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研究助成

成果報告

2010年度

創唱宗教における民間信仰受容による変化の総合的研究

大阪大学大学院文学研究科教授
武田 佐知子

 本研究のテーマである創唱宗教と民間信仰の狭間における宗教状況を明らかにするために、これまで計7回の研究会を重ねてきた。
 その当初から大きな課題となったのは、これまでの歴史学が創唱宗教の社会的展開の様相や、教義の系譜などに関心を持ってきたのに対し、民俗学では民間信仰の事例報告に重きをおいて、その地域的特性を明らかにすることに主たる関心を払ってきたため、その結果として両者の狭間における宗教状況については研究がほとんど見られないことだった。しかも、本研究の関心により近い研究成果が期待された民俗学においては、昭和初年の柳田国男や折口信夫の研究のレベルに止まっていることには驚かされた。
 このような研究状況は、本研究の重要性、必然性を裏付けることになった反面、本研究のテーマ設定の絞込みを迫られることも意味した。換言すれば、当初に計画していた全国的な事例調査を行い、その比較検討するのではなく、特定の事例に調査対象を絞ったうえで、多角的な研究アプローチを行う必要が生じたのである。そこで、本研究では、7月7日における習俗・行事に焦点を絞ることにした。なぜなら、「七夕」についての従来の理解が、我が国固有の「棚機つ女の信仰」に、中国渡来の「牽牛星・織女星の伝説」と「乞巧奠の行事」が習合したものとする根拠のない理解が定説となっているとともに、その民俗的行事・習俗が、神道や道教・仏教などに吸収された可能性があることによる。
 さらには、現在の「七夕」理解が、7月7日の行事・習俗の全てを、先験的に「七夕行事」と理解する傾向のあることも、「七夕」に焦点を絞った理由である。その典型的な事例として、『日本民俗地図』Ⅰ(昭和44年、国土地理院発行)における「七夕」の報告を挙げることができる。同報告では、「七夕」の「行事名称」として、本来の「七夕」のほかに、「七日盆」「盂蘭盆会」「施餓鬼」「虫送り」などを挙げ、また「七夕」の「行事内容」としては、「七夕飾り」のほかに、「提灯を吊るす」「魚を供える」「水浴び」「餅を食べる」などを挙げている。すなわち、七月七日に行われる行事・習俗は、その由来・意味を検討せず、全てを「七夕」と理解しているのである。にも拘らず、同報告以後、これらの事例報告についての批判的検討が行われていないのである。
 そこで、従来の「七夕」についての研究史を、天文学や国文学の視点からも批判的に検討するとともに、7月7日の行事・習俗について、それを先験的に「七夕」とするのではなく、あるがままの行事・習俗について現地調査し、その本質を考えることとし、2度の現地調査を実施し、その後も現地調査を継続している。その調査結果の分析は現在進行中であるが、新年度の研究テーマ「7月7日の習俗について」に引き継がれることになろう。

(2011年9月)

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