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研究助成

成果報告

若手研究者のためのチャレンジ研究助成

2019年度

政党組織の崩壊とエスニック・マイノリティの政治的代表─インドの事例から─

ロンドン大学東洋アフリカ研究学院政治・国際学科 博士課程
岡山 誠子

 エスニック・マイノリティ集団(以下、マイノリティ)の政治からの排除はどのように起こるのだろうか。議会に声を届けるには選挙で勝つ必要があり、有名政党からの出馬は有利かもしれないが、マイノリティがその公認を得るのは容易ではない。本研究は、ヒンドゥー教徒が8割を占めるインドにおいて最大の宗教的マイノリティであるイスラーム教徒(以下、ムスリム)の事例からこの問題に取り組んだ。
 一般的にマイノリティの排除については、選挙制度や政党システム、法律や党規則で設けられる割当制や、「エスニック紛争」との関わりから論じられてきたが、政党の中のメカニズムを正面から扱った研究は限られている。一方、政党による候補者擁立はその重要性が指摘されてきたものの、選定をめぐる交渉は謎に包まれ、その舞台は「秘密の庭」とも呼ばれてきた。
 インドのムスリムは、法律上も、党規則上も、留保議席や分離選挙、割当制のような制度がほぼ存在しない。「政治的安全装置の不在」とも呼ばれるこの事態は、独立後間もない時期に憲法制定過程でムスリム・エリートが余儀なくされた妥協の帰結といわれている。そこで圧倒的な影響力を持っていたのは、セキュラリズムの理念のもと国民統合を優先する最大の政党、インド国民会議派(以下、会議派)であった。本研究で扱ったのは、この会議派の一党優位支配が終焉した1980年代である。この時期の同党は、政党組織の崩壊とイデオロギーの混乱が目立っていた。こうした事態が、反ムスリムを公に掲げるヒンドゥー右派政党、インド人民党台頭の背景にあったのはよく知られている。制度的な優遇措置の不在のもと、セキュラリズムの党是も効力を持たない状況は、草の根におけるムスリム候補の擁立にどう影響したのか。
 本研究では、会議派の歴史的拠点として知られるある地域を扱い、100件におよぶ政党関係者やその他の人々とのインタビューやアーカイブ調査を行った。結果、暫定的な知見として得られたのは、ヒンドゥー右派の台頭や動員もさることながら、会議派党内政治の様々な在り方が公認をもらったムスリム候補者の顔ぶれとその数に一部反映されていたということである。
 本研究において継続課題は山積しているが、当面は、概念の明確化、議論の精緻化を行い、その後はインドのほかの州の事例なども視野に入れながら、マイノリティ排除のメカニズムについて多角的に分析していきたい。

 

2021年6月

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