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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2016年度

アジア太平洋地域における世論の変化と国際紛争
――経済的相互依存と存外米軍のネットワークがもたらす影響を中心に――

大阪経済大学経済学部 准教授
籠谷 公司

(1)国際ワークショップの目的

昨年からワークショップの中核をなす3名の研究者が中心となり、Pacific International Politics Conferenceという学会活動を開始し、第二回年次総会を2017年7月1日・2日に延世大学校で開催した。2016年度研究助成を用いて、この直前の6月30日に小規模の国際ワークショップを延世大学校(ソウル・韓国)で開催し、7月24日・25日に国際ワークショップを大阪経済大学(大阪・日本)で開催した。これらの活動の目的は以下の通りである。

アメリカが牽引している科学的なアプローチに基づく国際関係研究は、日本だけでなくアジアにおいても未だに少数派である。アメリカのPh.D.取得者がアジア各国で少しずつ増えてきていることを踏まえて、科学的アプローチを採用する若手研究者が活発に意見交換を行い、論文の国際誌への投稿を支持するような研究者コミュニティーの形成を目的としている。

(2)国際ワークショップの概要

ワークショップでは、経済的相互依存、在外米軍、世論、国際紛争のうち少なくとも2つのキーワードに関連する研究を広く募集し、研究成果の報告を行ってもらった。その中でも、在外米軍に関わる研究成果を二つ紹介しておきたい。

一つ目は、在外米軍の展開力と抑止問題についての研究成果である。米国が複数の同盟国を抱える場合、予算制約の問題から、全ての同盟国に必要なだけの軍隊を駐留させることはできない。このとき、当該同盟国と近隣同盟国の軍隊は有事の際に補完的な役割を果たすと考えられている。しかしながら、同盟政治に注目すると、アメリカは同盟国による不必要な紛争に巻き込まれることを回避しようと、近隣の在外米軍を増やすことによってリスクを分散させる誘因を持つ。つまり、このリスク回避行動が当該国を守る決意の弱さと認識され、当該国への挑戦を促し、抑止の失敗に繋がることになる。この仮説は、全てのアメリカ同盟国を対象にした統計分析によって支持された。

二つ目は、南シナ海や東シナ海の領土紛争における紛争解決手段に対する世論についての研究成果である。南シナ海の領土紛争では、米軍による「航行の自由」作戦を通じた軍事力に基づく解決、常設仲裁裁判所による裁定を通じた制度的解決といった二つの政策対応が行われてきた。これらに対して、世論はどのような反応を示すのであろうか。また、東シナ海の領土紛争にこれらのシナリオを適用すると、世論はどのような反応を示すのであろうか。これらの問いに答えるため、米軍の活動や仲裁裁判の裁定に関する新聞記事の要約を見せる形で政治情報を与え、紛争解決手段に対する反応を見ることを目的として香港と日本でオンライン・サーベイ実験を行った。両方の事例に共通するのは、世論の反応は一様ではなく、年齢や世代に応じて異なるということである。香港では、近年の学生による抗議活動の弾圧を反映して、若年層だけが米国による軍事介入を支持していた。日本では、戦争の経験や記憶を持つ高年層は、中国を刺激しかねない両方の紛争解決手段に対して不支持を表明していた。また、若年層は国際制度による仲裁だけを強く支持する態度を見せた。これらの結果を踏まえて、米国の軍事介入による解決の実現性は、安定した世論の支持に左右されかねないことが理解された。

本助成によってアジア太平洋地域の研究促進ならびに研究者間のネットワーク構築が実現した。研究代表者として、貴財団の温かい御支援に厚く御礼申し上げたい。

2017年8月


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