サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 19世紀後半における在外日本コレクション形成とその役割-シーボルト収集資料を中心に-

研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2018年度

19世紀後半における在外日本コレクション形成とその役割-シーボルト収集資料を中心に-

国立歴史民俗博物館研究部 教授
日高 薫

1. 研究目的と新たに得られた知見

本研究は、19世紀後半の外交や文化、産業の分野における日欧交流の実態を、日本を訪れた外国人たちによって収集された在外の日本関連資料を軸に分析するものである。

具体的には、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトの長男で、明治政府のお雇い外国人として外交分野に貢献したアレクサンダー・フォン・シーボルトと、同じく日本考古学の黎明期に活躍した二男ハインリッヒ・フォン・シーボルトによる日本コレクションを主たる対象とし、《もの》資料調査と文献資料調査との総合研究によって、海を渡った日本の物品が果たした多岐にわたる役割を立体的に解明することを目的としている。

1873年のウィーン万国博覧会日本館における展示とその後の展示品のヨーロッパ各地への寄贈・売却が如実に語るように、物質文化・視覚文化における活発な交流は、個人コレクションの域を超えて、この時代のヨーロッパ各国と日本との外交や産業・文化の基盤形成に大きく貢献した。シーボルトの息子たちは彼らの収集資料を、ザクセン大公、ヘッセン大公、バーデン大公、ワイマール大公、あるいはライプツィッヒ、コペンハーゲン、ミュンヘン、ベルリン、ハンブルク等の博物館などヨーロッパ各地に精力的に寄贈・売却している。その行為は、単に日本文化を紹介するためのみならず、相互の貿易・産業の発展に資するという外交上の目的に基づくものであったことが明らかになりつつある。

研究グループは、ドイツやオーストリアの研究者と合同で、各地に散在するシーボルト収集《もの》資料および文献資料の調査をおこなう過程で、シーボルト末裔家より、ハインリッヒ収集と見なされる日本資料の展示風景を撮影した19世紀の古写真4枚を発見した。古写真中の日本資料を現存する《もの》資料と対照した結果、その大半はウィーン世界博物館の所蔵品と一致し、また現在ヴュルツブルクなどドイツに伝世する資料も含まれることが判明した。古写真は、ウィーン帝室自然史博物館にハインリッヒ収集資料が一括寄贈される1888年以前にウィーンの写真屋によって撮影されたものであることがわかるが、どのような機会に撮影されたものなのかは現在のところ解明できていない。

2. 進捗状況、今後の予定

国立歴史民俗博物館とウィーン世界博物館は、この協働研究事業の中間成果を広く発信するため、ウィーン世界博物館におけるハインリッヒ・コレクションに関する企画展示の共同開催を計画中である(日墺友好150周年企画、2020年2月20日~5月15日に開催予定)。また展覧会会期中の2020年3月に同博物館で関連テーマによる国際シンポジウムを開催する。企画展は、古写真に写された19世紀の展示風景の情報をもとに構成し、ハインリッヒ収集の日本資料を具体的に紹介しつつ、その受容の実態や収集品がヨーロッパで果たした役割を考察する。また、古写真と現存資料との対応関係をわかりやすく説明するため、モノクロ古写真にカラーの資料写真を嵌め込んだムービーを作成して映写する。

これまでに、ウィーン世界博物館(2018年10月・2019年1月)、ドイツのブランデンシュタイン家(2018年8月)、ヴュルツブルク・フランケン博物館(2018年11月)で調査をおこない、古写真中の約70パーセントの資料の同定と撮影を完了すると同時に、各地に散在することになったシーボルト・コレクションに関係する文献等を収集した。さらに今後、ミュンヘン五大陸博物館(2019年3月)、世界博物館(2019年6月)の調査をおこない、展覧会およびシンポジウム開催にむけて研究を深め、関連資料の調査撮影と、展示内容の検討を進めていく予定である。

2019年8月

サントリー文化財団