サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 帝国化する中華人民共和国のアフリカ援助外交に関する学際的研究

研究助成

成果報告

人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成

2012年度

帝国化する中華人民共和国のアフリカ援助外交に関する学際的研究
― アフリカ諸国における独裁政権と銅像等の巨大建築物群の創成を中心として ―

信州大学教育学部教授
阿久津 昌三

 本調査研究は、中華人民共和国(中国)のアフリカ援助に関して研究するものである。中国は上海万博のアフリカ展に表象されるようにアフリカ諸国との強固な連携体制を構築している。希少資源をめぐる競争でも中国の資源外交はその見返りとして援助外交の巧みさによって欧米諸国や日本に先んじており脅威とも認識されている。本調査研究は、アフリカ諸国における中国の援助の実態を解明することが目的である。
 中国は、2012年2月にエチオピアの首都アディスアベバに総工費2億ドル(約15億円)を出資したアフリカ連合(AU)の本部を完成させた。これは中国の援助を永遠に記憶する装置となるであろう。また、アフリカ諸国の都市部における政府官公庁ビル、国会議事堂、サッカースタジアム、防衛省、銅像等のシンボリックな建築事業にも表現されている。アフリカの都市が急激に変貌していると同時に、都市と農村との格差が生じている。
 独立後に援助外交の旗手であった中華民国(台湾)との国交断絶という事態もあり、現在ではアフリカ諸国のなかで台湾を承認しているのはブルキナファソ、サンタメ・プリンシペ、スワジランド、ガンビアの4か国となっている。これは台湾の「外交休兵」政策によるものであるとともに、中国の影響力によるものである。中国のアフリカ政策の目的には、統一中国、すなわちアフリカからの台湾政府放逐が根底にある。望月敏弘は、2012年9月2日から9月9日の日程で、台湾の国史館、中央研究院近代史研究所、国家図書館の研究機関で資料収集を実施した。我が国では台湾のアフリカ援助に関する研究がほとんどなされていないが、戦後台湾のアフリカ外交を専門とするA氏と面談して情報交換及び意見交換を実施した。また、B氏との面談で、大陸に比べて研究は活発ではない状況にあるが、民主化の成熟を背景として、より学術性を備える客観的な分析が着々と進められていることが明らかとなった。
 尖閣諸島の国有化が発表されて以降、中国でデモが発生するという厳しい政治情勢のなかで、ウスビ・サコは、2012年12月25日から2013年1月6日の日程で、中国におけるアフリカ出身ビジネスマンの商売環境と定着プロセスを主題に、上海、義鳥、南京、北京、広州において調査研究を実施した。アフリカに向かう中国人に対して、アフリカから中国に向かう人たちの実態に関して、中国の商取引の拠点で聞き取り調査を実施した。阿久津昌三とウスビ・サコは、2013年3月16日に、立教大学平和・コミュニティ研究機構主催の公開講演会「アフリカ=中国の紐帯」において研究発表を行なった。
 阿久津昌三は、2013年6月21日から30日の日程で、ケンブリッジ大学アフリカ研究所及び図書館にてアフリカ諸国の独裁政権と中国との援助外交に関する資料を収集した。これらの諸国では、「ワシントン・コンセンサス」(民主化・透明化・人権重視)から、国家主導の権威主義体制による経済成長モデルとする「北京コンセンサス」に移行している。また、2013年8月14日から9月3日の日程で、ガーナ共和国において調査研究を実施した。ガーナでは、中国の援助外交により国際劇場改修、軍兵舎及び防衛省建設、高速道路改修が終了し、現在、コトカ国際空港及びタコラディ港等の改修が進んでいる。ガーナで発見された沖合大油田の開発の影響もあるが、ガーナが西アフリカ地域の物流の中心となる「ハブ化」構想とも連動して、陸路、空路、航路のネットワークが形成されつつある。
 亀井哲也は、2013年8月17日から9月6日の日程で、南アフリカ共和国及びボツワナ共和国において調査研究を実施した。特に、中国批判の急先鋒であるボツワナのカーマ大統領の言動等の情報を収集した。アフリカ諸国のなかで、ボツワナは政府が順調に国づくりを進めている国家であるが、首都ハボローネでの都市開発に関する調査研究を実施した。

2013年9月

サントリー文化財団