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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2014年度

アジア太平洋地域における地域統合の進行:TPPを事例に

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
浦田 秀次郎

 本研究は,アジア太平洋における地域統合の枠組みである環太平洋パートナーシップ(TPP)を題材に,参加国・参加表明国・不参加国の類似性および異質性を比較することで,アジア太平洋諸国における自由貿易への積極性・関与度を分析することを目的とした。特に,各国の経済要素と政治要素に着目し,地域統合参加のタイミングの差異に関する新たな仮説を考察し、それらを検証した。本研究は,比較政治学・国際関係論・国際経済学の知見を統合した学際的プロジェクトとして,現在進行中のTPPをパイオニア的に分析した。分析にあたり,国際経済班と比較政治班を組織した。前者は自由貿易協定参加のモデル構築へ向け数量分析を行う一方,後者は地域統合参加に関する要因を抽出すべく各国の事例研究を行うこととした。研究成果は以下の通りである。
 国別研究に先立って、TPPの起源、交渉の進捗状況、特徴などについて分析を行った。TPPの特徴は自由化水準が高く包括的な内容を含む枠組みであり、他の地域で進められている自由貿易協定(FTA)交渉を先導していることである。TPP交渉は8か国で開始されたが、その後、参加国が増えて、現在12時カ国で交渉が行われている。FTA交渉中に参加国の数が増えることは珍しいが、FTAから除外されることから発生する貿易転換効果を回避するために参加するのである。
 以下、研究で取り上げた国々について、TPPに対する対応について検討した結果を報告する。米国はTPP交渉を先導しているが、米国にとってのTPPの重要性は、国際貿易ルールの策定、アジア・リバランス政策、日米同盟、他のメガFTAの先導、の4点である。豪州もTPP交渉に参加しているが、参加決定にあたっては、米国の参加が重要な要因であった。豪州はTPPが将来豪州の最大の貿易相手国である日中韓に拡大することは期待できないという判断から、これらの国々と二国間FTAを締結した。日本は途中からTPP交渉に参加したのであるが、交渉参加までには、かなり時間がかかった。TPP参加決定は民主党政権時においてなされたが、実際に参加が実現するのは自民党政権になってからであった。自民党政権下においてTPP参加が可能になった理由としては、TPPをめぐる政策意思決定システムの変更が重要であった。具体的には、第二次安倍政権では、首相が官邸主導による党運営により内閣及び与党に対する強い自律性と統制権力を掌握することで、政府与党内の政策決定過程で主導権をとることができたことで、TPP参加が実現した。韓国はTPPへの関心を表明するのが遅れたために、TPP交渉には参加していないが、その背景には、一連の政治危機と強化された国会により,貿易政策における合意形成が重視されるようになった事情があった。台湾もTPP交渉には未参加である。中国との関係改善を背景に東アジア包括的経済連携(RCEP)と両輪でのTPP交渉参加に意欲を見せているが、次期総統選で中国との関係に距離を置く民進党が勝利したならば、TPPへの対応にも変化が出てくる可能性がある。
 今後も研究を継続し、分析を深め、書籍に纏める形で発表する計画である。

 

2015年9月


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