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研究助成

成果報告

2008年度

地球温暖化防止を目指す北欧と日本:資源循環・企業経営・技術展開の総合的研究

同志社女子大学現代社会学部教授
長岡 延孝

 本研究は、地球規模の気候変動問題(低炭素化)と資源・エネルギー問題(循環型社会化)が緊急の課題となる中で、地域レベルで両者の整合性をどのように見出すのか、との問題意識を持って開始された。本研究は5名の参加者によって課題を分担しつつ行われ、その際、従来から進めてきたスウェーデンとの比較を念頭に置きながら取り組んだ。
 まず貫隆夫は、京都議定書の目標達成が困難となっている原因を企業の環境経営の実態に焦点を当てながら分析することに注力した。リサイクルによる循環的資源活用はコスト面での節約をもたらす可能性がある一方、低炭素化への効果については両義的である。つまり、省エネによる低炭素化はコスト節約効果があるものの、代替エネルギー資源への転換を伴う場合はコスト面での制約が大きくなる。スウェーデンのバイオエネルギーへの転換に代表される脱石油化の動きを日本の動向と比較するとき、後者の立ち遅れは否めない。北海道のように森林資源に恵まれ畜産の盛んな地域でさえも、バイオエネルギーの活用は北海道マイクロエネルギー社のようなベンチャー的な段階にとどまっている。
 吉井康雄は製造業における環境保全への取り組みについて調査した。企業の持続的発展のために利潤追求と環境保全を同時に達成する必要があるが、これに関して日本では複写機などを生産しているリコーとスェーデンではトラックなどを生産しているボルボを調査対象とした。つまり中期計画への織り込み、研究開発段階、設計段階、生産段階での取り組みについて比較可能な形で取り組み成果をまとめた。加えて、代替エネルギーとして小形風力発電装置を開発している神鋼電機の環境ビジネスに対する経営戦略、装置産業を代表する住友金属工業鹿島製鉄所の薄板鋼板の製造設備における環境保全への取り組みについて調査研究を行った。
 長岡延孝は地域で取り組まれている循環型社会構築の動きに着目し、エネルギー集約産業のセメント業界で開始されているエコセメントの状況を調査し、これまで研究をしてきたスウェーデンのセメント工場との比較を行った。また、北海道旭川地域において、公共事業が削減される状況下で、従来型のコンクリート製造から徐々に転換しつつ、コンクリート構造物のコンサルティング業務をビジネスモデル化している企業を調査した。製造業からサービス業へと徐々に構造転換することで環境負荷を低下させる可能性がある。さらに、循環型社会の具体化としてのゼロエミション概念の展開を国連大学等で調査研究した。
 室田武は再生可能なエネルギーとしてバイオマスに注目し、エネルギー源の組み合わせの選択に関して日本のエネルギー政策の在り方をスウェーデンと比較しつつ調査した。日本については天然ガス田、およびバイオマス利活用先進地の現地実態調査によることとし、現地で不明な点を文献調査とインターネット情報の収集で補った。スウェーデンに関しては、諸般の事情でまとまった現地調査の余裕がなく文献調査に依った。同国は国民投票で原子力発電所の順次廃止を決め、それに代わるものとしてバイオマス利用に多大な政策努力をしている。加えて、日本のバイオマス・エネルギー振興政策とそれに関係する民間の動きを調査した。その結果、黒液ガス化が今後の木質バイオマス利用の中で重要度を増してくるのではないかとの見通しが得られた。
 里深文彦は、北欧と日本の技術比較の観点から地球温暖化防止への示唆を得ようと考えた。つまり、「人間中心技術」に重点が置かれている北欧ではバイオマス燃料技術に注目し、ベクショー市の「化石燃料ゼロ」にむけた地域熱供給の導入の動きを中心に調べた。他方、日本では「共生技術」として伝統産業技術に着目し、建物ごと微生物の環境を守り続ける「むしろ麹製法」を調査した。加えて、古来の「たたら製鉄法」が原料の砂鉄や木炭の環境的側面に配慮していることから、それがどのように「近代たたら」として引き継がれているかを調査した。この研究成果を2009年7月にハンガリーで開催された第23回国際科学史学会で発表した。
 各メンバーの研究経過は4回にわたる研究会において報告、議論された。なお、本研究は数年前から行っている共同研究を継承・発展させるものであり、その研究成果は晃洋書房から2010年に出版される予定である。

2009年8月
(敬称略)

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