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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2015年度

信頼研究の学際化を目指したプラットフォームの構築
― 応用哲学的アプローチによる異分野間の方法論の総合 ─

大阪大学大学院基礎工学研究科 特任助教
小山 虎

本研究では、信頼研究の学際化という目的を達成するため、積極的な異分野交流が行われた。年間を通じて、共同研究者による報告と議論のための定例研究会が計5回、情報科学、社会心理学、政治学、社会学など多様な分野の講師を招いた「信頼研究の学際化ワークショップ」が計5回開催された。ワークショップはすべて公開され、一般参加者を巻き込んだ活発な討論が行われた。

研究成果として大きく以下の二点が挙げられる。第一に、複数の独立した研究分野における信頼研究を比較検討することにより、哲学、心理学、社会学、経済学、動物行動学などにおける信頼の定義を元に、「信頼の定義集」を作成した。定義集の有用性の一つは、統一的な視野の元でそれぞれの分野における信頼研究を関係付ける点にある。例えば、本定義集を用いることで、大学教員が授業設計をする際に効果的な授業設定ができる可能性が示された。このように、充実した定義集があれば、異なった方法論・理論的語彙を使用する異分野研究者のコミュニケーションを促進させることができると考えられる。

第二に、応用哲学的観点から各分野の信頼研究を検討することにより、異分野間での共通項と相違点が浮上した。まず、どの分野においても、信頼関係そのものは、被信頼者に対して信頼者が有する予測、期待、一定レベルの主観確率などの、ポジティブな態度として分析されており、目的の異なる諸分野の研究における一種の収束を見て取ることができた。また、分野によっては信頼関係そのものより、その帰結に焦点を当てるなど、分野間での差異も明らかとなった。例えば社会学においては「社会的複雑性を減少させるメカニズムとしての信頼」という議論がなされている。

以上の成果により、従来の信頼研究の共通点と差異、そして学際的展開の可能性が可視化されたと言える。今後の課題としては、上述の定義集、分析結果を利用した新たな信頼研究の創出が挙げられる。例えば、信頼が失われる「不信」や不信から信頼を回復する「信頼再生」のメカニズムを解き明かすなどの応用が想定される。

2016年9月


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