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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2014年度

アラブ世界を対象としたメディア文化政策に関する国際比較研究

東京大学大学院人文社会系研究科 日本学術振興会特別研究員(PD)
千葉 悠志

 本研究の目的は、中東(わけてもアラブ世界)を対象としたメディア文化政策の系譜と今日の実態を、国際比較研究を通じて明らかにすることにあった。とりわけ2000年代以降、ソフト・パワー構築の一環として、各国で盛んにメディア文化政策が推奨されており、そこには少なからぬ資金と労力が投入されている。それゆえ、メディア文化政策研究は今日の各国の政策とも深く結びつく、フロンティアな研究領域である。
 しかし、アラブ世界を対象としたメディア文化政策を学術的かつ体系的に論じた研究は、世界的に見ても極めて僅少である。そこで、研究代表者は各国によるメディア文化政策の実態を広く論じ、その特徴と効果について、様々な角度からの検討をおこなうべく、国内の研究者と、韓国、フランス、オーストリアといった国外の研究者からの協力を得て、本研究を組織した。以下では、本研究から得られた成果を、(1)新たな学際研究分野の開拓、(2)事例研究の蓄積、(3)国内外の研究者ネットワークの構築という3点から述べたい。
 第1に、本研究を通じて、新たな学際研究分野の開拓を推し進めることが出来た。近年の日本や欧米ではソフト・パワーやメディア文化政策をめぐる研究が進展し、新たな理論的枠組みが提起されている。しかし、多く場合、中東やアラブといった地域の事例が抜け落ちている。一方、日本の中東研究においては、メディア研究の視点が抜け落ちている。言うならば、日本における中東研究とメディア研究とのあいだには大きな隔たりが存在している。中東研究者とメディア研究者から構成される本研究は、両者の隔たりを埋め、学際研究の新たな地平をつくりだすための貴重な機会になったと確信している。
 第2に、韓国や欧米の研究者、またトルコやイランといった非アラブ圏を専門としている日本の研究者の協力を仰ぐことで、欧米、韓国、日本、トルコ、イランからアラブ世界へとおこなわれているメディア文化政策の実態について、広く論じることが出来た。アラブ世界を対象としたメディア文化政策の実態をより包括的に論じるにあたっては、さらなる事例研究の蓄積が必要と考えられるが、近い将来、本研究で得られた成果を何らかのかたちにまとめて、公表したいと考えている。
 第3に、欧米とアジアの研究者が協力して組織する本研究は、アラブ向けのメディア文化政策に関する初の国際共同研究である。本研究を通じて、当該分野における世界の研究を先取しうるための研究ネットワークの構築が適ったと確信している。とくに2015年6月に開催した国際ワークショップには、日本と欧米の中東メディアを専門とする研究者が複数参加しており、今後の国際的な学術連携にも結び付く非常に重要な契機となった。
 総じて、本研究を通じて、学術的・社会的要請が高いながらも、これまでほとんど手つかずであった分野に対して、大きな進展をもたらすことができたと考えている。比較的若手の研究者を中心に組織された研究であったため、研究会や国際ワークショップを組織するためのイロハを学べたことも大きかった。発展的研究につながりうる、実り多き研究ができたと考えている。

 


2015年8月

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