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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2018年度

自治体における国民保護の解明と実効性向上の検討 -ヒアリング調査と国際制度比較を通じて-

防衛大学校人文社会科学群 教授
武田 康裕

1. 研究目的

本研究の目的は、国民保護の主たる担い手である地方自治体に期待される役割と、これを担うための取り組みについて調査・分析を行い、制度や施策の現状と課題を解明するとともに、国民保護の実効性を高める政策的方向性を提示することにある。

2. 研究の実施方法

今年次は、2018年8月、10月、2019年1月、2月、3月、4月、5月の全7回の研究会を開催し、地方自治体および中央省庁、並びに民間事業者やマスメディア等の実務担当者からのヒアリングを実施した。また、2019年1月には、地方自治体の図上訓練と実動訓練を視察した。

3. これまでに得られた知見

・国民保護制度の普及・発展を阻害する要因として、識者の多くが共通して指摘していたのは、①戦後日本の政治文化による危機意識の欠如・関心の希薄さ、②強力なセクショナリズムによる関係諸機関の相互理解・連携の不足あるいは欠如、という点である。

・国民保護制度が災害対策基本法に基づくスキームと類似したものになった背景には、上記の①・②に加え、武力攻撃事態法に併せて性急な形で法整備せざるをえなかった当時の政治状況が影響していたことも確認できた。

・現在各地で行われている実動訓練は、事実上、消防・警察・自衛隊などによるデモンストレーション・イベントという面が際立つ形になっている。その結果、本来、訓練の主眼となるべき自治体職員の調整能力の向上や主体性の強化という点では効果に疑問がある。他方で、図上訓練は、情報の収集、分析、共有、伝達の方法を確認する重要な機会になっている。

・指定公共機関である民間事業者の国民保護への取り組みは、法令上必要な措置などを除き、各企業が平素から整備している「危機管理」の範疇で扱っており、重大事故・自然災害対策と敢えて区分されてはいない。

4. 今後の予定

これまでの研究成果を、芙蓉書房から『日本の危機管理体制を考える―国民保護と防災をめぐる葛藤』(仮題)として2020年4月頃に刊行予定。

2019年8月

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