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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2016年度

文化的・人間行動的特性と医療制度のあり方

大阪大学経営企画オフィス 准教授
平井 啓

【研究会の目的】

課題:日本の医療の制度設計:現在、文化や人間の特性を考慮せず、情報さえ与えられれば患者や医師が意思決定できるという合理的な意思決定を前提としているために、終末期における積極的治療のあり方、臓器移植ドナーの不足、子宮頸がんワクチン接種のあり方、HIV陽性者の受療行動、認知症患者の意思決定等において、さまざまな問題が起こっている。

解決策:臨床医、公衆衛生学、心理学、文化人類学、経済学の研究者から構成される学際的研究会を組織し、繰り返し議論を重ねることで「行動経済学的考え方=合理性を前提としない人の判断についての思考の枠組み」を理解し、それを活用した医師と患者への意思決定支援のあり方を提案する。

【医療行動経済学研究会】

心理学者・経済学者・予防医学研究者・医師(緩和ケア・内科・婦人科・精神科・循環器内科等)・文化人類学者等の多分野の研究者と実践家が参加する医療行動経済学研究会議を発足させ、3回の研究会議(H28.10.1;H29.2.18;H29.6.3)と分科会(H29.7.15)を開催し、延82名が参加した。

研究会議で議論したテーマは、高齢患者を含むがん治療における意志決定、緩和ケアにおける後悔と意思決定支援、心停止下臓器提供や小児の臓器提供を含む臓器提供の選択肢提示、免許更新時における臓器提供意思表示促進、臓器ドナー家族のケア、子宮頸がんワクチン接種、骨髄バンクのドナー登録、肝炎ウィルス検査の受診勧奨、メンタルヘルスケアにおける受診勧奨であった。

これらのテーマについて行動経済や意思決定理論などを共通の理論的枠組みとして議論を行ったところ、合理性を前提としないコミュニケーションのフレームワークであるNUDGEの各領域への可能性と、各テーマにおいて損失回避性やそれに関連するバイアスの特徴をさらに検討する必要があることが明らかになった。

【研究成果と進捗】

研究会議での議論を元に、「積極的抗がん治療の中止に際する医師からの説明に関する行動経済学的研究」(東北大学・大阪大学共同研究調査研究計画)、「乳がん検診の受診行動と行動経済学的バイアスに関する予備的調査」(大阪大学社会経済研究所共同利用・共同研究事業)の研究計画の立案と調査を実施した。このうち、前者については第19回国際サイコオンコロジー学会において成果を報告し、awardを獲得した。高齢がん患者・認知症を合併したがん患者の意思決定支援について、意思決定支援の概念的枠組みを整理し、厚生労働省・AMED合同研究班会議で提示し、今後の研究プロジェクトの中心となる枠組みとして設定した。また、教育プログラムのコンテンツとして議論を行ったものを、「行動経済学的思考に基づく最新意思決定支援法ワークショップ」として開催した(2016.11.16関西労災病院において医師14名が参加)。

この他、研究会議の議論を踏まえ「免許更新時における臓器提供意思表示促進のための行動経済学的介入研究」など、計3つの研究計画を立案し、関連する研究班や科研プロジェクト、他の研究機関と共同で研究を進めている。また週刊医学界新聞(看護号)において「行動経済学☓医療」の連載を開始した。

【今後の展望】

関連する研究計画の実施と「医療行動経済学」に関する書籍の執筆・出版を計画している(2018.7まで)。

2017年8月


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