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研究助成

成果報告

2010年度

議会事務局の未公開資料による憲政史研究の新展開

京都大学大学院法学研究科教授
大石 眞

 本研究は、両議院事務局に遺されていることが新たに判明した膨大な未公開資料群の活用を通して、従来の公刊資料からは判明しなかった立法・政治過程の裏面を解明し、より立体的な近現代日本の憲政史像を提示しようとするものであるが、この一年間の研究活動の概要は、以下の通りである。

1 まず、資料調査としては、(1) 衆議院事務局所蔵の資料群について、科学研究費補助金(基盤A「衆議院事務局未公開資料群に基づく議会法制・先例と事務局機能研究」、研究代表:大石 眞)と連携しつつ、前年度に引き続き、『各派交渉会史料』(明32〜昭20)の翻刻・目録化などを進めた。
 (2) 参議院事務局所蔵の資料群については、前年度に発掘した参議院文書課保存の貴重な現行憲法関係資料「萍(うきくさ)憲法研究会」――当初「月曜会」と称した――関係の記録の利用について、参議院憲法調査会事務局と協議して検討を進めることにした。また、新たに、参議院関係の重要資料として、侍従次長・貴族院議員・参議院議長などを歴任した河井弥八氏の文書と日記が掛川市教育委員会に遺されていることが判明し、現地調査を行うとともに同市教育委員会との連携の協議を行い(大石・赤坂・奈良岡が参加)、年度末の河井記念館の開館に向けた記念事業への協力についても検討した(2011年6〜8月)。
 資料調査の一環でもあるオーラル・ヒストリーについても、前年度に引き続いて、共同研究者である赤坂・奈良岡・牧原を中心に、衆参事務局の元事務総長・調査局長などから順次聞取りを行い(2009年9月〜11年7月)、その成果を資料として刊行した(『谷福丸』 『指宿清秀』『近藤誠治』『今野彧男』『佐藤吉弘』、2010年3月〜11年10月)。これにより、両院における議事運営や議事法の運用過程などについて解明を進めるための基礎作業がほぼ整った。今後、これらを活用した近現代の憲政史研究が進むものと期待される。

2 研究成果の公刊も着実に進み、オーラル・ヒストリーの成果を利用した共同研究者の赤坂・奈良岡編『国会運営の裏方たち』『立法過程と議事運営』や同じく原田による解説付き『議事解説』を刊行するとともに(信山社、2011年7月・10月)、代表研究者を始めとして議会運営に関連する論考も多数発表した(例えば、大石「立法府の役割と課題」衆議院調査局『Research Bureau論究』7号、「議院内閣制と議会の役割――政権交代の試練」公共政策研究10号〈ともに2010年12月〉、赤坂「統治システムの運用の記憶――議会先例の形成」レヴァイアサン48号〈2011年4月〉など)。

3 本研究として連携して四半期毎に例会を開催している憲法史研究会は、2010年に2回(9月4日、12月4日)、そして2011年になって2回(3月5日、6月4-5日)開催し、近現代日本の憲政史に関わるテーマ、とくに両議院関係と「ねじれ」問題、その議事運営上の問題のほか、明治憲法における信教の自由、人間宣言の成立経緯などについて報告者を依頼し、討論を行った。
 ここで特筆すべきは、2010年9月4-5日に開催した合宿研究会である。京都駅からマイクロバスで移動し、午後から福知山市にある芦田均(戦後の首相)記念館を訪れて各種資料を確認するとともに、芦田研究会代表の福永文夫氏(獨協大学教授)を招聘して「芦田均――戦前と戦後」などの報告をうけて、議論を行ったほか、知山市宿泊後の翌5日は、綾部市にある産業博物館「グンゼ博物館・記念館」を訪問して、担当者から詳しい説明を聴取し、質疑応答を重ねるなどして、明治29年創業以来の同社の歴史を通して近代日本の歩みを立体的に理解することができた。

(2011年12月)

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