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研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2013年度

縮小都市の持続可能性に関する国際比較研究
― 内発的な「創造性」を養育する社会システムに注目し ―

龍谷大学政策学部 教授
矢作 弘

<研究の概要>

研究の目的:20世紀末期以降、先進諸国の諸都市が人口を減らしています。人口が10万人以上いる都市の1/4が人口を減らし縮小都市です。人口減少の理由は様々です。産業構造の転換による雇用機会の減少、豊かになったことによる生活価値観の変化⇒少子化、郊外化が進展し都市圏中心都市の縮退、政治体制の変化(旧東欧諸国で1990年代以降、地方都市の人口減少が継続している)などです。これらが別々に人口動態に影響しているのではなく、重奏して都市縮小現象を引き起こしています。21世紀には、縮小都市が都市類型の基本的な1パターンになります。

 これまで我々は都市が成長し開発されることを前提に、都市政策/都市計画を編み出してきました。その意味では、都市を考えるのに際し、パラダイムの転換を求められています。都市が成長した時代=人口増加都市を支えた「都市社会システム」はどのようなものだったのか、そしてそれが崩れ、縮小都市時代を迎え、如何なる「都市社会システム」が生まれてきたのか、それを明らかにすることが本研究の課題でした。

 デトロイトとトリノを事例研究対象とし、2012年度、2013年度の2ヵ年間の研究助成をしていただきました。モーターシティに注目したのは、1)20世紀の産業化、あるいは経済活動のグルーバル化を牽引したのは、自動車産業である、2)車に依存し、郊外暮らしをよしとしたアメリカ的生活様式が地球規模で広がり、我々の暮らしをフラット化したが、その震源地はデトロイトであり、トリノであった――と考えたからです。結局、20世紀は、自動車と伴走した世紀でした。その両都市が20世紀後半に縮都市になったことを捉え、比較研究をすることにしました。

得られた知見:以下の知見を得ました。

1)デトロイトでは、都市再生の空間で「協働の起業スペース」「民間ディベロッパーの活躍」「都市農業の勃興」などの興味深い動きが広がっている。いずれも自生的、自発的な取り組みである。しかし、政府の影は薄い。
貧困地区を撤去し、大規模都市再開発をした時代のアーバンリニューアル(都市更新)では、連邦の補助金を得て都市政府が主導的な役割を果たしたが、レーガン時代以降、連邦の都市政策は後退し、税額控除制度(tax-credit)を活用する市場先導型の都市再開発が主流になったことなどが影響していると考えられる。
また、本来的にアメリカは「小さな政府」志向が強いことが、都市再生の場面で働く「都市社会システム」が市場重視型になることにつながっている、と思われる。

2)それに対してトリノの都市再生では、州政府/都市政府、それにEUが重要な役割を発揮している。政府が調整役を果たしながら水平的な協働/連携の「都市社会システム」が機能している。半面、民間の自生的、自発的な動きは乏しい。

3)両都市に共通しているのは、大学、文化機関などが都市再生の舞台で活躍していることである。特に、民間財団が、伝統的な活動領域(慈善活動)を超えて、スモールビジネスの育成や革新的な技術開発、コミュニティ支援で中心的な活動をしている。

 2都市の比較調査は、他の産業都市の縮小を考える際にも有益であり、貴重な知見を与えてくれた、と考えています。



2014年12月

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