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研究助成

成果報告

若手研究者のためのチャレンジ研究助成

2017年度

人口減少卓越地域における集落コミュニティの変容に関する研究

東京大学大学院工学系研究科 博士課程
高柳 誠也

研究の動機
 日本は本格的な人口減少社会に突入し、人口減少社会に適応した地域づくり・各種計画立案が必要とされている。また人口減少がすでに進行している地方や中山間地においては、地域の存続や限界集落などの議論についても活発に行われている。そうした中で、実際に人口減少卓越地域がどのように分布しているのか、そして人口減少卓越地域(集落)においては空間がどのように変化してきたのか、また空間変化とともにコミュニティの変化などがみられるのかに着目することにより、今後の人口減少社会における中小集落のあり方について検討するための基礎的な知見を構築することを目指した。

研究の方法
人口減少卓越かつ空間変容の大きい地域の抽出
 国勢調査人口メッシュデータと国土数値情報土地利用細分メッシュデータを統合したデータベースを構築した上で、人口減少かつ空間変化の大きい地域を抽出するために、GISソフトを用いて1970年代~2000年代における人口減少率が大きく、かつ土地利用が粗放化(「水田」から「森林荒地」、「畑地」から「森林荒地」へと変化)した地域について抽出を行った。

抽出地域における空間変化について分析
 上記で抽出を行った地域において、地形図をもとに空間変化についての分析を行い、集落空間の変化の特徴について分析を行った。

空間変化と集落コミュニティの変化についての関係性についての調査・分析
 空間変化の特徴をもとに、空間変化のあり方と集落コミュニティの変化との関係性について、研究対象地域に関する文献資料による調査と、現地調査・ヒアリング調査によって調査・分析を行った。

研究成果
人口減少卓越かつ空間変容の大きい地域
 GISを用いた分析により、非都市部で人口減少が卓越し、水田および畑地が粗放化している割合が高い地域は図1、図2のようになった。水田型地域ではゴルフ場開発の影響を除くと新潟県上越地方などで人口減少かつ水田放棄地が多い地域がみられた。また、畑地型地域では、酪農による影響を除くと福島県中部、長野県北部、徳島県西部などに人口減少かつ畑地放棄地が多い地域がみられた。
 本研究では水田型地域として新潟県上越地方(上越市安塚区)、畑地型地域として徳島県西部(つるぎ町半田地区)を詳細対象地域として分析を行った。

詳細対象地域における空間変化
 詳細対象地域について、1970年代と2000年代の空間変容について2万5千分の1地形図を比較することによって分析を行った。
 水田型地域においては、末端部の水田耕作を行っている集落を中心に、集落の居住域(建物)についてはほとんど変化がなかったものの、周辺の水田においては、棚田の傾斜が急峻な場所や集落の居住域から離れている場所においては耕作放棄地となっているものが多かった。また、棚田は一定の領域がまとまって耕作放棄となる場合が多いことが明らかとなった。
 畑地型地域においては、傾斜地に立地する集落を中心に、集落の居住域がまとまっておらず、家屋とその周りの畑地がランダムに耕作放棄地化していく様子が観察された。また、畑地については整備された農道周辺のものは残存する傾向が高い様子が観察された。

集落の空間変化とコミュニティ変化との関係
 文献調査および現地調査により、水田型地域の集落においては棚田の管理の仕組み、共同水路の管理などを集落全体(ないしは集落内の組)によって共同で行っていたものの、現在は担い手が減少し、個人で管理しているものが多いということであった。また、そういった管理が難しくなる棚田については、一定の領域で放棄せざるを得ないという。
 それに対して畑地型地域の傾斜地集落においては、各個人によって畑地の維持・放棄について決定しているということであった。そのため、空間的にはランダムに耕作放棄地が行われる傾向がみられることが明らかとなった。

今後の展望
 人口減少が進行する中山間地域において、その地域の特徴によって空間変化の傾向が異なり、その傾向にはその集落での農作業などのあり方が影響していることが明らかとなったため、さらにその影響の違いや共通点に関して、他地域について同様に調査分析を行うことで明らかにしていきたい。

図1

図1 人口減少かつ水田放棄卓越地域の分布

図2

図2 人口減少かつ畑地卓越地域の分布

 

2019年5月

現職:東京理科大学理工学部 助教

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