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研究助成

成果報告

研究助成「地域文化活動の継承と発展を考える」

2014年度

大原孫三郎・總一郎が地域の発展に果した役割と今後の展望

公益財団法人大原美術館 理事長
大原 謙一郎

1.研究の成果または進捗状況

(1)大原孫三郎・總一郎研究会

 2014年12月開催の「第3回大原孫三郎・總一郎研究会」では、大原總一郎に関する講演及び大原孫三郎・總一郎に関する研究発表4本、並びに大原家に関する資料の展示を行った。研究発表は、いずれも質の高い発表であり、聴講者にとっても新たな知見を得る機会となった。研究会の概要は、2015年7月に『第3回大原孫三郎・總一郎研究会報告書』として発刊した。 研究会は今後とも継続開催し、研究者の育成と地域社会の期待に応えてゆきたい。

(2)大原研究(大原孫三郎読書会、大原研究セミナー、大原總一郎日記研究会)

 前年度に実施した「大原孫三郎読書会」は、参加者の継続研鑽のため2014年8月交流懇談会を開催した。次いで、2014年5月から毎月、「わしらの眼は十年先が見えるのか?」と題し、大学生を中心とする若者を対象としてセミナーを開催し、芸術・金融・観光・農業・医療・福祉・産業等、様々なテーマでディスカッションを行った。本セミナーは、前年度読書会参加者が講師を務めることで、彼らの理解はもとより若者の学習の場になり次代を担う世代の育成にもつながっている。2015年3月その集大成として有識者を招いて報告会を開催した。さらに、2015年4月からは「大原總一郎日記研究会」を発足し、大原精神を一層深く検証する作業に入った。

(3)大原孫三郎・總一郎記念講演会

 2015年7月、恒例となっている「第60回大原孫三郎・總一郎記念講演会」を開催した。本講演会は、明治35年に大原孫三郎が創設した「倉敷日曜講演」の主旨を継承するもので、今回は、第60回の節目にあたり講師に公益財団法人サントリー文化財団特別顧問山崎正和先生を迎え、「装飾としての藝術と認識としての藝術」と題する講演を約200名が聴講した。「藝術」の原点を辿り、検証する内容で、多様な価値観が容認される時代にあって、聴講者には、大原精神の原点を想起させる講演であった。

(4)資料整備

 大原孫三郎・總一郎宛ての書簡類を整理することに加え、有隣会事務局・倉敷市歴史資料整備室・岡山県立記録資料館においてデジタルデータ(約19,000コマ)を公開している。また、研究者への情報提供などのレファレンス業務にも応えている。

(5)論文集編纂

 第1・2回大原孫三郎・總一郎研究会での成果を中心とする論文集『大原孫三郎・總一郎研究』の編纂を進めており、2015年8月には発行する予定である。


2.研究で得られた知見

 大原孫三郎設立の「倉敷労働科学研究所」が開発した「労研饅頭」誕生には中国人料理人が関与し ていたなど、今日までに解析した大原家文書のみでは捉えられなかった大原孫三郎や總一郎に関する 事績が徐々に明らかになりつつある。暉峻義等の研究者、民芸の研究者、経営史の研究者等他分野の 研究者からの報告によるものもあり、側面的研究の必要性も出てきている。さらに、原資料は全国各 地に散在しており、孫三郎、總一郎の活動分野と地域の広がりも確認されつつある。


3.今後の課題

 21世紀を迎え、我が国は、流動する国際情勢の中で新しいあり方を模索している。そうした中、確固たる社会観、倫理観を持って変革と創造に挑み多くの足跡を残した大原孫三郎、總一郎の思想と行動を検証し、これを現代に活かすことの意義は大きい。

 本研究の目的は、現在の倉敷に多大な影響を及ぼしている大原家、特に大原孫三郎・總一郎父子の 事績を、大原家に伝わる膨大な資料を基に、多分野の研究者の協力を得て実証的に検証し、これを広 く普及させることを目指すものである。このことは過去3回の研究会での発表によっても明らかにさ れつつあるが、さらに今後とも資料整備を推進することで研究環境の充実に努め、セミナーや講演会 を通じて、より多くの知見を得、その成果を地域に根付かせることも必要と考えている。
 今後とも地域の安定と持続可能な社会の構築のための目標を示し、実践例を提案して参りたい。



2015年8月

サントリー文化財団