サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 静岡の茶業と茶文化の共同研究と発信による地域振興

研究助成

成果報告

研究助成「地域文化活動の継承と発展を考える」

2013年度

静岡の茶業と茶文化の共同研究と発信による地域振興

静岡大学人文社会科学部 教授
小二田 誠二

 静岡は、歴史的にも現在でも、茶の生産から流通に至るまで、多くの関連産業を含め、日本における茶産業の中心であり、茶とともに発展してきた。一方、実際に茶業に従事する人たちは、外国を含む他産地との競争、消費の低迷等への対応に専心しており、こうした歴史・文化研究の成果に触れる余裕はない。
 この研究では、茶の専門家だけでなく、歴史学・民俗学・文学など、茶業と直接関わらない専門の研究者と茶業関係者とがお互いの知識や情報を共有し、江戸時代以前から近代に至る茶に関わる文献を読み解き、或いは古老からお話を伺うことで、日本茶の拠点としての静岡を学び、発信する。
 今回の研究では、これまでの研究の反省を踏まえ、そこで築かれた茶業・茶文化に関わる人々、研究者のネットワークを活用、地の利を活かし、文献研究と実際の聞き取りや実地調査などを通して、交流しながら学びあう場を作って活動している。

 今年度の具体的な活動は、以下のように3分類出来るのでそれに従って概要を説明する。
1 深蒸し茶に関する聞き取り調査
 「深蒸し茶」という言葉は、茶業周辺では普通に使われるが、全国的に広がっているわけでは無い。また静岡では「山のお茶」に対して、否定的な意味で使われることも多い。そもそも深蒸し茶とは何で、何のために、どのように生まれたのか、実は正確な記録は無い。今回、徹底的な聞き取り調査、文献調査を行ったことで、新しい知見が得られた。輸出から国内消費へシフトした茶業界の努力が忍ばれる。報告書『深蒸し茶のルーツ』は非常に好評で、改訂版を公開予定である。

2 世界お茶まつり等のイベント企画・参加
 3年に一度静岡で開催される世界お茶まつりにおいて、その時までに調べ得た深蒸し茶に関する展示、及び、関係者の座談会を行った。これは報告書に収録。このほか、世界緑茶協会と共同で、茶輸出のための広告資料の展示を行った。展示は次年度以降も計画中。

3 不定期の公開勉強会
 メンバー及び専門家をお招きして、お話を伺い、意見交換する会を不定期で、基本的に公開で行っている。具体的には
・深蒸し茶試飲検証会と意見交換会:茶業関係者
・深蒸し茶の変遷 勉強会:茶業関係者
・静岡茶業の建築文化について:二村悟氏
・『日本茶文化大全(ALL ABOUT TEA 日本茶篇)』読書会
・静岡県の製茶機械史〜県内に現存する近代製茶機械からのお話:深津修一氏
・金谷の紅茶物語:山口聡氏
 これらのうち、深蒸し茶に関わる部分は既に報告書に収録。他は次年度に展示や報告書に活用する予定である。

 今後は、近代産業遺産としての生産機械類の調査、静岡市及び藤枝市の茶町の町並み再現を伴う観光資源化、蘭字(欧文茶箱ラベル)及び、それ以降の茶流通に関わる商標や広告の歴史の整理、研究、展示を計画している。

2014年12月

サントリー文化財団