サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 1970年代若者文化の学際的研究-政治の季節と大衆消費社会のはざまで

研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2018年度

1970年代若者文化の学際的研究-政治の季節と大衆消費社会のはざまで

立命館大学産業社会学部 准教授
富永 京子

1.研究目的

本研究は、「1970年代」の若者文化を代表するメディアとして読者参加型雑誌『ビックリハウス』(1973-1985)の投稿内容・編集方針を検証することで、「政治の季節」「前衛」「対抗文化」などで特徴づけられる1960年代の若者・メディア文化が、いかなる持続と変容を遂げて1980年代以降の大衆消費文化に接続されたのかを解明するものである。

1960年代については、学生運動研究に加え「政治の季節」との関連から若者のメディア・文化表象の政治性、前衛性を検証する先行研究が数多く存在する。また、1980年代文化についても、60年代と対比的に論じる研究の蓄積が近年見られる。だが、2つの時代の「断絶」の中間に位置する「1970年代」にいかなる変化が具体的に生じ、若者が「対抗する主体」から「消費する主体」へと変貌したのかは見落とされてきた。本研究では、読者参加型雑誌における寄稿者・編集者の言説を、メディア論の観点から検討し、若者文化の変容の細部を多角的に精査する。

2. 得られた知見

現在は『ビックリハウス』創刊から休刊にいたるまでのコーナー編成と投稿内容を分析している。創刊直後から1981年以前には投稿者の独創性・創造性に委ねた投稿やコーナー編成をしていた。また、学校や家族、地域といった身近な社会に対して怒りや不満をぶちまけるような投稿が好んで採用されており、非行の告白や社会問題に対する議論が扱われることも少なくなく、論争的に取り上げられることもあった。

しかし、1981年以降、紙面の内容は比較的整理され、編集者・寄稿者の存在感が相対的に上がったことと関連してか、投稿者の自由な投稿は誌面において減少することになる。社会に対する不平や不満、大人や権威への対抗に基づく意見や論争といった政治性・対抗性を持った要素は徐々に誌面から姿を消し、エンタテイメント性を高めていく。

本研究はメディア論とマーケティング史の観点から、1970年代に、権威への対抗や社会への不満などの対抗性が「シラケ」と呼ばれる政治的無関心や政治への忌避感に変容したことを明らかにした。だが申請者らはその要因が、先行研究が論じた「消費社会化」とは異なる要因に基づくものと考えている。

3.進捗状況、今後の予定

現時点で渉猟している調査データと先行研究を元に、現在、一報の論文(「メタゲームとしての雑誌投稿」)が刊行決定済、またもう一報の日本語論文を投稿している。

若者が社会運動や政治への冷笑や忌避感を強め、そこで雑誌が重要な役割を担った実態は、明治期にも観察されている。そこで申請者らは、明治期の青年文化とメディアの関連を検討した先行研究の知見から1970年代の読者参加型雑誌を再度対比的に分析することで 、 1970年代における若者文化の変容を辿ると同時に、消費社会における「若者」表象の特質をより明確にしたい。

2019年8月

サントリー文化財団