースタディーズの課題が明らかとなった。また検討対象として、シリアスレジャーの一つに数えられる「ボランティア」や、若者の「やりたいこと」志向のキャリアと趣味の関係等については十分検討できなかった。
 メンバーの専門に沿った趣味(ホビー)の実践(史)研究を継続しつつ、引き続き、趣味と教育・学習の関係の問い直すアリーナ形成を継続していく必要を感じている。

2024年9月