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研究助成

成果報告

2011年度

東日本大震災後に於ける対外情報発信の在り方
― グローバリゼーションと危機対応の戦略的広報手法

政策研究大学院大学客員教授
薬師寺 泰蔵

 2011年3月11日に発生した東日本大震災及び福島原発事故は、国際社会において存在感が薄れ続けていた日本への関心を一気に集めることになった。それは悲惨を極めた自然災害に対する驚愕・同情、復旧に対する日本人の行動に対する驚きと敬意、市民間の支援の速さと政治判断の遅さに対する驚きなどが主な内容であった。こうした情報の海外への発信は主に海外メディア自身によるもので、彼らが日本側の情報提供の薄さと遅さにいらだつケースも多く窺われた。官邸、外務省、文部科学省他、一部のメディアやシンクタンクが行った対外発信への不満も同様であり、また多くは英語のみの発信であり、最も影響が大きい近隣諸国への中国語・韓国語の発信が考慮されていない。
 現在も政府及び国会事故調査委員会の報告他、主要な発信言語は矢張り日本語と英語のみである。
 そうした状況下で、殆どの外国メディアが信頼できる情報源から十分な外国語情報を得られず、取材を中心とした報道内容は、正確或いは公平な視点に欠けるものも多く、中には明らかな事実誤認、偏見に満ちた報道も散見される。
 一方、国内主要メディアは、当然とはいえ国内向けの情報発信を優先し、その状況は現在も大きな変化がなく、海外への正確な情報発信の遅れによる所謂「風評被害」が懸念される。

 国際社会の中で「顔の見えない国」であった日本が「姿の見えない国」に陥ることへの懸念から発足した「対外広報戦略研究会」(以下、当研究会)は、東日本大震災及び原発事故を機に、対外発信のあるべき方向性とその有効で効果的な方法を検討するため、この一連の震災関連報道状況に関する情報収集、分析、意見聴取を行った。
 その過程で、ニューヨークタイムズやBBCなど海外メディアの日本震災関連情報が震災直後の3月にピークを迎え同年5月から6月にかけて、震災発生前の情報量に戻り、2003年中国情報が日本のそれを上回って以来の「Japan Passing / Japan Nothing」或いはそれ以上に日本に対する関心の急激な減少を確認。こうした状況から、日本がグローバル社会で存在感を失わないために、当研究会は次の様な対外発信が基本的に重要であるという結論に至った。
 「巨大地震と大津波からの復旧・復興の経験を共有財産として国際社会に発信する」「客観的事実を迅速に発信する」「信頼できる情報源や各分野における代表的識者/研究者の分析を発信する」「正確な翻訳により発信する」「具体的事象とビジュアル(図表・写真など)を重視して発信する」「SNSなどのメディアが二次的、三次的に活用しやすい情報スタイルで発信する」「継続的に発信する」「一般国民の行動や思考などを含めた読み物として質の高い情報を発信する」

 当研究会は、発信対象を国内の対外広報関係者、海外メディアや内外有識者とした上で、インターネットの活用や紙媒体への論文・記事投稿は勿論、当研究会メンバーの他研究会セミナー等への参加の有効性なども検討し、試行。また、論文の多様な媒体への掲載を可能とし、対外発信関係者に広く発信するために、「読み物」としての質を考慮し、記事やインタビューまたは談話など、形式にも配慮。編集・発信が容易なものとなるよう、媒体の掲載分量に合わせた抄録による発信も検討中である。
 当研究会は、現在も定例会議を開催し、議論したテーマに沿い識者や官民関係者へのヒヤリング、さらに論文執筆・口述・聞き取りなどの作業を継続している。

2012年9月

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